なぜか親友と付き合った幼馴染が俺の家まで来た
「葉月帰るか」
学校終わりに俺、前原遼は幼馴染で同クラスの茅野葉月に言った。
彼女とは保育園からの付き合いで、家が近いのでよく一緒に帰っている。
そして、俺はそんな彼女を中学生のときから好きであった。
いや、好きという感情に気が付いたのが中学生になってからなのだろう。
俺が葉月に言うと、何やらいつもとは違う感じがした。
葉月は俺から目線を逸らしながら、自身の短い茶髪をいじりっていた。
普段の葉月なら、もっと陽気なはずだ。何か悩みでもあるのだろうか。
「なんかあったのか、葉月」
教室の自席に座ったままで、一向に立ち上がる気配のない葉月にそう言った。
周りのクラスメイト達は少しづつ減っていき、気が付けば葉月と二人だけになっていた。
俺はいつもと違う葉月の様子を、息をのんで見守る。
「ごめん、遼くん。私、海翔くんと……付き合うことにしたの。だから、前みたいに一緒に……帰れないかも……しれない」
葉月はところどころ言葉を詰まらせながらそう言った。
その言葉を聞いて、心をギュッと握り潰されたような感覚がした。
海翔とは同じクラスのサッカー部に所属している深山海翔のことだ。
高校に入学してから仲良くなった、俺の唯一無二の友人だ。
そんな二人が付き合い始めたと知り、俺は祝福する気持ち半分と、行く当てのない黒い感情でいっぱいになった。
「だから、さようなら。遼くん」
葉月は、俺から逃げるようにして去って行った。
その時だった、葉月と入れ替わるかのように、海翔が教室へと入ってきた。
海翔は部活着に着替え、首には青色のタオルがかけられていた。
これから部活なのだろうか。
俺はそんな海翔を見て、なんとも言えない気持ちになった。
海翔は大切な親友だ、でも、葉月を奪っ……いや、そもそも葉月は俺のものでもない。
なんでそんなことが言えるのだろうか。
葉月が海翔と付き合ったのも、何年間も自信が持てず、ヘタレ続けていた俺が悪いのだ。
いや、葉月が俺のことを好きだったという全提が間違っているのだ。
葉月は、俺のことを好いてなどいなかったのだろう。とんだ自意識過剰だな。
「よう、遼! さっき葉月が猛ダッシュで下駄箱の方に向かったけど、なんかあったのか?」
海翔はいつも通り、何食わぬ顔で俺の背中をバシッと叩いて笑いながらそう言った。
俺にとっては、そんな海翔の姿があおりに見えた。
でも、元はと言えば、俺が悪いのだ。ぐうの音も出ない。
「いや、なんでも?それより海翔、部活はいいのか?」
「まだ大丈夫だ。それより聞いてくれよ!」
海翔はそういうと、俺の目の前の机をバシバシと叩きながら、陽気にそう言った。
なんなのだろうか、部活での自慢話なのだろうか?将又、この前の小テストの点数自慢なのだろうか。俺は、海翔の自慢話に期待していた。
だけど、現実は残酷というものなのだろうか。
海翔は、俺が一番してほしくない自慢話をしてきた。
「いやさ。部活の前に葉月がクッキー作ってきてくれたんだよ!マジでうれしかった!」
俺は拳を握る力を強めた。
なんで、この状況でそんなことを言うのだろうか。
いや、海翔は状況など知らないのだ。惚気話を友人にするぐらい、普通の行動であろう。
でも俺は、この状況からいち早く立ち去りたかった。
「そうなのか、それはよかったな。あ、俺この後用事があるから、また明日な!」
俺はそう言って、逃げるようにして海翔から離れていった。
窓から差し込む夕日に当たり、赤く染まっている廊下を走って下駄箱へと向かう。
これが夢であったら覚めてほしいと、俺は思った。
* * *
遼が去った後、海翔は一人、教室で深いため息を吐いた。
外ではもうとっくに部活が始まってしまっていて、サッカー部の掛け声が聞こえていた。
「まぁ、こんな感じでいいのかな。ちょっとやりすぎちまったか」
海翔は、まどの外を眺めながら、一人でそう呟いた。
* * *
俺はその後、家で気晴らしにゲームをしていた。
だけど、全く気が乗らない。いつもはやってて時間を忘れるぐらい楽しいのに……
そのとき、俺の家のインターホンが鳴った。
誰かきたのだろうか。俺はゲームの電源を落とし、虚な目をしながら玄関へと向かった。
「どなたですか……って⁉︎」
俺はドアを開けて、目の前にいた人物に驚愕した。
前までなら驚いてなどいなかったのだろう。でも、今は訳が違うのだ。
「葉月……?」
「来ちゃった」
そう、俺の目の前にいたのは葉月であった。
葉月は右手を少しあげ、ぎこちない笑顔を浮かべながらそう言った。
俺は心がキュッと締め付けられるような感じがした。もっと、もっと早く気持ちを伝えてれば結末は変わったんじゃないかと思った。
「なんかあったのか?」
俺は虚気に、いかにも元気がなさそうにそう言った。
すると葉月は、「こんなところで話すのもあれだから家に入れてよ」といい家の中へと入ってきた。
葉月はリビングにあったソファに座った。
そして、隣をポンポンと叩き、座るように促した。
「……ねぇ遼くん……」
その後、少しの間静寂が続いた。
だが、その静寂を破ったのは葉月の俺を呼ぶ声だった。
その声は、少し暗く、いつもの明るい葉月からは想像できないような声であった。
俺は葉月の方を振り向き、目から溢れ出そうになる涙を堪えた。
「怒らないの……?何年も一緒に帰ってた私が、急に他の子と付き合うからって帰らないって言い出したの……」
俺は、葉月の言ったことが不思議で仕方かがなかった。
怒る?何にだ。俺は自分に対して一番ムカついていて怒っているのだ。
なんでもっと、なんであのとき……
最後に葉月に俺の本心を告げたい。軽蔑されようが、絶縁されようが、この気持ちを伝えないのは野暮というものだ。
俺は葉月の方を向いて、優しい声でこういった。
「別に、怒ったりなんかしないだろ……ただ……」
俺はここで口篭ってしまった。
そもそも、葉月は海翔と付き合ったのだ。そんな時に、俺が葉月を好きだなんて言ったら、混乱させてしまうだろう。
でも葉月は、そんな俺を許さなかった。
「『ただ』どうしたの?ねぇ教えて、遼くん」
葉月は、俺に詰め寄るようにして、距離を詰めながら近寄ってきた。
言えない、言える訳がない。でも、言いたい。
俺はどうしようかと頭がグチャグチャになっていた。
なんとかして答えなくては。
「ただ……悔しいんだ……」
俺はまだ考え途中なのにも関わらず、気がつけばそんなことを口走ってしまっていた。
俺の本心は、やっぱり葉月を諦めきれていないのだと思った。
そんな俺に、葉月は真剣な顔で詰め寄ってきた。
その間はほぼゼロに等しい。少し間違えればお互いの体が触れ合ってしまう距離にいた。
「なんで……悔しいの?」
ダメだ。これ以上言ったら、俺のせいで葉月と海翔の関係が壊れてしまう。
俺は黙ろうとした。だけど、抑えきれなかった。
抑えきれない思いが、気がつけば俺の口から飛び出してしまっていた。
「悔しいに……決まってるだろ。何年も、葉月に見合う男になるために努力してきたんだ。でも、その努力も無駄だったなんて……悔しいに、決まってるだろ」
俺は葉月と目線を合わせないよう、少し顔を逸らしながらそういった。
葉月はどんな反応をしているだろうか……俺は気になって仕方がなかった。
でも、それにしても顔を合わせづらい。彼氏のいる幼馴染にこんなことを言ってしまったのだ。
普通に考えて、あり得ない行動だ。
「なんで……もっと早く言ってくれなかったの!私も、ずっと遼くんを好きだった……でも、海翔くんと関わっていくうちに……海翔くんのことも好きになっちゃったの……」
俺は葉月の方を向いた。
葉月は泣きながら、声を荒げてそういっていた。
遅すぎたのだ。俺が勇気を出せず、ヘタレてしまったせいだ。
すると、なぜだか葉月はニコッと優しく微笑んだ。
「……なんてね」
そんな葉月の言葉に、俺はびっくりした。
「なんてね」とはどう言うことなのだろうか。俺は思考を巡らせるが意味がわからない。
俺が言葉に詰まっていると、葉月は俺の手をギュッと握った。
「海翔くんと私はね、共犯なの……遼くんを騙してたの」
俺はさらに言葉を失った。
騙していたと言うのはどう言うことなのだろうか。
まさか、葉月は俺のことなんてなんとも思っていなかったのだろうか。
それとも──
次に葉月から飛び出した言葉は、俺の心臓のど真ん中を撃ち抜いた。
「海翔くんと協力して、偽の恋人になってたの。そしたら遼くんが焦って、その気になってくれるかな……って」
葉月は目からこぼれ落ちる涙を拭きながら、俺にそう言った。
俺はまるで地蔵のように硬直した。
リビングには葉月の啜り泣く声が響いていた。
俺は意を決して葉月の方を向き直り、口を開いた。
「ごめん。俺がヘタレで優柔普段だったから。待たせてごめん……」
俺が俯き気味にそういうと、葉月は俺に抱きついて泣きながら口を開いた。
「ごめんじゃないよ……私こそ、遼くんに告白してもらいたいからって騙してた。私から告白すればそれで済んだのに……」
その日、俺と葉月の十年以上にわたる長い両片思いはお思いもよらぬ形で幕を閉じた。
* * *
翌日の昼休み、俺は礼を言うために、葉月と二人で海翔を屋上に呼び出した。
海翔はどこかぎこちなく、いつものような元気さはなかった。
「ありがとう……海翔。やっぱり俺の一番の親友だ」
俺が海翔にそう言うと、海翔は照れながら、自分の右頬を人差し指でポリポリと掻き始めた。
そんな海翔の姿は、どこかかっこよく俺には映った。
「まぁなんだ。茅野さんに相談された時は驚いたぜ。まぁ、ハッピーエンド?なんだろ?彼女、大事にしろよな!」
海翔は俺の背中をバシッと叩き、いつもの雰囲気に戻ってそう言った。
「それより……昨日、あんなこと言って悪かったな。酷いこと言ってるって自覚はあったんだ」
「いや、謝らなきゃなのは俺だ。海翔にあんな汚れ役をやらせちまったんだ。悪かった」
俺がそう言うと、海翔は「おう!」と元気に返事をした。
こうして俺の長い両片思いは終わり、ようやく本当の恋が始まった。
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