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オタクに優しいギャルの正体がギャルを装ったオタクであると俺だけが知っている。  作者: 英 慈尊


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5/6

正体

 高校生になれば様々なものが変わってくるんじゃないかと、誰もが期待するものであると思うが、反面、まったく変わらないものも当然ながら存在する。

 それは、例えば先ほど鳴り響いたチャイムの音がそうであるし、たった今、教壇に立った先生が黒板でチョークを削っている音もまた、同様だろう。


 確か、西部開拓時代にはもう、黒板&チョークの黄金コンビが生まれていたのだったか?

 授業にタブレット端末などが導入されるようになって久しい昨今であるが、すでに導入済みであることと、何よりコストが安く済むことから、今後十年間は変わらずこの音が学び舎に響くのではないかと思えた。


 ……などと、人生で一、二を争うこっ恥ずかしい思いをした俺が必死に真面目なことを考え、思考の消去を図っている間に、先生が“入学”という文字を書き、上から✕で潰す。


「皆さんは、受験を勝ち抜いてここに来たわけですが、ゴールは“入学”ではありません。

 三年後、自分の行きたい道へきちんと進めるかどうか……。

 それをサポートするための環境と仕組みが、本校には整っています」


 振り返り、教卓の上に両手を置いた若き女性教師が、そう言って俺たちを見回した。

 その後に行われるのは、オープンスクールで行われた説明のおさらいだ。


「一年生の間は、基礎力の徹底です。

 授業、小テスト、課題。

 どれも多いと感じるかもしれませんが、全てできるようになるためのステップです。

 ここで土台を固められなければ、応用は積み上がりません」


 要点を黒板に書き出すのが、彼女のスタイルなのだろう。

 “授業”“小テスト”“課題”と書き出しながら、彼女が続ける。

 俺たちは黙って、カッカッとチョークの削られていく音を聞いていた。


 が、そうしながらも、時たま机の中にしまい込んだスマートフォンで内職に励む者がいるのは、さすがに現代の高校生といったところだろう。

 そして、そのことを指摘したりはせず、黙っている情けが俺たちには存在する。


 言ってしまえば、罪の共有。

 非行少年たちが、路地裏の壁に共同でスプレーを吹きかけるのと同じだ。

 軽微な罪を共有すると、集団は結束が高まるのである。

 多分、この後はチェインでクラスのグループトークが作成され、授業中などでも秘密の会話がなされたりするに違いない。


 はぁー……。

 ため息つきたくなる。

 そのグループトーク内で俺がどのように扱われるかが、心配で心配で仕方なかった。

 同時に、先の騒動は振り返ってみると、作成されるだろうグループトークから爪弾きにされるほど致命的ではなかったと、冷静に考える自分がいる。


 まぁー、散々にからかわれたと思うし、今後もからかわれる気配濃厚なんだけどさ。

 そこまで、気持ち悪がられてはいなかったんじゃないかと思うのだ。

 俺、ツラが良いわけではないけど、少なくともデブってはいないし、見た目に見苦しいポイントはないと思うし。


 オタク。

 マイナスの意味ではなく、ただそういう記号を持った存在として認識されているのだと、そう思えた。 


 と、そんなことを考えていたその時だ。


(……チェイン?)


 ヴヴッという短い振動につられてスマホを起動すると、チェインに着信が入ったと表示されている。


(誰からだ?)


 ここらへんは機種によるらしいが、俺の使っているスマホは、一度PINを打ち込んで完全に立ち上げなければ、詳細が分からない。

 だから、トトトと素早くこっそりこれを打ち込み、メッセージの主を調べてみたのだが……。


(……何?)


 調べて、大いに驚くこととなった。

 多分、『ジョナサンの奇妙な冒険』シリーズだったならば、コマの間に小さな丸いコマが挟まって、そこで俺が「何?」とつぶやいているところだ。

 チェインのトーク画面で新着――つまりは最上位だ――に表示されていたのは、よく知っている名前と見知らぬアイコンだったのである。


 名前は、綾瀬彩花。

 これだけならば、いい。

 どうして今、このタイミングで彼女からメッセージが飛んできたのかは不明だが、少なくとも、飛んでくること自体は納得ができた。

 この場合、綾瀬彩花というのは、中学時代に同じ美術部へ所属していたあの地味な綾瀬彩花のことであり、中学一年生当時に作った美術部のグループトーク経由で俺に友達申請&新規メッセージを送ってきたと考えられるからだ。


 だから問題は、チェインアイコンの方。

 表示されているチェインアイコンは、自らのものと思わしききらびやかなネイルの写真を切り取ったもの。

 このネイルには、よーく覚えがある。

 先ほど、からかってきていた相手が口元を抑える際、とても印象的にきらめいていたからだ。

 もちろん、からかってきていた相手というのは、ピンク色のツインテ縦ロールというド派手な髪を持つ美少女ギャル――綾瀬彩花。


 中学時代の友人である黒髪のメガネ女子。

 今日この日、初めてここで出会い、いきなりからかわれまくることになったオタクに優しいギャル。


 二人の綾瀬彩花が、俺の中で急激に結びつきつつあった。


(いやいや、そんなまさか)


 そう思いつつも、友達申請を承認してトーク画面に推移する。

 そこに表示されていたのは、簡潔な言葉。


『恥ずかしい目にあわせて、ごめん』


 バッと顔を上げて、前の方を見る。

 まだ、この一年一組は席替えをしていない。

 そのため、“あ”から名字の始まる綾瀬の姿は、左端前列から二番目の席に認めることができた。

 が、当然ながらそれだけ。

 ここから見えるのは背中だけで、顔色をうかがう手段などない。


 ――ヴヴ。


 と、着信を示す振動。

 俺がこの画面に移るのを見計らっていたかのように、新規のメッセージが送り込まれてきたのだ。

 いわく。


『もう気付いてるんじゃないかと思うんだけど、わたし、中学で美術部だった綾瀬』


 ――ヴヴ。


『だいぶイメチェンしたから、驚いてるよね?』


 うん、驚いてる。

 今が授業中でなかったならば、我がリアクション力の限りを尽くし、「お、お前があの綾瀬彩花だというのかー⁉」と叫びたいところだ。


 ――ヴヴ。


『わたしも驚いてる。まさか、佐藤君が東京の高校に進学するなんて』


 でしょうね。

 地元だった埼玉からこの高校までは、控えめにみても片道一時間半はかかる。

 往復ならば、三時間。長い映画一本分だ。

 よほどの理由があるならばともかく、通常ならば進学先の選択肢には入らないだろう。


 俺の場合は、親の都合で春から都内に引っ越すので、それに合わせて受験したわけだが……綾瀬もそうだというのか?

 あるいは、別の理由か?

 この場合、その別の理由というのには、一つ思い当たるところがあった。


 ――ヴヴ。


『それで、一つお願い。わたしとは今日が初対面という体で接して』


 ――ヴヴ。


『ハッキリ言っちゃうと……わたし、高校デビューしたいの』


 次いで表示されたのは、大ヒット少年漫画『呪術大戦』の主人公が「よろしくおなしゃす!」と頭を下げているスタンプだ。

 ああ、綾瀬はこの漫画好きだったもんな。

 特に好んでいたのは、映画にもなった前日譚で主人公を務めたキャラだった。


 なるほど、そういうことか。

 つまり、現状をまとめると、だ。


 オタクに優しいギャルの正体がギャルを装ったオタクであると俺だけが知っている。


 お読み頂きありがとうございます。

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