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調和の女神はデバッグがお好き  作者: 円地仁愛
第3章:神の理(ことわり)と人の業(ごう)
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37. 月と、心と、女神の考察

黒川さんと居酒屋で別れた後、私は、一人、帰路についていた。



先ほど酌み交わした熱燗の温もりが、まだ身体の芯に心地よく残っている。


そして、それ以上に、黒川さんと交わした未来への言葉たちが、心地よい余韻となって胸を満たしていた。あの刷新計画について語り合った時の、彼の真剣な眼差し、そして二人の間に生まれた確かな手応え。


夜風はひんやりとしているはずなのに、不思議と寒さは感じない。

むしろ、その充実感が内側からじんわりと広がるような温かさとなり、思考を柔らかく解きほぐしていくようだ。



ふと見上げれば、横浜の夜空に月が淡く輝いている。


あの時――人間界に降り立ったばかりの頃に見た月も、確かに(きら)めいていた。


だが、今宵の月は、あの時とは少し違う光を放っているように感じる。

鋭い輝きではなく、まるでこの胸の温もりがそのまま空に映ったかのように、柔らかく、そしてどこか…自分の心に寄り添うように、穏やかに(たたず)んでいる。




数ヶ月前の、歓迎会からの帰り道。


あの時の私は、人間の感情という予測不能なパラメータを、まだ論理と解析で制御できるものと信じていた。

黒川さんは、露悪的で ― その非合理な言動、『不調和』は、私にとっては修正すべき対象に過ぎなかった。



けれど、今、私の胸の内を満たしているのは、あの頃とは全く異なる、静かで深い感情の波紋。


彼の不器用な言葉、その奥に隠された優しさ、そして、彼が守ろうとしてきたものの意味。それを『愛おしい』と感じるこの心の動きは、私のアルゴリズムに生じた新たな『バグ』なのかもしれない。


それでも、この温もりを、不必要な『不調和』であると断じることはしたくなかった。



この人間界での経験は、確実に、私という存在の根幹に、静かな、しかし無視できない変容をもたらしつつある。まだ、その全容は霧の中だ。だが、この道を進むことが、最高神が私に望まれた、真の理解へと繋がっているような、そんな予感がしている。


人間というシステムは、確かに複雑で、非効率で、そして多くの『不完全さ』を抱えている。

しかし、その『不完全さ』の中にこそ、彼らの(たくま)しさや、時に目を(みは)るほどの美しさ、そして私が今まで見過ごしてきた『調和』の別の側面が隠されているのかもしれない。



矛盾に満ち、なお輝く、人の営み。


かつて私が至高としていた完璧な論理だけでは到達できない、新たな調和の形が、そこにあるのだろうか――。



この人間界での観測は…やはり、私の初期想定を遥かに超えて…興味深く、そして…私の存在そのものを、豊かに満たしてくれる。



明日からも、この複雑で愛おしい人間たちと、そして私自身の内なる声と、真摯に向き合い続けよう。

世界の、そして私自身の、まだ見ぬ『調和』の形を求めて。


…この人間としての歩みの中で、私が見つけ出すものが、宇宙の真理に繋がっていると、今はそう信じられるから。






章末恒例の、結衣のモノローグでした。

第一章の歓迎会(Ep5)と、その後のモノローグ(Ep6)からの

変化を感じていただけると嬉しいです!


ブクマ・評価していただいた方、ありがとうございます!

引き続き、皆さまの感想、評価、ブクマ、お待ちしております!

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