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many merry bad ENDs  作者: 源泉


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8/21

6話-1(分岐)

※この先は分岐となります。

物語の本筋を追う場合は、第7話へ。





シリウスは、腕の中でゆっくりと静かな寝息を立て始めたフィアから、名残を断つように手を離した。


眠りは浅いが、呼吸は安定している。

外套の内側、まだ彼の体温が残っていることを確認してから、立ち上がる。


この夜を越えるために、何もかもが足りない。

薬はなくとも、せめて彼女に温かい湯を飲ませなくては。

外側から温めるばかりでは限界がくる。


シリウスは外した甲冑と剣をそのままに、礼拝堂の外へ。


川か小さな湧き水でもあれば、と礼拝堂の周りを探す。


しかしそれは見つからず、火種になりそうな木の枝や葉を集めて戻ろうとした、その瞬間だった。


空気が、変わっていることに気がついた。


湿った土の匂いに、混じるはずのないもの。

油。

鉄。

そして、金属が揺れ、触れ合う音。


(まさか、もうここまで……!)


気配は、複数。

足音を隠すつもりすらない、確信を持った進み方。


普段のシリウスならこの程度の距離ならば、気が付かないはずがない。

しかし極限の状態で駆け続けた彼もまた、疲弊していた。


手に集めていたものを投げ出し、礼拝堂へと走る。

その古びた扉は明け放たれていた。


礼拝堂の中から、話し声。

石を踏む音。

布が擦れる音。


――すでに、踏み込まれている。


「っ……!」


シリウスが礼拝堂に入った瞬間、

側面から衝撃が走る。


打撃。

刃ではない。

しかし甲冑を外した彼には衝撃がまともに入り、視界が揺れ、膝をつく。


「シリウス、お前がこんなことをするなんて……信じられなかったけど、本当だったんだな」


そこには共に訓練を積んだ騎士団の姿がいくつか。

そして、祭壇の影に隠すように寝かせていたフィアのそばにも迫っている。


「なあシリウス。

お前が一番、清い顔してたよな」


「そのお前が聖女様を抱えて逃げた。

……正直、安心したぜ」


「これで分かっただろ。

俺たちも、お前も、同じだ」


あの時と同じ下卑た会話と嗤う声。


司教がどのように伝え、騎士団を動かしたか想像がつき、吐き気すら覚える。


「違う、私は……!」


誰かが、フィアを守るように置いていた剣を蹴り飛ばした。


次の瞬間、礼拝堂の奥から――


「……シリ、ウス……?」


目を覚ましたフィアのシリウスを探す声。

しかしその手は違う存在に奪われる。


「お迎えにあがりました、聖女様。

暖かいお部屋で司教様がお待ちですよ」


そばにいた一人がフィアを抱きかかえる。

シリウスと同じ甲冑だが、その手は確かに違う。


「……司教、様が……?

……いや、です。戻りません!」


自分を抱く手がシリウスではないと気がついたフィアだが、抵抗は意味をなさない。


「救出のためとはいえ、聖女様に触れられるなんて……」


「……そんな目で見るなよ、聖女様。

俺たちはちゃんと守ってるだろ?」


「司教様のご命令だ。

穢れた外に連れ出されるより、教会に戻るほうが正しい」


どこか恍惚とした表情の腕のなかに、フィアは簡単に閉じ込められる。


未だ薄い月明かりが照らす古びた祭壇の前、まるで神に捧げる贄のように彼女は照らされていた。


先ほど下卑た言葉を発した騎士が、怒りの交じる声を出す。


「シリウス、聖女様に何をした?こんなに怯えるほどのことを?」


シリウスは言い返さない。

自身もまだあの光景を信じきれていないのに、司教が行ったことを信じてもらえるとは思えなかった。


口から出る言葉は一つ。


「……フィア様から、その手を離せ」


その言葉が始まりだった。


甲冑も剣も身に着けないシリウスは、いつかの仕返し、と言わんばかりに痛めつけられる。


「司教様の命は聖女様の保護だ、それ以外の指示はない」


誰かが剣を手に取ると、躊躇いなくそれは振り下ろされた。


赤い色が飛ぶ。

フィアはその光景に目を見開くと、声にならない悲鳴を上げて、意識を手放した。


「聖女様、これで貴女を惑わす悪魔は消えましたよ……って気絶しちゃってるな」


「まあ外にすら滅多に出ない聖女様に、自分を攫った相手だろうとこんな光景は刺激が強すぎたんだろう」


他に目のない古びた礼拝堂。

血の匂いの後の妙な高揚感。


月明かりに照らされ、瞳を閉ざしたフィアの発熱で上気した頬。

先ほどの光景か、悪夢か彼女は落ちた意識の中で震え続けていた。


「なあ……、もう少しくらい触れてもいいんじゃないか?」


「シリウスがしたことにすれば、俺達は聖女様を穢した大罪人から救った英雄だ」


「それに、震えてるのは、寒いからだろ?

だったら、温めてやらないと」


「ああ、それはいい」


フィアを囲む円が狭まる。


「シリウス……お前が連れ出したから、こうなったんだぞ」


血に染まる視界。

シリウスが最期に目にしたのは、死よりも残酷な絶望だった。


bad end.

絶望の円卓

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