皆の憧れの生徒会長が女子生徒の瞳を弄るだけのお話
思い付きだけで書いた話です。少しでも暇を潰していただければ幸いです。
私立聖凛高等学校。今どき珍しい女子校で――所謂、お嬢様学校だ。
その偏差値は高く、進学率も周りに点在する他の学校と比べて抜きん出ている。また文武両道を標語とし、部活動にも力を入れ――特に吹奏楽部は、毎年全国で行われるコンクールで、金賞の常連となっているほどである。
しかし、そんな通っているだけでステータスと言われるようなこの学校には、意図しない不名誉な別名があった。
その名も、『百合高』。小中高一貫のせいで男性との交流が絶望的なため、同性愛に目覚めてしまった女の子が多い――そんな噂のせいで付けられた異名である。
もちろん、実際はそんなことはない……というわけではなかった。事実、この高校にはレズビアンの生徒が多数在籍していた。
しかし、それは詮無きことなのかもしれない。思春期を迎え、身体共に成熟へと向かう最中――異性がいないのならば、身近な同性に走るしかない――そんな考えを、誰が否定できようか。少なくとも、彼女達が通う聖凛高校の中で真っ向から否定する者は皆無だった。
そんな昔から同性愛者が多かった聖凛高校なのだが、特に今の代は、その数は段違いだ。
その要因の最たるものが、現在の生徒会長にある。
聖凛高校三年生、烏丸純――他の候補者を圧倒する票数で生徒会長の座に着いた、カリスマ性溢れる生徒だ。その成績は学年でもトップクラス。また剣道部の部長でもあり、そちらの実力は、小学生の頃から全国大会で何度も優勝を果たしているほどである。
また聖凛高校生徒会長という肩書に相応しく、その風貌は非常に凛としており――しかも、それでいってその一挙一動に優しさが滲み出ているような――まさに皆の憧れと言える存在であった。
生徒会長演説に惚れた、剣道着姿に惚れた、落としたものを拾っていただいて惚れた――そう語る女子生徒は少なくない。いや、たいへん多かった。
だが、皆は知らなかった。
憧れの生徒会長には、秘密の一面があることを。
*****
落ちかけの夕陽色で染まった、紅い校舎。その一角の、茜色の教室。
そこで、女子生徒は目を覚ました。
「……? ここ、どこ?」
女子生徒は上半身だけを起き上がらせて、辺りを見回す。
普通の教室の半分程度の広さには、会議用の長机と、パイプ椅子が六脚。入口のドア横に並べられた本棚には、何かの資料やファイルが所狭しと納められており――黒板の代わりに置かれたホワイトボードには、黒いペンで様々なことが箇条書きされていた。
女子生徒には、この場所に見覚えがあった。以前、彼女が所属する文芸部の用事で、一度だけ訪れたことのある場所だ。
「……生徒会室? あたし、何でこんな所に……?」
その、玉のような汗が浮かぶ額に手を当て――女子生徒は、自分が何をしていたのかを思い出そうとする。
と、その時――不意に入口のドアの開く音がして、女子生徒は驚いてそちらに目をやった。
「おや? 起きたのかい、瞳さん」
現れたのは、学校指定の白い半袖のブラウスにチェックのスカート、そして首元にはしっかりと赤いリボン――夏用の制服に身を包んだ生徒会長であった。
「ふえあっ!? せ、生徒会長!?」
いきなりの生徒会長の登場に、女子生徒は仰天して立ちあがった。
その顔は一瞬で紅潮し、わなわなと緊張するように肩が震える。何を隠そう――この女子生徒も、生徒会長のファンの一人であった。
「ふふ……。どうしたんだい、瞳さん? そんなに慌ててしまって」
「あ、あ、い、いえ……。……あ、あれ? あたしの、名前……?」
生徒会長は小さく口元に笑みを浮かべると、口を開いた。
「一年B組、出席番号十四番、佐久良瞳。誕生日は二月八日の、水瓶座。血液型はA。文芸部に所属」
女子生徒は再び驚いた。生徒会長が今しがたスラスラと言ってのけた情報が、全て自分自身に一致するのだ。
そんな目を見開いている女子生徒の様子を確認し、生徒会長はくすりと笑った。
「生徒全員の簡単な情報は、出来るだけ覚えようと努めているんだ。と言っても、結構うろ覚えな部分も多いんだけどね……」
「そんな……十分お凄いです、会長! さすが会長です!」
「ふふ、ありがとう。でも凄いと言えば、瞳さんも――夏休みに入って間もないというのに、図書室で勉強かい? 凄いなぁ。私が一年の時なんか……部活か、遊んでばかりだったな」
「そ、そんな……あたしは、ただ暇だったもので……」
言葉を返しながら、女子生徒は自分が何をしていたのかを思い出していた。
――そうだ。自分は今日、図書室に宿題をやりに来たんだった。しかし、それなら何故、あたしはここ……生徒会室に?
記憶の失われた部分をどうにかして掘り起こそうと、女子生徒は頭を抱える。
するとその時、ふと、女子生徒の頬を生徒会長が撫でた。
「ひゃやッ!? な、何を……!? くっ、ふぅっ……!!」
驚くと共に、女子生徒の体は一瞬ビクッと震えた。その頬は――いや、顔全体は一気に紅を通り越して緋色に染まっていき、頭頂部からは煙すら噴き出してしまいそうだ。
憧れの人が、優しく自分を愛撫してくれている――それは、女子生徒が『感じる』には十分すぎるほどの刺激だった。
「綺麗だ」
生徒会長は、女子生徒の『瞳』を覗き込みながら、ボソッと呟く。
「潤んだ『瞳』――キラキラと輝いている。綺麗だよ、瞳さん。キミの『瞳』は、とっても……」
「……会長?」
生徒会長の両手が、優しく女子生徒の頬を両側から包み込む。その、まるで子猫を触るような手つきが、さらに女子生徒を敏感にさせた。
「ひぅあぁッ! ひっ、ふっ……か、会長ぉ……」
女子生徒の足はガクガクと振動していた――もはや立つことも難しいほどに。そしてその表情には、艶の字が浮かんでいた。
グッと、生徒会長の顔が女子生徒に近づいてゆく。もはや互いに目と鼻の先だ。
見つめあう二人。生徒会長の『瞳』に、女子生徒の姿が映っているのが分かる。
胸の高鳴りと共に、女子生徒の唇が微かに揺れた。
「力を、抜いて」
「は、はひっ……!!」
掠れた声で返事をする女子生徒。
次の瞬間――生徒会長の左手が、女子生徒の左の上瞼を押し上げたかと思うと――生徒会長はおもむろに、女子生徒の左目を舌先で舐めた。
「えッ!?」
途端に膝が折れ、女子生徒はその場に崩れ込んだ。自分に何が起こったのか分からないまま、思わず左目を手で覆い隠す。
女子生徒は混乱していた。憧れの存在と唇が重なり合うほどの距離にまで接近していたというだけでも驚きなのに、その憧れの存在に、いきなり目を舐められたのだ。混乱しないという方が無理だった。
「なん……え……っ?」
何度もシパシパとまばたきを繰り返し、女子生徒は目の前の生徒会長を見上げる。
すると生徒会長は、妖艶に舌舐めずりをしてみせた。
「私はね、瞳さん……小さい頃、ビー玉が好きだったんだ」
ゆっくりと女子生徒の前にしゃがみ込み、ソッと彼女の髪を撫でおろしながら、生徒会長は言葉を続ける。
「光り輝く、最高の美の形――それに、小さかった私は魅了された。来る日も来る日も、毎日飽きもせず眺め続けていた……。でもある時、私は見つけてしまったんだ。ビー玉を超える、究極の美を」
再び生徒会長の『瞳』に女子生徒が映る。同時に、女子生徒の『瞳』にも生徒会長の姿が入り込んでいた。
「この美しさは、とてもじゃないけど作り物では生み出せない。あぁ……綺麗だよ、『瞳』さん」
「ひぅっ……!?」
危険――それを、女子生徒は瞬間的に感じ取った。
そして女子生徒は自身に触れている生徒会長の手を撥ね退けると、床に手をつきながら慌てて立ち上がり、転びそうになりながらも、そのまま弾かれたように教室を飛び出していった。それらの行動は、ほぼ本能によるものであった。
ひとり教室に残された生徒会長は、女子生徒が勢いよく開け放っていったドアを見つめ、小さく微笑んだ。
生徒会室を後にした女子生徒は、足を休めることなく走り続けていた。
しかし、なまじ混迷していたために、明確にどこそこに向かおうという考えはなかった。ただひたすら、生徒会室から出来るだけ遠い場所を求めて足を動かしていたのだ。
そのせいか、女子生徒はいつの間にか旧校舎に迷い込んでいた。
現在の旧校舎は、文化系の部活の主な活動場所――つまり、部室棟となっていた。だが夏休みの、しかも日もほとんど没した頃――未だ部活動に勤しんでいる者は皆無であり、旧校舎は不思議なほどにシンと静まり返っていった。
「はぁ……はぁ……あ、あれ?」
しばらく走ったところで、ようやく女子生徒は、自分が学校の出入り口とは真逆の方向に向かっているということに気が付いた。
しかし、今さら来た道を引き返すのは、その途中で生徒会長と遭遇してしまいそうで怖い。それに、もともと運動が苦手だった女子生徒の足は、既に限界を迎えつつあった。
回らない頭で考え――その結果、女子生徒は適当な空き教室に入り、そこの教卓の下に身を隠すことで一旦体を休めることにした。
「はぅ……ふぅ……」
教卓の下で何者にも見つからぬよう身を小さくし、女子生徒は肩で息をしながら呼吸を整える。
同時に、何故こんなことになっているのかについて、思考を巡らせた。
――憧れの生徒会長は、とてもじゃないけど普通の方ではなかった。あの人は、何の躊躇も見せることなく、あたしの眼球を舐めた――ペロリと、まるでソフトクリームを舐めるかのように……。
女子生徒は軽く、手で左の目を押さえた。舐められた瞬間のゾワッと身の毛のよだつ感覚が、微かに蘇った。
――どうなるかは分からない……いや、想像したくもないけど、会長に捕まるのは危険だ。私の中の全神経が、今もそう訴えかけている。いつの間にか生徒会室から逃げ出せていたのは、本当に幸いだった。……そういえば、どうしてあたしは生徒会室にいたんだろう? 図書室で勉強していたはずなのに? 記憶に、穴がある。
グルグルと脳を回転し、記憶の海を掻き分け、女子生徒は過去の自分にスポットライトを当てた。
数時間前――女子生徒は鞄に問題集と参考書を詰め込んで、人のまばらな学校にやって来た。生徒玄関で内履きに履き替え、真っ直ぐに図書室へと向かう。そして、クーラーから涼しげな風の漂う中、彼女はしばらく目の前の宿題に勤しんでいた。
――それなのに、気が付けば生徒会室で倒れていた。一体、図書室で何があったんだっけ……?
と、その時、ふと甘い匂いがしてきたのを感じ、女子生徒はハッとなった。
――この匂い……そう、まるで大量の砂糖菓子に囲まれているかのような、この甘ったるい香りだ。図書室でもこの匂いを嗅ぎ……そして気が付いたら、こんなことになっていたんだ。……それにしても……この匂い、どこから……?
女子生徒は体半分だけを教卓から出すと、右、左と辺りを見回した。だけど、変わったものは何もない。
しかし、何もないはずがない。こんな匂い、今まで嗅いだことがないのだ。
そう思った時、女子生徒の体が一瞬、ブルッと震えた。何かにジッと見られているような嫌な感覚――それを彼女は感じ取った。
だが、周辺には何もない。右にも、左にも、前にも……。
「……上?」
震える唇で小さくそう呟くと――次の瞬間、女子生徒はバッと頭上を見上げた。
そこにあったのは、白い天井だった。それと、黒板と教卓の端の方が見える。おかしいと言えるようなものは、特に何もなかった。
「気のせい……か」
フゥと、女子生徒は安堵の息をついた。
その刹那、いきなり後ろから布で口と鼻を塞がれ、女子生徒は悶え苦しんだ。
香ってくるは、強烈なほどに甘い匂い。
そして女子生徒は、また混沌とした眠りに落ちていった。
再び目を覚ました時、女子生徒は見覚えのない場所で、両手を縄で縛られていた。その縄の先は天井に取り付けられたフックのようなものに掛けられ、そのまま床にまで垂れている。
――ここは一体……?
ボーっとする頭でそう思った時、女子生徒は、すぐ近くに生徒会長が立っていることに気が付いた。
「ひぃっ!?」
恐怖で顔を歪ませ、悲鳴を漏らす女子生徒。それに対し生徒会長は、いつも通りの爽やかな口調で、
「よく寝てたね、瞳さん。ふふ……勉強のし過ぎで疲れてしまっていたのかな?」
そう言うと、生徒会長は縄の先の方をギュっと手で握り、それを一気に――力いっぱい、自分の方へと引いた。その縄に引っ張られ、女子生徒は半ば強制的に体を起こされ、未だ微かに膝の笑っている足で立たされてしまう。そしてある程度引っ張ったところで、生徒会長は持っていた縄の先を、床にあるまた別のフックに結びつけた。
「か、会長……何で、何でこんなこと……!?」
腕を頭上高くに吊り上げられ、ろくに身動きもままならない状態で、女子生徒は涙をこぼしつつ訴える。
それとは逆に、生徒会長は満面の笑顔だ。
「だから言ったろう? 私は、キミのその美しい『瞳』が堪らなく好きなんだ」
生徒会長は、女子生徒との距離を一気に詰める。
「ここはね、今は無き写真部の部室なんだ。良い部屋だよ……暗幕のお陰で外に光は漏れないし……それに旧校舎の中でも特に奥まった所だから、どれだけ大声を出しても大丈夫なんだ」
そして、その華奢な肩に、まるで撫でるように手を置くと――ベロンと大きく出した舌で、女子生徒の目の周りを舐めあげた。
「あぁう……やぁぁあっ……」
泣きながら、女子生徒は反射的に目をつぶる。
しかしそれでも、生徒会長は止まらない。むしろ少しずつ、段々と、女子生徒の体に密着していく。細い首に腕を回し、胸を擦り付け、足を絡ませ、荒い息遣いと共に、女子生徒の目を舐め続ける。その顔は、完全に上気していた。
「ん、んっ……あふ……っぷはぁ……。はぁ、はぁ……。瞳さんの涙……ふふ……しょっぱくて、おいしい」
「ひぅっ……えっく……会長ぉ、やめてください……。あたし、こんなの……」
「やめる? それは無理だよ。私に、もはや理性なんてものはない。後はただひたすら本能に身を任せ、獣のようにキミを愛することしか出来ないんだ。ほら、次は『直接』舐めてあげるよ……」
女子生徒が頑なに拒否しているのを無理矢理にこじ開けて、生徒会長はその秘所を舐めた。最初は優しくねっとりと――次第に激しさを織り交ぜながら――。
そしてその度に、女子生徒の全身にゾワゾワとした何とも言えない感覚が駆け巡った。
「いや、いやぁぁああぁああっ!!」
「あぁ……綺麗だ、瞳さん。キミの『瞳』はとっても……。うっ、く……ふわぁあぁ……い、イイよ、瞳さん!」
自分の口の周りが涎でベトベトになっても構わない。女子生徒が幾ら泣き喚いても構わない。そして彼女の目に、自分が如何に淫靡で浅ましく映っていようと、生徒会長は一向に構わなかった。
いや、むしろ生徒会長は、女子生徒の『瞳』に見える自分自身の猥らな姿に、より一層の興奮を覚えていたのかもしれない。
どちらにせよ今の生徒会長には、凛とした皆の憧れというものは影もなかった。その姿はもはや、他の諸々を全て排除して、ただ唯一の快感だけを貪る、野卑な狂人だった。いや、『人』であるかも怪しい。
それからどれほど経っただろうか――女子生徒の両の目が舐められ、吸われ、一面が涎で汚れてしまった頃――不意に彼女の『瞳』は解放された。
その未だ辛うじて機能していることが奇跡的な目には、クネクネと身を捩じらせて悶える、かつての憧れが映る。
「あ……駄目だ、もう我慢できない……。まさかこんなに早く来るなんて……すごいよ、瞳さん……やっぱりキミは最高だよ。正直、予想以上だ……。くうっ……あひぅ……!?」
二度三度ほど、生徒会長の体がブルブルと揺れた。朱に染まり、口元からはおびただしいほどの涎を垂らしているその顔には、恍惚と苦悶が入り雑じり、乱れている。
「ふきゅっ……!? ッ……はぁ、はぁ……限界だ……」
その瞬間、生徒会長は女子生徒の体に抱きついた。今までで一番近い距離――互いの胸を押し潰してしまいそうなほどに圧迫し、頬を擦り寄せ、細かな息遣いや心音すらも感じ取ってしまうほど距離だ。
生徒会長は、虚ろな目でジッと遠くを眺めているだけの女子生徒の耳のたぶを数回食むと、優しく甘い声で囁いた。
「私は、もしかしたら少しSっ気があるのかもしれない……。最近はこれでないと、すっかりイケなくなってしまったんだ……。だから……お願いだ、瞳さん……挿入れさせてくれ……」
「……え……?」
その言葉で、女子生徒はフッと意識を取り戻した。
しかし、もはや何もかもが遅い。気が付いた時には既に彼女の片目は、生徒会長の指によって強制的に大きく、限界まで見開かされていた。
「すごい、ヒクヒクしている……。瞳さん、初めてだから痛いと思うけど……私、もう無理なんだ。……我慢してくれ」
「あ、へあっ……何……会、長……?」
その刹那、女子生徒の『瞳』に、今までとは違った硬いものが押し当てられたかと思うと――それは一気に、彼女を貫いた。
「うぎっ、あぁあぁあああぁあああぁぁあああっっっ!?」
「うぁ……にゅっ、くふ……んんあぁあぁあああぁああッッッ!!」
張り裂けんばかりの悲痛な叫び声と、快楽に身を堕として絶頂を迎えた雌の喘ぎ声――それらが同時に響き渡る。
そして二人は互いに体を支えあいながら、ビクビクと痙攣を繰り返した。
「ふごっ……ひゅごいよぉ、瞳さん……。んくっ、あっ……瞳さんの、瞳さんの中……暖かくて……ふっ……包み込んでくれる……」
依然、女子生徒の『瞳』に親指を突き刺したまま、生徒会長は甘美な声で呟く。その表情は、これ以上はないというほどに陶然としていた。
一方、女子生徒は泣いていた。いまだかつて味わったことのない痛みに全身を慄かせ、途切れ途切れの意識の中、ボロボロと――。
その『瞳』には、もはや何も映っていなかった。
「良かったよ、瞳さん……すごく良かった……気持ちよかった……」
ゆっくりと、生徒会長は指を引き抜く。そしてガクガクと揺れる足に逆らわず、そのまましっとりと濡れる床にペタンと腰を下ろした。
座ったまま状態で、気持ちよかった、気持ちよかったと、生徒会長はうわ言のように繰り返す。その時、ふと目の前の女子生徒を見上げると、彼女の空虚な『瞳』と目が合った。その『瞳』の鈍い光は、生徒会長には催促の意思のように見えた。
生徒会長はいやらしく舌舐めずりをすると、自らの親指をしゃぶりながら、再び立ちあがった。
「そうだね……まだ……まだ終わりじゃないよね。だってほら、キミの美しい『瞳』は、まだもう一個あるものね……。まだ……そう、まだ……。ゆっくり楽しもう……夜はこれからなんだ……ね?」
ギュッと、生徒会長は女子生徒を優しく抱きしめた。
女子生徒は、生徒会長に体を預けながら、ひたすら泣いていた。
*****
秋の始まり。それは夏休みの終わり。
聖凛高校も他の学校と同様に、新しい学期を迎えた。生徒達は続々と登校し、先生及び生徒会の役員は校門の所で、そんな生徒達に元気よく挨拶をしていく。
そんな中、生徒会の副会長が不意に溜息をついた。
「どうしたんだい?」
隣にいた生徒会長が、副会長の溜息に反応を示す。
「いや、その……皆の元気な姿を見てたら、行方不明になった一年生の子のことを思い出しちゃって……」
「あぁ……。そういえば、二人は同じ文芸部で、仲が良かったんだったな」
晴れない顔で俯きながら、副会長はコクリと頷く。そんな副会長の肩に、生徒会長は後ろからソッと手を回した。
「でも、キミがそんな顔をしていては、皆が……いや、それだけでなく――瞳さんも、きっと悲しむよ」
「純……うん、そうね。瞳のためにも、無理してでも笑わなくちゃね!」
バッと、副会長は顔を上げると、半ば無理矢理に笑みを浮かべ――校門をくぐる生徒たちへの挨拶を再開した。生徒達も眩しいほどの笑顔で、それに応える。
そんな朝の麗しい光景をしばらく眺め、生徒会長は小さい声で呟いた。
「皆、綺麗だな……。キラキラと、輝いて……ふふ……」
その時の生徒会長の舌舐めずりに気付いた者は、誰もいなかった。
良い子の皆は、女の子の『瞳』に悪戯してはダメだゾ☆(生徒会長より)