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many merry bad ENDs  作者: 源泉


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24/62

16話-1(分岐バッドエンド)

※この先は分岐となります。

物語の本筋を追う場合は、17話へ。




シリウスは、階下へ降りた。


一歩一歩、木の階段を踏みしめながらも、意識は二階に残ったままだった。


フィアを残してきた部屋。

あの寝台。

熱に浮かされた、かすかな声。


――診てもらうだけだ。

――短い時間だ。


そう言い聞かせながら、店主とルカのいる一階へ向かう。


ルカは、変わらず穏やかだった。



「引き受けますよ。もちろん」



笑顔で、即答する。

その声色に、引っかかるものは何もなかった。

シリウスはルカを、フィアの待つ部屋へ通した。



「……あなたも、少し疲れていませんか?」



ルカは、何気ない調子で続ける。



「顔色があまり良くない。

ずっと緊張しているように見えます」



シリウスは一瞬、言葉に詰まった。

自覚があったからだ。



「診察の間、少し休まれては?

階下で、お茶でも飲んで」



その提案は、理にかなっていた。

フィアのためでもある。

自分が倒れれば、意味がない。



「……フィア様」



扉越しに、名を呼ぶ。



「……私は一人でも、大丈夫です」



返ってきた声は、弱々しいが、確かだった。


シリウスは、まだ少し迷っていた。

だが、自分で選ぶことを始めたフィアが、彼を心配するように向けるその瞳の色に、逆らうことができなかった。



「では、少しだけ……すぐ戻ります」



そう告げて、シリウスは階段を下りた。


その背が完全に消えるのを、ルカは静かに見送っていた。





部屋の中は、静かだった。


フィアは、寝台に横たわったまま、天井を見つめている。

呼吸は浅く、熱に浮かされた視線はどこか定まらない。



「少し、診せてくださいね」



ルカの声は、あくまで穏やかだった。



「まずは、話を」



脈。

息の速さ。

喉の痛み。

頭の重さ。


一つずつ、言葉で確認する。



「……では、少し触ります」



そう前置きしてから、近づく。


フィアは、拒まなかった。

拒む力も、判断も、今は残っていない。

何より診察という行為に、体の弱いフィアには慣れていた。


喉元に、指が触れる。


白く、細い首筋。

熱を帯びた皮膚。


指先が滑ると、フィアの肩がわずかに震えた。


――その瞬間。


ルカの中で、何かが音を立てて崩れた。


少し力を込めれば、壊れてしまいそうな存在。

守られることだけを前提に、ここまで生きてきた身体。



(……ああ)



これは、駄目だ。


本来なら。

騎士と共に、時間をかけて導くつもりだった。


祖国のため。

役割としての聖女。



(……なのに)



欲しい。


理屈ではない。

使命でもない。


ただ、目の前にある“価値”を、

自分のものにしたいという、衝動。


この国で動くために作り上げた商人としての顔。

その仕事は、ルカの性に合っていた。

珍しいものを見つけ、

価値を見極め、手に入れる。


それが自分のものになる瞬間の、甘さ。


ルカは、フィアの喉元に触れた指を離さなかった。


人の良さそうな笑顔のまま――

いや、初めて、何も偽らない顔で。



「聖女様」



低く、静かな声。



「どうか……お静かに」



フィアの瞳が、わずかに揺れる。


言葉は、出なかった。





階下で、椅子に座ることもなく、

背を向ける気にもなれず、階段を見上げるシリウス。



時間が、長く感じる。



(……遅い)



店主が引き止める声に耳を貸さず、階段へ向かう。

ノックもせず、声をかける。



「フィア様」



返事がない。

静寂。


胸の奥が、嫌な音を立てる。


扉を開ける。


部屋は――整っていた。


寝台は乱れていない。

争った形跡もない。


ただ。


窓が、開いていた。


夕暮れの風が、薄いカーテンを揺らしている。


誰もいない。



フィアも。

ルカも。



そこにあったはずの存在だけが、消えていた。


シリウスは、声を失ったまま、窓辺に立ち尽くす。


自分が、離れた時間。

自分が、選んだ判断。



それが、静かに――必然として、この結果に導かれた。




bad end.

開いた窓

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