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大人なyoung anotherside side Ritu

作者: 明日
掲載日:2025/10/26

 まだ幸せだった。ただそこにいてくれるだけでいいと毎日実感して今を生きている。それは綺麗事だとばかにしていたのにまさか実際にこんなに想うとは。

 …つくづくこの人に変えられたな。

 枕に埋もれてきつく目を閉じている顔を見つめる。

 柚季はだんだんと疲れやすくなり、最近は横になっていることが多い。ずっとベッドにいるのは気が病んでしまうから日中はリビングに敷いた布団で過ごしている。たまに布団の上で胡座をかいて、柚理に絵本を読みきかせたりこちょこちょしたりしている。理都も今は基本的に家にいる。緩やかで暖かい毎日だ。

 ただ、静かに不安が募っている。見ないようにしていてもちらちらと見てしまう。

 こんな毎日を知ってしまって、これから普通に生きていけるだろうか。自分は壊れてしまわないだろうか。壊れたらどうなってしまうのだろうか。

 漠然と、しかし刻々と感じる気持ちは柚季も同じようで、弱っていく度甘えが激しくなった。

 もともと柚季は他人には甘えさせといて自分は全て受けるような人だった。飄々と笑っているようで実は真面目で責任感も強く頼られる側の人だ。理都に対しても散々泣きのタオルになっておきながら自分の涙を理都でぬぐうことはなかった。体が弱っていくときも泣くことはなかった。だが、よく甘えるようになった。

 ぱちり

 柚季が目覚めた。

 「おはよう」

 「もうおやつの時間でしょ。いつからいたの?」    

 「ん~30分前くらいかな。柚理が寝たから」

 「そっか」

 布団の中で柚季が身じろぎした。

 「大丈夫?寒い?」

 「んーー」

 煮え切らない返事にとりあえず毛布を持ってこようと立ち上がろうとした。_と、咄嗟に柚季が理都の裾をつまんだ。

 「いかないで」

 一瞬、こっちの台詞だよと思った。

 「行かないで」

 それは切実な甘えだった。

 布団の生活が続きはじめてから、柚季がこんな風に甘えることが増えた。同じ家のなかでも理都の動きに敏感で、まして外出時には心配そうな目で1度呼び寄せて噛み締めるように強く抱きしめる。そしてそれが鬱陶しくないくらい理都も柚季に敏感だ。

 「いかない。わたしはいかないよ。」

 手を握っていいきかせる。

 「一緒にいるから。大丈夫」

 うん、と力ない返事とは裏腹に柚季が握る手に力をこめた。

 「理都」

 「ん?」

 「幸せでいてね」

 聞き逃すほど何気なかった。なのに心がひどく揺れた。

 柚季が小さく笑って繋いでいないほうの手を理都の頬に伸ばした。

 「今までで、1番素直に泣いてるよ」

 泣いてない。そう言い返そうとした声が嗚咽に埋もれる。

 泣きたくなかった。幸せなままでいたかった。どんなに切実に甘えても柚季は泣かなかった。だから自分が泣くわけにはいかないのだ。

 早く止まって、お願い。

 それでも止まらなくて、堪らなくなった柚季が軽く引き寄せた。たかが切れて理都は柚季の鎖骨に頭をつけた。

 「っごめん、泣いて」

 柚季が優しく撫でる。

 「いいよ。泣いてくれる人がいて嬉しい」

 「泣いてない」

 「はい?さっき自分で言ったじゃん」

 もう自分でも何がなんだか分からなくなっている。

 「自然の摂理じゃないから意地張ってんの?」

 こんな時まで邪魔をする染み付いた悪癖を柚季はよく理解している。そして的を得た指摘に拗ねたくなってしまう。

 ふいと横を向いてしまった。

 「りつー」

 柚季が呼びかけるが向かない。

  まったくという風に柚季が溜め息をついた。 

 そういういじけた子には、、

 「きゃっ」

 いきなり柚季が理都を布団でくるめとった。体温の残った布団が全身を包む。

 あったかい。けど、

 心拍すら感じる背中にどきどきする。柚季の胸と理都の背中は近いという空間すらない。

 そしてそこから特段何かするわけでもなく過ぎる時間にだんだんと照れが募る。

 た、堪えられない

 「あ、やっぱ毛布取ってくるね」

 身を起こしかけた理都を柚季は逃がさない。ここまで弱ってもやっぱり力は敵わない。むしろさっきよりも強く抱き締められた。さらに猫が頬擦りするように懐いてくる。

 「いかないでって言ったじゃん」

 そういえば甘えてるのそっちだった。

 拗ねたような少しむすっとしたような口調が理都にとってだけの特別な柚季だった。

 _いいか

 怖くて、触れるほど離れがたくなる気がして、そうしたら、いなくなったら、自分が壊れてもとに戻らない気がして。

 でも、ぜんぶいいや。

 理都はくるりと向きを変えて柚季に軽く口づけた。

 すぐに離して顔を窺うと柚季は驚きの表情から嬉しそうな顔になった。

 やったー

 柚季が小さく単調に呟やくとぎゅーっとしてきた。柚季の鼓動を頬で感じる。

 「理都」

 穏やかで心地いい声。

 「一緒に幸せでいてくれてありがとう」

 その言葉のほうがさっき理都を泣かせたものより何倍も好きだった。

 そうだよ。わたしの願い、叶えてくれてありがとう。これからの糧をたくさん、ありがとう。

 理都がすりすりすると柚季の腕がさらに締まる。

 苦しいなんて言わない。きっとこれからの方がずっと苦しい。

 だから、今は一緒にいて。独りよがりじゃない[好き]を感じさせて。いつか傷ついて壊れてもあなたを好きになったわたしを取り戻してみせる。

 だから今は全て忘れてここに浸る。

 「大好き」

 


.................................................................

 ここ最近、君のために何ができるか考えながら過ごしていた。

 強がりで意地っ張りで真面目で泣き虫な恋人へ。

 今、泣き止んだばかりの目で見つめられて思うんだ。君の泣き顔は痛いけど泣きそうな顔の方がもっと俺を悲痛にさせるって。

 だから一つ君へのこすものを決めた。

 覚えててくれるかな。愛しいもう一人は。

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