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帝国残響  作者: 誠ノ士郎


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第十一話 不穏な気配

「なん、だと?どういうことだ貴様」


 ディーゼル少将の激しい動揺は明らかだった。まさか、階級も三つ以上下の若造に、真っ向から否定されるとは思わなかったのだろう。


「では、何が甘いと言うのだ。貴官は」


 ディーゼル少将より先に、アレスが口を開いた。


「はっ。まず、ディーゼル少将がおっしゃられた王国の情勢ですが、参謀本部の情報を信じてよいものかと」  


 傾注の姿勢を崩さず、二人の視線をまっすぐに見据えた。


「確かに、貴官の言うとおりかもしれないが。しかし、我々はその参謀本部を信じて作戦を立案しているのだ。それを疑い始めたら我々は何も出来んよ」  


 アレスの言い分は正論だった。軍の中枢たる参謀本部の予測が、各所司令官の行動指針となる。自国の情報まで疑いだせば、軍は機能停止に陥る。


「ええ、当然です。しかし、私が言っているのはディーゼル少将の憶測に関してです。王位選の真っ最中という楽観的な観測に過ぎないと存じますが?」


「参謀本部の諜報技術は貴様もよく知っていよう」


「しかし、それは十年前のことでしょう?もし、今王国内では王位選をしていなかったら?もし、軍備を整えていたら? 少し、ディーゼル少将は楽観的ではないでしょうか――」  


 ドンッ! ディーゼル少将は、側にあった机に怒りを叩きつけるように拳を突きつけた。

 ヴィクターの進言を最後まで聞くこと無く、怒りを露わにしたのだ。デンケンハルトとアレスはその様子に驚愕した。十年来の戦友であったが、ここまで感情を露わにしたのは初めてだったからだ。


「ヴィクター中尉の意見は分かるが、私は新米の将校より、長年側にいた男のことを信じたい」


 ヴィクターの意見は冷酷に一蹴されてしまった。初めから上手くいくとは思っていないが。やはり厄介なものだ。

 それ以降、ヴィクターから発言は無く、司令室を退出した。

 結局、ディーゼル少将の案が採用され、戦闘配置はせず、対地警戒の人数を増やすのみだった。司令室を出る際、デンケンハルトから疑いの眼で見られたが、気にすることはない。突然、掴みかかってくるなどしないはずだ。



 バラモンド要塞、奥深く。司令官室。


「早く、本部へ追い帰しましょう!あんな奴、バラモンド要塞にはいりませんよ!」


司令官室に戻っても、ディーゼル・レグナーの怒りは収まらなかった。 机で悠然と茶菓子を頬張るアレスに詰め寄っている。


「少しは落ち着け。先ほどからどうしたのだ?お前らしくないぞ、レグナー」


 アレスとディーゼルは、お互いをよく知った仲だった。二人きりや、周りに人がいないときには名前で呼び合う中である。デンケンハルトも同様だ。


「アレスの言うとおりだ。いくらあの小僧が嫌いだとしても少々大袈裟ではないか?」


 ソファに座るデンケンハルトは、静かにお茶を飲みながら友人を諭した。


「二人には感じられなかったのか?あの男、いや、女もそうだ。あの二人は何か、駄目なんだよ!このバラモンド要塞にいちゃいけない人間なんだ。上手くは言えないが、嫌な感じがするんだ」  


 二人には理解できない本能的な気持ち悪さが、ディーゼルにはハッキリと感じ取れていた。

 彼は初めてあの二人を見たときからそうだった。

 何か、普通の人間とは、軍人とは違うものだと。纏っている異様な気配が、殺人鬼やサイコパス――そういう異常性に近しい気配だ。

 ディーゼルは微かに震えていた。


「そう、心配するな、レグナー。もしもの時はデンケンハルトが仕留める手筈になっている。それに今、部下たちにあの男の周辺を探らせている」


「ああ。すまない、最近眠りが浅いんだ」


「だってさ?」


 盗聴魔法を解除し、アナスタシアはにやりと笑った。自室で膝をつき合わせていたヴィクターに尋ねる。


「ふむ。焦ることはない。計画通り、徐々に詰めていこう。今日の煽りは良く効いている。そのうち奴は自ら罠にハマりに来る」


「ほう。さすがだな、ヴィクター」


「デンケンハルトの警戒は怠るな、アナスタシア。奴が仕掛けるなら、まずは手薄な女から狙うぞ?」


「私を誰だと思っているんだ?」


「ふん。そうだったな」

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