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many merry bad ENDs  作者: 源泉


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39/61

27話-1(分岐バッドエンド)

※この先は分岐となります。

物語の本筋を追う場合は、28話へ。




港町の昼下がり。


まだ、明るい時間だった。


港町の通りは人で溢れていて、

魚の匂いと酒と汗が、混ざり合っていた。

昼と夜の境目のような時間帯。


危険は夜に起きるものだと、誰もが思い込んでいる時間。


服屋へ向かう道すがら、シリウスは無意識にフィアの方へ手を伸ばしかけた。


人の流れが多い。

歩き慣れていない者がはぐれるには、十分すぎる。



「……大丈夫」



フィアが、小さく首を振る。



「一人で、歩いてみたい」



その声は落ち着いていて、

震えも、怯えもなかった。


ほんの少し前まで、

外に出ること自体に躊躇していた少女だとは思えないほどに。


シリウスは、指先を止める。



(……そうだ)



彼女は、もう“守られるだけの存在”ではない。

そう思いたかった。


だから、その手を引っ込めた。


その判断に、理由はなかった。

油断でもなかった。

信頼に近い、曖昧な感覚だった。


通りを外れ裏へ抜けるための、短い路地に足を踏み入れた、その瞬間だった。



「――」



シリウスの視界の端で、誰かがぶつかる。

酒の匂い。乱暴な笑い声。


反射的に、そちらを見る。


ほんの一瞬。

ほんの、刹那。


その瞬間、

フィアの腕が、背後から強く引かれた。


声を上げる暇はなかった。


腕を掴まれる。

背中に太い腕が回る。

口を塞がれる。


驚きの息さえ漏れない。

悲鳴の準備をする間もない。


酒と汗の臭い。

港で働く男の、荒れた皮膚の感触。


理性の欠片もない、欲と勢いだけの動き。

教会も、聖女も、価値も関係ない。

「若い女」というただそれだけの理由。



「……っ!」



シリウスが振り返ったとき、

そこにいたはずの姿は、もうなかった。



「フィア様?」



声が、路地に落ちる。


返事はない。


足音。

人のざわめき。

何事もなかったかのような、昼の港町。



「……フィア様!」



呼ぶ。

名を呼ぶ。

何度も。


ルカがすぐに駆け寄る。



「どうした……って、フィアは?」



言葉を交わす前に、二人は同時に走り出していた。


走れる限りの速度で。

路地を曲がり、建物の隙間を抜け、人混みを割り、探す。


だが、港町の迷路は容赦がなかった。

陽光はまだ明るいのに、影だけが濃い。


どこを探しても、どんな扉を開けても、どれだけ呼んでも――フィアはいない。


何度も呼んだ名前は、空気に溶けていく。

呼ぶたび、意味を失っていくようだった。


ルカの頭に、

一瞬だけ、地獄が浮かぶ。


港。

船。

檻。

値段。

名前を失った女たち。



それを、口にはしない。

シリウスは、立ち尽くしていた。


視線が、自分の空いた手に落ちる。


さっきまで、そこに触れようとしていた手。



(……掴んでいれば)



無理にでも。

嫌がられても。

守護騎士として。

男として。


あの手を、握っていれば。



「フィア、様……」



もう一度、名を呼ぶ。


返事は、ない。


世界は、何も変わらない。

港町は賑やかで、

昼は明るく、

人は行き交い続ける。



bad end.

平等


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