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many merry bad ENDs  作者: 源泉


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27/62

18話-1(分岐バッドエンド)

※この先は分岐となります。

物語の本筋を追う場合は、19話へ。




夜明け前。

空はまだ色を持たず、街は眠りの底に沈んでいた。


シリウスは、誰にも見送られぬまま街を出た。

ルカの提案に乗るべきか悩んだ。

しかし、関わる人間をこれ以上増やすべきではない――

その判断に、迷いはなかった。


フィアは歩ける状態ではない。


シリウスは彼女を背負い、外套で身体ごとしっかりと固定する。

冷たい空気が入り込まぬよう、何度も結び目を確かめた。


騎士の甲冑。

聖女の装衣。


それらはすべて、薬屋に置いてきた。

売れば、少しは金になるだろう。

礼の代わりに――そう思って。


フィアは朦朧としている。

背中越しに伝わる体温は、熱を帯び、時間と共に確実に上がっていた。


シリウスは歩く。

一歩一歩、街道を踏みしめる。


馬車を断った判断を、まだ後悔していない。

これは、自分で選んだ道だ。




だが、街を離れてほどなく。

フィアの呼吸が、乱れ始めた。


浅く、速く、そして――咳。

乾いた咳が、闇に漏れる。

一度、二度、止まらない。


ルカの診察通り、咳が出始めた。


シリウスは足を止めた。

街道脇に火を起こし、彼女を横たえる。

外套を外し、額に手を当てる。



熱い。



ルカに処方された咳止めを飲ませる。

確かに咳は一時的に治まる。

だが、治療薬ではない。それだけだった。


熱で奪われた体力が、

咳のたびに、さらに削られていく。



(……このままでは、危ない)



そう思ったが、もう戻れない。

進むしかなかった。





気配に気づいたのは、歩き出してすぐだった。


気配は二つ。

意図を持った足音。


闇の中から、二つの影が浮かび上がる。


ひとりは大柄で、獣のような体躯。

もうひとりは痩せぎすで、骨ばった輪郭が夜に溶けている。


祈りの仕草はない。

聖印も下げていない。


教会の人間だが、信者ではない。

汚れ仕事を任される――密偵だ。


――古い礼拝堂で、声だけ聞いた二人。



低く、くぐもった声。

もうひとつ、わずかに高い声。

あのときと同じ声が、今度は隠れもせず近づいてくる。



「……やっぱり、聖女様だ」


「旅人みたいなみすぼらしい格好だけど、その銀の髪ですぐに分かったぜ、騎士様よぉ」


「なんだ、ずいぶん具合が悪そうだなぁ、聖女様」


「震えちゃって可哀想に。

お前、守護騎士のくせに、なんて酷いことするんだ」



その言葉が、シリウスの胸を刺す。



彼らは、治療と保護を口にした。

教会に戻れば、医師もいる。

暖かい寝台もある。



しかし、シリウスはフィアを渡す気はなかった。

――その時までは。



シリウスは剣に手を伸ばしかけ、止めた。

腕の中のフィアが、小さく咳き込む。

その振動だけで、身体が揺れる。


咳は徐々に悪化し、

息を吸うことすら苦痛に聞こえる。



「なあ騎士様、聖女様を殺したいのか?」


「ああ、身体が弱いのなんて、あんたもよく知ってるだろう?」


「早く医者に見せねえと、この近くの村に俺らの知り合いの医者がいる」


「聖女様を渡してくれるなら、急いでそいつに見せてやるぜ」



シリウスは、膝をついた。

石の上に、跪くように。


腕の中の温もりを、そっと差し出す。


フィアは、ほとんど意識がない。

それが、唯一の救いだった。


引き離される瞬間、

彼女の指が、外套を掴んだ気がした。



それでも、彼は引き留めなかった。




「騎士様の方はどうするかなぁ」



二人のうちの一人が、剣を抜く。



「まあ、連れてくのも面倒だし」



もう一人も、剣を構える。


シリウスは立ち上がろうとする。

だが、刃がフィアの方を示された。



「暴れたら、聖女様に怪我させちまうかもなぁ」



その一言で、身体が止まる。

剣は振るわれた。




嗤い声が、赤い色に溶けていく。



数日後。



「ほんとに大人しくて可愛らしい聖女様だなぁ」


「司教様に返すのが、惜しくなってきたぜ」


「まあ、十分楽しんだ。後は褒美を貰おうぜ」



重い扉が閉まる音。



教会の門は、静かに、確実に閉じられた。




bad end.

返された聖女

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