27話
二人は、まだこれからを決めきれていなかった。
港町の喧騒から離れた場所で並んで立ち尽くす背中を、ルカは少し距離を取って眺めていた。
剣を帯びた男と、その隣に立つ華奢な少女。
逃げ延びた、というより――ただ、ここまで来ただけの二人。
(まあ、そうなるよね)
逃げることに必死だった人間は、逃げ切った後のことを考えない。
それは愚かさではなく、むしろ当然だ。
だからこそ、ここから先で選択を誤る。
ルカはその先に何があるかを、いくつも見てきた。
そして――自分には、彼らから離れられない理由があった。
それは善意でも、情でもない。
目的だ。
だからこそ、今はそばにいる。
「僕の馬車、修理に出すからさ。この街にしばらく留まることになる」
何気ない調子で話し始めると、二人の気配がわずかに強まる。
「行き先がまだ決まってないなら、僕の隠れ家に一緒に来ない?」
選択肢として差し出す。
拒める形で。
拒めない状況だと、分かった上で。
「商人だからね。こういう拠点、いくつか持ってるんだ」
得意げに胸を張る。
「僕、なかなか有能なんだよ。こう見えて」
冗談めかした口調。
事実を、冗談に包むのは癖のようなものだ。
少し間を置いて、シリウスが深く頭を下げた。
「……助かります」
その言葉に、ルカは一瞬だけ反応が遅れた。
(……ああ、そう来るか)
取引として受け取られると思っていた。
あるいは、警戒。
まさか、こんなに素直な感謝が返ってくるとは思っていなかった。
「いや……まあ」
視線を逸らし、誤魔化すように言葉を濁す。
「君たちの役に立つなら、よかったよ」
隠れ家は、港町の裏手にあった。
商人の倉庫を装った、ごくありふれた建物。
荷物を置き、最低限の確認を済ませる。
それから、ルカは何でもないことのように言った。
「じゃあ、街を見に行こうか」
即座に、シリウスが渋る。
「人目につく行動は……」
「一生、隠れて暮らすつもり?」
言葉を被せるように、ルカは続けた。
「普通の暮らしに慣れるのってさ、思ったより大切だよ」
説得するつもりはなかった。
ただ、現実を差し出しただけだ。
そのとき、フィアが顔を上げる。
迷いはある。
けれど、怯え切った目ではない。
「……シリウス、私……行ってみたい」
小さく、けれど確かな声。
シリウスは一瞬、視線を揺らす。
少女の瞳と、ルカの立ち位置を見比べるようにしてから、静かに頷いた。
「……分かりました」
その判断に、ルカは内心で息をついた。
(ほら、やっぱり)
思ったより早い。
そして――思ったより、悪くない。
街へ出る支度の中で、ルカは改めて二人を見た。
教会から逃げる際、拾われた馬車に積まれていた旅人風の服。
フィアの服は特に目につく。
着られないわけではないが、明らかに大きい。
歩くたびに裾を気にしているのが、見ていて分かる。
ルカは、思わず口元を緩めた。
二人を指差し、楽しそうに言う。
「それじゃ、まずは……服、だね。
二人とも、似合ってないにも程があるよ。
僕が選んであげる」
その声は軽く、弾んでいた。
目的のために一緒にいるはずなのに、
気づけば――この時間そのものを、面白がっている。
ひどく楽しそうなルカの笑みに、
この先の厄介さを知る者は、まだ誰もいなかった。




