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many merry bad ENDs  作者: 源泉


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7話

シリウスは、腕の中で静かな寝息を立て始めたフィアを見下ろし、ようやく安堵の表情を浮かべた。


眠りは浅いが、呼吸は安定している。

外套の隙間から温かさが逃げないようにしっかりと抱きしめ直す。


外套を掴むフィアの手をその上から包み込んだ。


胸に額を預けるようにして眠るフィアの髪が、微かに揺れている。

彼の心臓の音に合わせて。


これからのことや、フィアの体調。

考えるべきことはたくさんあった。


だが――

彼女がここにいる。

呼吸があり、温度があり、生きている。

それだけで、今は十分だった。


シリウスは背を石の祭壇に預け、姿勢を崩さないまま目を伏せる。


眠りに落ちることはしない。

だが、剣を握るほどの緊張も、今は手放していた。


外では風が枝を揺らし、

礼拝堂の中では、二人分の呼吸だけが続いている。


どのくらい時が経った頃だろうか。

風が、変わった。


枝葉が一斉に鳴るその気配の奥に、確かに他の気配が混じっている。


獣の足音ではない。

意図を持って近づく、複数の気配。


シリウスの身体が、反射のように動いた。


フィアを抱き寄せたまま、音を立てずに姿勢を低くし、祭壇の影へと深く潜り込む。


誰かが、外にいる。



「……こんなところに礼拝堂?」



低く、くぐもった声。

もうひとつ、わずかに高い声がそれに続く。



「こんなところにあるなんて、知らなかったな。相当古い時代のものだろうな」


「しかし、隠れるには都合がいい」


「それはそうだ、調べるぞ」



声は近づいている。


入り口の石を踏む音。

歪んだ扉が、軋む音が響く。



祭壇の影。

月光も届かない闇の中で、シリウスは息を潜める。

フィアの呼吸が彼の胸元で微かに触れている。


彼女を覆う外套の内側で、体温と鼓動が交差する。


フィアの髪に額を当て、どうか今彼女が目覚めぬように、この礼拝堂が讃える神に祈る。


割れた石の床を踏みしめる音、相手の人数は二人。

足音から甲冑を纏う騎士ではないことがわかる。


剣を振ることも考えた。

しかし、その後に、血に汚れた手で彼女に触れるのか?

その思いがシリウスの選択肢をなくす。


隙間から落ちる月明かりだけで薄暗い礼拝堂を、明かりもつけずに探る二人は鼻歌を歌うようにどこか楽しげだった。



「聖女様を連れて帰ったら、どんな褒美が出ると思う?」


「こんなこと初めてだからなあ……思いつかねえよ」



会話をしながらも、彼らは確実にシリウスとフィアの潜む祭壇に近づいてくる。



「金は勿論だけど、聖女様を攫ったのはあの銀髪の聖騎士だろう?


いかにも自分は正しいと言いたげな、鼻につく奴」


「おまけに顔がいいのも気に食わねえ。

それでいて聖女様以外は目にはいらないって態度もなあ」


「その聖騎士様が聖女様を攫うなんて、やっぱりあいつも男だったってことだ」


「ああ、傑作だ」


「その騎士様の席が空くだろうからその場所を褒美に貰うのはどうだ?」


「お前が新しい騎士様?森の中に裸で投げ出すより危険だろうが」



嗤い声だけが礼拝堂を満たす。


その会話に怒りが込み上げるが、シリウスはそれを抑え込む。


フィアの耳元を外套越しに手で覆い、その声が届かないことを願う。

その腕の中の温もりだけが彼を落ち着かせていた。


そして、更に足音が迫ったその時、



「おい!向こうでやつの鎧の一部が見つかったぞ!」



遠くから響く声。

その声に礼拝堂を歩く音は止まる。


見つかったのは森を彷徨いながらフィアに体温を分けるために外した胸当てだろう。



「……やっぱりここじゃないか。内部に踏み込んだ跡がなかったしなあ」


「礼拝堂の奥は崩れてる。逃げ道にはならねえから、ここに隠れる程に間抜けじゃなかったってことか」



気配が、引く。

そのまま、足音が遠ざかっていく。


静寂が戻り風が、また枝を揺らす。



シリウスは、まだ動かない。

完全に気配が消えるまで、目を伏せず、耳を澄ませる。

フィアの指が微かに動いた。

だが、目覚めはしない。


しばらくの後、静けさが戻った礼拝堂に、ようやく彼は吐息を漏らした。

それは、声にならない感情の解放だった。


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