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many merry bad ENDs  作者: 源泉


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2/22

2話

「花……嫁……?」



言葉の意味は知っている。

この教会の信者に祝福の祈りを捧げたことも、何度もあった。

それでもフィアには、その言葉が自分に向けられていることが理解できなかった。


愛する恋人と手を取り、夫婦になる。

それは幸せなものだと、知識としては知っている。


聖女の聖性が薄まることを恐れ、

フィアはなるべく人と、特に男性と関わらずに生きてきた。

自分が誰かと添い遂げる未来は、最初から用意されていないものだと思っていた。



「ああ、心配なのですね」



司教はそう言って、優しく微笑んだ。



「大丈夫です。この国で最も神に近い位置にある私となら、あなたの聖性が失われることはありません」



続けられる言葉は、あまりにも滑らかだった。



「それどころか、二人が結ばれることで、この国にさらなる光が満ちる――そう、神託が下っているのです」



理解しようとした。

だが言葉は、音としてしか頭に残らない。


後ずさろうとした瞬間、逃げ場がないことに気づいた。

肩に添えられた手は、力を込めていないのに、離れることを許さなかった。


鐘の音と祝福の中で寄り添う恋人たち。

幸せそうな笑顔を、フィアは思い出す。


司教の語る未来は、その光景と同じはずなのに。

そこに自分の姿を重ねることは、どうしてもできなかった。



「……嬉しくないのですか?」



低く落とされた問いに、喉が詰まる。

言葉を探そうとしたが、声にならなかった。



「大丈夫ですよ、フィア」



両肩に手を置かれ、視線を外すこともできない。



「これは、あなたをこの教会に導くよりも前から、決まっていたことなのです」



足元が揺らぐ。

遠くで、自分の心音だけが大きく響いた。



(そんなに前から……)



支えられるまま、フィアは寝台に身を預けることになる。


視界の上を、司教の影が覆った。



「……口づけは、結婚式まで取っておきましょう」



その言葉だけが、やけに鮮明に耳に残る。


逃げなければならないと、頭では分かっていた。

だが身体は、恐怖に縛られたまま動かない。



「今日は、お仕置きではありません」



優しい声で、司教は告げる。



「夫婦になるための、導きです」



その言葉を理解してはいけない、と直感が警鐘を鳴らす。

けれど、幼い頃から刷り込まれてきた教えが、それを押し殺した。


寝台が、軋む。


近づく気配に、背筋を冷たいものが走る。



「その前に……」



司教の声が、低くなる。



「奪われぬよう、祈りを捧げましょう」



目を閉じた司教が詠唱を始める。

祝福とも呪いともつかない言葉が、静かに空間を満たしていく。


恐ろしくて、指先一つ動かせない。


やがて声が止み、司教は微笑んだ。



「さあ……」



その続きを聞く前に、

フィアは初めて、恐怖の声を上げた。

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