第七話 覚悟の一発
ヴィクターに全てを暴かれたアシュフォードは、参謀長ウィンタールと共にした夜や、殺す命令を下されていたこと様々な汚職に関与していたことを吐いた。
先ほどまでの威勢はすでに無く、淡々と事実だけを発している。
「あーあ。あいつに近づくんじゃ無かった。今の階級以上を求めてあいつの女になったけど、結局はこのざま」
「何故それほどまでに階級に固執する?」
「あんたは分からないだろうね。下級貴族はそれだけでも上級貴族から馬鹿にされる。それを脱却するには軍の中枢に入るしかない。――折角、勉強したのにな」
汚れた天井を見上げて、視線を震わせる。
「それで体を使ってまで昇進を?」
「ああ、そうさ。あんたのように馬鹿正直に軍人してる奴なんて一割もいないよ!皆、昇進のため、金を積み、頭を差し出してる。なら下級貴族は?金がない貴族はどうする?――だから私は体を差し出した。それでもあんたに企みがバレて、終了だけど」
彼女の言うとおりだ。ヴィクターのように国を案じて動いている将校などいないのかも知れない。
今更それで落ち込んだりしないが、その現状に辟易としてしまう。
「貴族じゃ無くて、あんたみたく平民に生まれてればもっとましに軍人やれたのかもね」
それは皮肉だろうか、それでも彼女は少し羨ましそうに彼を見つめていた。
「最後に俺に言いたいことはあるか?」
ヴィクターはそう言って腰に携帯している拳銃を抜き、スライドを引いた。
「くたばれクソ野郎。って言いたいけど・・・。私が生まれ変わるぐらいにはもっと、マシな国に作り替えてよ」
「お前はその類いの話を信じているのか?」
「いや、全く」
「――そうか――」
それ以降二人には会話はなく、一発の銃声だけが廊下の方まで響き渡った。
廃墟を出たヴィクターは、明るくなり始めた空を見上げた。朝の光が冷たく、大地を洗い流すように差し込んでいる。
「お前がそれほど冷酷だとは思わなかった」
隣を歩くアナスタシアが、驚きを含んだ声で言った。
「失望したか?」
「残念ながら、魔女にそんな感情はない。見直したくらいだよ。――この国を変える覚悟は本物なんだなと」
「当然だ。だからこそ、俺は自分の体の一部をお前に差し出している。お前こそ働いて貰わねば困るぞ」
道端に停めた車に乗り込みながら、アナスタシアは問いを続けた。
「でも、どうしてあいつを殺す必要があった? 泳がしてこちらに寝返らせてもよかったんじゃないか」
ヴィクターはハンドルに手をかけ、視線を前に戻して答える。
「もし逃していたら、彼女の運命は変わらなかっただろう」
アナスタシアが首を傾げるのを見て、言葉を添えた。
「俺が生きていることで、彼女は本来の役目を果たせなかった。だから参謀本部から追放され、ウィンタールが愛人の存在を恐れて手を下したはずだ」
残酷だが、事実はそうだろう。だからこそ、アシュフォードは最後に大暴れはしなかったのかもしれない。自分の運命をどこかで覚悟していたのだろう。
それに捉えられれば自分の身がどうなるかは想像できてしまう。なら銃弾一発でいけた方が楽だ。
「なるほど。お前、意外と賢いのかもしれないな」
アナスタシアが含み笑いを浮かべる。
「何を言っている俺は、元々賢い」
ヴィクターはハンドルを強く握り、車を走らせる。
あの一発は覚悟の一撃であった。
アシュフォードを無駄死ににはさせられない。
この魔女の力で、この国を変えなければならない。
第一部完




