12話1-1(分岐)
※この先は分岐となります。
(12話-1の続き)
物語の本筋を追う場合は、13話へ。
「貴女の選択の結果を、最後まで見ること。それが罰です」
司教は、フィアの腰に添えた手を離さないまま、静かに一歩前へ出た。
「フィア」
名を呼ぶ声は、優しかった。まるで、祈りの時間に導くような調子で。
「貴女は、正しい選択をなさいました」
その言葉に、フィアの肩がわずかに揺れる。
「逃げず、背を向けず、“自分が戻る”という選択をした」
司教は頷く。
「それは、聖女として――とても、尊い判断です」
だが。
次の瞬間、その穏やかな声が鋭さを帯びた。
「だからこそ」
司教は、シリウスの方へ視線を向ける。
「犯した罪に、罰を与えなければ」
それが合図だった。
背後に控えていた騎士の一人が、無言で一歩踏み出す。
剣は抜かれない。
代わりに、鈍い音が礼拝堂に響いた。
シリウスの身体が前に折れる。
息が、詰まる音。
それでも彼は声を上げなかった。
呻きも、懇願もない。
フィアの喉が、ひくりと鳴る。
「……やめて、ください」
かすれた声だった。
司教は、振り返らない。
「見続けなさい、フィア」
再び、衝撃。
今度は、膝が床に打ちつけられる音がした。
シリウスの手が、わずかに震える。
司教は、続ける。
「彼は、貴女を連れ出した。
教会の秩序を乱した。
聖女を、外の世界へ晒した」
ひとつ、ひとつ、数えるように。
「そして――それを“正しいこと”だと信じた」
司教は、そこでようやくフィアを見る。
「違いますか?」
フィアは、答えられない。
違うと言えば、彼が傷つく理由を、否定することになる。
騎士の一人が、荒く息を吐いて口を開いた。
「……ずっと、お前のことが気に食わなかったんだよ」
低く、濁った声だった。
「女みたいな顔で、口数も少なくて。
それなのに、剣を握れば俺たちより上で、聖女様の騎士にまで選ばれて……」
もう一人が、吐き捨てるように続ける。
「正しさを盾にしてさ、一番“清い場所”に立ってるつもりだったんだろ?」
鈍い音が響く。
拳が叩き込まれ、シリウスの身体が前に折れる。
「聖女様を誰よりも尊く守っていたお前があんなことをするなんて……」
「聖女様と一体何をしてたんだよ?なあシリウス……」
「――そのような言葉を……!」
シリウスの言葉は、身体に叩き込まれる拳によって遮られた。
「……聖女様の前で、無様だな」
「俺たちだって望んでやってるわけじゃない。
司教様の命令だ、逆らえないのはわかるだろう?」
「こんな時でも表情を歪ませないなんて……まあ、いつまで持つか見ものだな」
騎士の一人が、シリウスの顎を掴み、無理やり顔を上げさせる。
シリウスの銀の髪に滲んだ赤い血の色が唇に映り、荒い呼吸がそこから漏れていた。
銀の騎士はそれでも、高潔さを失っていなかった。
その姿を見下ろす二人の騎士は、歪な笑みを浮かべた。
「なあシリウス……知っていたか?騎士団の中にお前を狙っている奴は結構いたんだよ」
カチャリと音を立てて、騎士たちは武具を脇に置き、囲むように距離を詰めた。
そこに始まる光景から、フィアが目をそらすことは許されなかった。
それは、ただ痛めつけるだけの行為ではない。
「罰」だった。
フィアの喉から、言葉にならない音が漏れる。
「あ……あ……」
涙が、止まらない。 司教は、その様子を満足そうに見つめる。
「そうです、フィア。見届けなさい」
腰に添えた手に、わずかに力を込めて。
「貴女を守ろうとし、
貴女が守ろうとした者が――
どう壊れていくのかを」
bad end.
反転する罪と罰




