12話1-2(分岐)
※この先は分岐となります。
(12話-1の続き)
物語の本筋を追う場合は、13話へ。
「シリウス、目をそらさずに見続けなさい。
それが二人への罰になります」
司教は、シリウスから視線を外さないまま、フィアを自分の前に立たせた。
その位置は、近すぎた。
逃げ場がないほどに。
「さあ、フィア……こちらへ」
促す声は、柔らかい。
だが、拒否を想定していない声だった。
フィアは、一歩、前に出る。
迷いはない。
けれど、足先がわずかに震えている。
「よろしい、いい子ですねフィア」
司教は満足そうに頷くと、フィアの髪に指を絡めて愛おしそうにそう囁いた。
「これは、彼女が選んだ結果です」
フィアの背に、司教の手が添えられる。
押し倒すほど強くはない。
だが、その位置と距離が――意味を持ちすぎていた。
シリウスの喉から、掠れた音が漏れる。
「……司教様、やめてください……!」
司教は、初めてシリウスを見た。
「何を、です?」
穏やかな問いかけ。
貼り付いたような微笑み。
衣擦れの音。
「“正しい位置”に戻すためにも必要なのです」
司教の指が、フィアの顎にかかる。
顔を上げさせる動き。
「声を出してはいけませんよ、フィア」
囁きに近い声。
「貴女は、聖女です。苦しみを見せる存在ではない」
フィアの唇が、わずかに開く。
だが――声は、出ない。
その沈黙を確認してから、司教は続けた。
「ほら、シリウス……彼女は拒んでいません」
司教の手が、逃げ場を塞ぐように腰にかかる。
その動きは、儀式の作法のように正確で、迷いがなかった。
フィアの身体が、びくりと跳ねる。
それでも――
声は、上がらない。
「……っ、フィア様……!」
シリウスの声は、完全に崩れていた。
体を床に押し付けられ、膝をつかされ、
“見ること”だけを許された位置で。
司教は、その反応を逃さない。
「分かりますか?」
淡々と、言葉を落とす。
「彼女は、耐えています。貴方のために」
その一言で、シリウスの呼吸が乱れた。
司教の声は、正しさだけで出来ている。
「彼女は今――“聖女として、沈黙する”ことを選んでいる」
フィアの指が、きつく握り締められる。
爪が掌に食い込み、白くなる。
それでも、声は出ない。
司教は満足そうに頷いた。
「……美しいですね。
これが、守られるべき姿です」
その言葉が、
シリウスの中で、何かを完全に折った。
――助けを呼ばない声。
――拒絶しない身体。
――自分のために耐えている沈黙。
「……やめてくれ……!」
その懇願は、誰にも届かない。
司教は、最後にこう告げた。
「……覚えておきなさい……、っ……」
司教は、ほんの一瞬だけ言葉を切った。
「貴方が守れなかったのではありません。
貴方が――“守らせてしまった”のです」
そして。
規則正しく続いていた気配が、不意に乱れ、途切れた。
「……ぁ、いや…っ……」
その瞬間、フィアから、
押し殺していたはずの声と何かが、こぼれ落ちた。
叫びでも、言葉でもない。
ただ――限界が裂けるような、かすかな声だった。
「声を出してしまいましたね、フィア。
……これでは、また最初からです」
badend.
破られたのは沈黙と




