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オタクに優しいギャルの正体がギャルを装ったオタクであると俺だけが知っている。  作者: 英 慈尊


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最初の休憩時間におけるお約束的風景

 世の中には、どれだけ古めかしく感じられようとも、変える必要のないものがある。

 学校のチャイムなんていうものは、その最たる例のひとつだろう。

 オノマトペで表すならば、キンコンカンコーン。

 俺の父親が学生だった時から、あるいは、父親の父親が学生だった時から、変わらず全国で使われているのだろうチャイム音が校内に鳴り響く。


「はい、それじゃあ、休憩の時間です。

 この後は、高校三年間の勉強プログラムについて説明していきますね」


 ちょうど、全員の自己紹介が終わって区切りもよかった場面であり、若き女性教師がそう言って退出すると、さっきまで静かだった教室が、一気にざわめき始めた。

 高校生が、それも入学初日最初の休憩時間にやることなど、おおよそ決まっている。

 適当に近くのやつ、あるいは、気になった相手へ話しかけるのだ。


「つーかさ、机ちょっと狭くない? 中学よりキツい気がするんだけど」


「それな。あと担任の先生、めっちゃかわいくなかった?」


「ね、見た目若いよね。二十代って言ってたし」


「大学卒業したてって言ってたね。黒板の字、めっちゃ綺麗だった」


「黒板の字気にする人初めて見たんだけど」


「席って、もう決まり? 今日だけ仮って言ってたよね?」


「うん、どっかでシャッフルするって言ってた」


 耳を澄ませば、すでに教室内ではそのような会話が交わされていた。


「いやー、なんか変な感じするな。同じ学校のやつ、案外少なくない?」


「うん。しかもクラス分かれまくってるし。ここ来たの、おれらくらいじゃね?」


「中学の時みたいに、廊下ですれ違ったら全員知り合い、みたいな空気もう無理だな」


 中でも目立つのは、同じ中学出身者が再会を喜ぶ会話。


「あ、今廊下通ってった子覚えてる? たぶん同じ中学じゃない?」


「マジ? 見たことあるような気はした」


「なんか、みんな大人っぽくなってるよね。髪染めてる子もいたし」


「制服変わるだけで、雰囲気全然違うね」


 同じ中学ペア二組目発見。


「昼休みどうする?」


「とりあえず購買見に行かね? パン争奪戦だったら笑う」


「それ中学で鍛えられてるから余裕だろ」


 三組目、と。

 高校受験というのは、中学やあるいは小学校で受験していない限り、人生を左右する最初の選択肢であり、志望校選びには将来設計が多分に作用するものだ。

 が、それと同じくらいに重要な要素として、地理的条件というものがあげられる。


 当たり前だが、どれだけ自分の人生設計や学業成績にマッチした学校であろうとも、通えないのならば意味はない。

 事実、春からの新居生活に合わせ、俺もかつて地元だった埼玉の高校ではなく、この開洋高校を選んでいるわけだからな。

 ここは、レベル的に中流といったところで、元から周辺地域で暮らしていた学生の大きな受け皿となっているのだろう。


 それにしても、だ。

 ちらりとそちらの方に目をやりながら、思う。


「ねえねえ、カバン。

 やっぱ持ち歩くものだからデコってみたら、チョー重くなってウケるんだけど!」


「やっば! 超キラキラじゃん!

 このキーホルダーとかどこで買ったの?」


「ああ、これ?

 フリマで安く売ってたんだ〜。

 売ってたの子連れ主婦だったんだけど、話聞いたらニューヨークのギフトショップで買ったんだって!

 うち、めっちゃ買い物上手じゃね?」


「ていうか、運が良すぎな感じ〜。

 ね? ね? フリマってどこでやってたの?

 学校帰りに行けるようなところ?」


「んーと、錦糸町の公園で、たまたま寄った時にやってた感じ。

 これ系は休みの日じゃないと開催しないだろうし、学校帰りはきついんじゃないかな〜」


 クラス内でひときわ目を引くのが、自己紹介タイムでトップバッターと二番打者を務めたギャルコンビ。

 すなわち、赤坂莉奈と綾瀬彩花である。

 見たところ、同じ中学出身というわけではないようだし、顔を合わせたのは本日が初めてのようだ。

 だが、同じ属性を持つ人間というのは、惹かれ合うもの。

 ハデハデに固めたギャル同士、早くも打ち解けあったようであった。


 そして、楽しそうにしている様は、人を惹きつけるものだ。

 それまで、やや遠巻きに様子をうかがっていた女子生徒たちが、二人の会話へ加わり始めたのである。


「へえ、フリマ行くんだ。

 なんかオシャレだね。

 手作りのアクセとかも売ってるの?」


「売ってた売ってた! ピアスとかブレスとか、めっちゃあった!」


「え、楽しそう。

 行ってみたいけど、人多そうで迷いそうだなあ」


「フリマって、普通に学生でも買える感じ?

 高くない?」


「全然いける。

 てか、めっちゃ安いし、掘り出し物あるし。

 うちなんか、コレ全部で千円ちょいだよ?」


「千円!? やば。

 普通に店で買ったら一個で終わりじゃん」


「それな〜。

 こういうの、行った人じゃないと見つけられないからさ。

 なんか得した気分じゃん?」


 三人ばかりの女子生徒相手に、フリマを制した女こと赤坂が得意げに答えた。


「ねえ、今度さ、誰か予定あったら一緒に行ってみない?

 フリマとか古着とか、興味あるかも」


「行く行く!

 休みの日だったら余裕〜」


「でも迷子になる自信あるんだけど」


「大丈夫、目立つカバン背負ってる人についてけばなんとかなるって!」


 言いながらその女子生徒が指差したのは、ニューヨーク生まれのチェーンが目立つデコ鞄を持つ女こと赤坂。

 これは、なかなか上手い会話運び。

 にわかに誕生した女子グループもどっかんどっかん大盛り上がりである。


「てかさ、カバンそんなに重いなら、ロッカーとか入んない?

 教科書と合わせたらヤバそう」


「肩死ぬ。

 でも可愛いから許す!」


「そのメンタル強いな〜」


 気が付いてみれば、にわかだったはずの女子グループは赤坂を中心とし、ずっと前からこのメンバーで会話していたような馴染みっぷりを見せていた。

 うーん、強い。コミュ力が強い。

 ギャルを指して陽キャの代表として扱うのは、いささか語弊があるかもしれないが、少なくとも、この属性を持つ女の子に対して、会話が苦手な印象を持つ人間はいないだろう。

 俺のように、同じ中学の出身者もおらず、かといって見知らぬ相手に話しかける勇気も、話題の引き出しもなく、所在なげにスマホをいじっている人間とは大違いであった。


 ちなみに、立ち上げているのはアイドル育成もののソシャゲ。

 まだ本日のデイリー育成を終えていないのだ。

 さて、今日はどのアイドルを育成したものか。

 最近、ロジック属性のアイドルばかり育てていたし、今日は気分を変えてセンス属性のアイドルにしようかな。


 そうなると、候補に躍り出るのはこのアイドル――花山妃沙であった。

 このアイドルは、いわゆる主人公的なポジション。ゲームの起動画面においても、堂々とセンターを飾っている。

 肩まで伸ばしたピンクの髪を振り乱し、圧巻のダンスパフォーマンスを見せる持ち歌のMVは、人気ゲームで中心核を飾るにふさわしいものだと言えるだろう。


 と、ここでふと思い出す。

 そういえば、この花山妃沙というアイドルは、中学時代に友人だった方の綾瀬彩花が推していたな、と。

 それで、この高校で同じクラスになった方の綾瀬彩花を見やった。

 そういえば、赤坂と二人で会話していた時は上手いこと会話を回していたが、他の女子たちも加わってからはうなずき要員に徹しているというか、相槌を打ってばかりな気がする。


 ところで、理由は知らないが、人間というものはどうしてか、他者からの視線に敏感なもの。

 綾瀬も俺の視線に気付いたらしく、ふとこちらに視線を向けてきた。

 カラーコンタクトをはめているのだろう彼女の青い瞳と、俺の瞳とが空間を隔てて交差。


 果たして、その一瞬で何を思ったのか。

 綾瀬はいきなり俺の方に歩み寄ってくると、こんな風に話しかけてきたのだ。


「ねえねえ、佐藤君だっけ?

 さっきから、何してんの〜?」


 こ、こっちに飛び火させてきやがった……!



 お読み頂きありがとうございます。

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