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転校生がやってきた

小谷翔太おたにしょうたです。野球をやってます。よろしく!」


(あ……やばい……)


 前の日にクラスのみんなの前で「恋なんて考えられない」と言った私は、その翌日にあっさりと恋に落ちてしまった。


 そう、転校生の小谷翔太君に恋してしまったのだ。

 いわゆる一目惚れというやつだ。

 彼の爽やかな笑顔はクラスの女子の心を完全に射抜いてしまった。

 もう女子全員目がハートである。


 休み時間になると早速梨絵が私のところに来た。

「ねぇねぇ、小谷君カッコよすぎじゃない?もう私今すぐにでも告っちゃいそうだよ!」

「ええ?それはちょっと極端じゃないかな……確かにカッコいいとは思うけど」

 興奮状態の梨絵をなだめるように私は言った。

 実のところ内心は私も似たような状態だったのだけれど……。


「祐実は冷静だねぇ」

「そう?」

「うんうん、さすがは『まだ恋なんてって考えられない〜』って言うだけあるよ」

 と梨絵が昨日のことを思い出して言った。


「あはは……あれはまあ言葉のあやというかその場のノリというか……」

 忘れててくれたらいのにと思っていたが、考えが甘かった。


「最強のライバルが参加しなければ私にだってワンチャンあるかもだし」

 梨絵は机に両肘をついた手の上に顎を載せてニッコリと笑った。


「梨絵は可愛いからワンチャンどころか有力候補だと思うよ」

 これは本当だ。


「祐実がそう言ってくれるとなんだか本当にうまくいきそうな気がする」

 少し照れながら笑う笑顔がまた眩しい。

「私も応援するよ!」

 と私もニッコリ笑顔で梨絵に言った。


「あっ、もう小谷くんに接近しようとしてる子がいる。私も負けてらんない!また後でね、祐実!」

 そう言って梨絵は女子に囲まれつつある小谷君のところへ飛んでいった。


(墓穴……掘っちゃったかな……)


 梨絵はアイドル級の美少女である。

 私なんて引き立て役以外の何者でもないと言っていい。

 小谷君が私なんかより迷わずに梨絵を選ぶ光景が目に見えるようだ。


(だよね、小谷君が私を選んでくれるなんてあり得ないからこれで良かったのかも)


 梨絵は女子の壁をかき分けてアイドル級の笑顔全開で楽しそうに小谷君と話している。


(いいなぁ……)


 素直に「前言撤回!」とか言って梨絵と一緒に小谷君のところに行けばよかった。

 そう心で思いつつ梨絵を見ていたら、ちょっとした瞬間に小谷君が私の方を向いた。


 その一瞬、小谷君と目が合った。


 別に珍しいことではない。クラスメイトと目が合うことなどよくあることだし、いつもの私なら、こういう場合ごく自然に笑顔を返していたところだ。


 だが、このときはそれができなかった。

 私はとっさに目を逸してしまったのだ。


(なんで?なんで私、目を逸らしたの?)

 とんでもない失敗をしたときに体から血の気が引いていく、あの嫌な感覚が私を襲った。


 かなり長いこと(そう私は思った)目を逸らしていた後、恐る恐る小谷くんの方を見た。

 彼は梨絵たち数人の女子と談笑していて、その周りには男子も集まっていた。


(ほっ……)


 また目が合ったりしても気まずくなりそうなので、私は窓の外に目をやった。

 すると、かたっ……と隣の椅子を動かす音がした。


「祐実ちゃん」

 茉美まみだった。

「茉美は行かないの?」

 小谷君の方に視線をやりながら私は茉美に聞いた。


「うん、行かない」

「茉美もカッコいいと思うでしょ?小谷君のこと」

「うん、カッコいいと思う……でも」

「でも?」

「私、カッコいい男の子は遠くから見てるほうが好きなんだ」


 ああ、そうだ。茉美はそういう女の子だった。

 茉美はマンガとアニメが大好きな大人しい性格の女の子で、2年になって同じクラスになった子だ。

 彼女が休み時間に読んでいたマンガ雑誌が私も読んでいる雑誌だったのがきっかけで、あっという間に仲良くなった。


「茉美だって可愛いんだから、思い切って小谷君に話しかけてみたら?」

 茉美も、梨絵とはまた違うタイプだが間違いなく美少女だ。

 髪は女子なら誰もが一度は憧れるさらさらストレートヘア。

 色白小顔で『まるでお人形さんみたい』という形容がピッタリな女の子だ。


「え…?そ、そんなの無理、絶対無理」

 茉美は顔を赤くして縮こまって頭を振った。


「でも小谷君優しそうだよ。周りの子みんなに目を配って話も聞いてるみたいだし」

 小谷君を見ながら何気なく私が言った。


「わぁ、さすが祐実ちゃん、しっかり見てるんだねぇ」

 茉美が驚いたように言った。


(うっ!や、やばぁぁーーい!)

 私は焦った。めちゃくちゃ焦った。


「い、いや、それは……えと」

 バレた?バレちゃった?


「祐実ちゃんはいつもそうだもんね。回りの子のことをちゃんと見ててくれるんだよね」

 茉美は控えめとはいえ破壊力抜群の笑顔で言った。


「え……?」

 どうやらバレてはいなかったようだ。


「友達を作るのが下手な地味な私を見ててくれて、梨絵ちゃんたちみんなの中に連れて行ってくれたのは祐実ちゃんだから」

「そうだったかな……?」


 私は単純に友達は一人でも多い方が楽しいって思ってるだけなんだけど。


「だからね、もし祐実ちゃんが誰かを好きになったら私、精一杯協力するね!」

 茉美は両手の拳を握って胸の前で可愛くガッツポーズをした。


「私が誰かを好きになったら……」

 なった!今まさに!


「あ……でも祐実ちゃんはまだ恋なんて考えられないって言ってたっけ」

 頬に人差し指を当てて心持ち首を傾げる茉美。なんか無駄に可愛いぞ!


「ああ、うん、そんなことを言ったような気がしないでもないかも……ははは……」

 またしても自分の首を自分で締めてしまった。


 茉美は控えめながら優しい笑顔で私を見てくれている。

 私も自然と笑顔になる。

うん、今の私には恋より友達だ!


「じゃ、その時は協力よろしくね、茉美!」

「うん!」

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