表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
調和の女神はデバッグがお好き  作者: 円地仁愛
第3章:神の理(ことわり)と人の業(ごう)
31/71

31. 天使の計略とUNKNOWN CODE

夜のクラウド推進部。社員の大半が帰宅した後、森田愛莉は、一人、焦燥に駆られていた。険しい表情で、モニターを見つめ、指先は焦れたようにキーを叩き続ける。


(なんなのよ、これ…!AIコアの学習精度も、ボトルネックも致命的じゃない!こんなの、私の設計を使えば、すぐにでも解決できるのに…!)


この『プロジェクト』のリーダーは愛莉だ。

だが、高橋を筆頭とするチームメンバーは、彼女の設計を無視して実装を進め、国プロの心臓部たるAIコア『アテナ・ウィズダム』の開発は、停滞していた。これでは、埒が明かない。苛立ちがピークに達した時、脳裏に開発二課二人の顔が過った。


(…あの二人…使えるかもしれない…)


自分自身の思考に、愛莉は軽く唇を噛む。しかし、すぐに振り払うように顔を上げた。


( ……国プロの成功のため。『正当な業務連携』よ。決して、『借り』なんかじゃないわ…! )



++



翌朝。開発二課に現れた愛莉は、儚げな声で佐々木課長に助けを求めた。


「私が開発しているAI『アテナ』が、技術的な壁に当たっていて…。『アテナ』は、国プロの成否にも関わる最重要モジュールなんです…!私、どうしたら…」


その潤んだ瞳と『国プロ』という言葉に、佐々木は即座に全面協力を快諾する。 愛莉は、パッと顔を輝かせると、結衣と黒川へ視線を向けた。


「芽上さん、黒川さん…ぜひ、お二人のお力を貸していただけませんか!?私…三人なら、奇跡を起こせると思うんです!」


結衣が静かに頷くのを見て、黒川は内心で舌打ちをした。


(……芽上のやつ、 あっさり引き受けやがって…!)


ここ数週間の『強制生活改善プロジェクト』により、ようやく彼女の体調も戻ってきたところだ。無理はさせたくなかった。しかし、当の結衣は乗り気で、佐々木もゴーサインを出している。畳みかけるように、愛莉が甘い声で懇願した。


「お願いです…黒川さんの力が、どうしても必要なんです…!」


ちらりと結衣に視線を送ると、彼女は無表情でこちらを窺っている。だが、その顔色はまだ万全には見えない。黒川は小さくため息をついた。


「……愛莉ちゃんの頼みだしな。仕方ねぇ、こいつ(芽上)がまたぶっ倒れねぇように、俺が見張っててやるよ」


ぶっきらぼうな黒川の言葉に、結衣は小さく微笑んだ。


++


クラウド推進部のプロジェクトルーム。大型モニターには、『アテナ・ウィズダム』の複雑なシステム構成図が投影されている。


愛莉の的確な説明と指示を聞きながら、黒川は皮肉混じりに口を開いた。


「愛莉ちゃんがリーダーか、大した出世じゃねぇか。俺が知ってる限りじゃ、少し前は…『高橋さんの調査のお手伝い』とか言ってなかったか?」


その言葉に、愛莉の先輩である高橋の眉がピクリと動く。彼は、作り物めいた平静さの下に、嫉妬を滲ませながら割って入った。


「そうなんだ。愛莉くんの…若さと行動力が、どういうわけか上層部に高く評価されてね。僕は『指導係』として、彼女の才能をサポートしている…というわけさ」


愛莉は、その嫌味を完璧な笑顔でサラリと受け流す。


「高橋さんの的確なサポート、本当に、頼りにしています♡」


そのやり取りを、結衣は静かに観察していた。


(高橋さんの感情には、『嫉妬』、『不満』、『過信』が混在しています。この二人の関係性は、プロジェクトの潜在的リスク要因ですね)



++



休憩で二人が席を外した隙に、愛莉が結衣の隣に座った。


「芽上さん、解析の進捗はどうですか?わぁ、さすがですね!芽上さんみたいな天才がいてくれると、心強いです♡」


惜しみない賞賛の言葉とは裏腹に、その瞳は鋭く結衣の反応を探っている。 結衣は、モニターから顔を上げ、静かに愛莉を見つめ返した。


「森田さん。高橋さんが担当されたモジュールですが、不可解な点がいくつかあります。意図的なパフォーマンス低下、エラーハンドリングの欠落。これは、単なる実装ミスではないかもしれません」


その核心を突く指摘に、愛莉の瞳が輝きを増す。


「そうなんですね!実は私も少しだけ、気になっていたんですけど…。高橋さんのやり方に問題があるわけないと思って。でも、芽上さんみたいに優秀な方が言うんだから、きっと変えた方がいいですよね?…でも、うまく説明できないかも……芽上さんから伝えていただけたら、助かります♡」


――その瞬間、結衣の瞳が、全てを見通すかのように、愛莉を射抜いた。


「森田さん。あなたの設計思想は合理的です。本来なら、この問題は解決可能でしょう。しかし、あなたはそれを実行しない。いえ、『できない』」


「高橋さんや、他のメンバーからの協力が得られず、あなたの『正しさ』が、組織の『不合理』に阻まれている。…違いますか?」


「だとしたら、なぜ、いつまでも『助けを求める天使』を演じているのですか?あなたの内には、全てを屈服させるだけの『支配者』の力が眠っているというのに」


愛莉は息を飲んだ。結衣への警戒心が、爆発的に高まる。それは、もはや恐怖に近しい感情だった。作り笑顔で必死に言い繕う。


「『支配者』って…!や、やめて下さいよぉ……!私は、ただ、皆さんと協力して、プロジェクトを成功させたいだけで……」


結衣は、愛莉のその反応――瞳孔の微細な収縮、心拍数の急上昇、声のトーンの僅かな不安定さ――から、彼女の動揺を読み取った。しかし、彼女はそれ以上追求することなく、「なるほど」と、静かに頷いた。



++



夕方。作業に没頭する結衣の肩を、黒川が軽く叩いた。


「おい、芽上!根詰めすぎだ!また倒れたいのか?今日はもう切り上げるぞ!」

結衣は素直に頷き、PCをシャットダウンする。


愛莉は、その二人の関係性を――黒川の結衣に対する過保護な態度と、それに対して結衣が素直に応じている姿――を、面白くなさそうに見ていた。


「…黒川さんたら、まるで保護者みたい♡いつの間に、そんなに仲良くなったんですかぁ? 芽上さんも、もう少し自分で時間管理しないと。私たちが国プロの顔なんですから!」

その声に含まれた棘に、黒川は忌々しげに愛莉を睨みつける。


「うるせぇな。お前に関係ねぇだろ、俺たちがどうしようと」

黒川は、まるで彼女の存在など意に介さないとでも言うように、結衣を伴って部屋を出ていった。


しんと静まり返った部屋で、愛莉は握りしめた拳が白くなるのも構わず、ドアを睨みつけていた。 やがて、その表情から一切の感情が抜け落ちる。


(…本当に、イライラするわね、あの二人。私の完璧な計画に、ことごとくノイズを混ぜてくる…!)


だが、と愛莉は即座に思考を切り替えた。


(むしろ好都合かもしれない。彼らのその予測不能な動きさえも、私の計画に組み込んでしまえばいい。あの二人…芽上結衣の力も、黒川の執着も、使い方次第では私の計画の最高のスパイスになるはずよ…!)


もはや黒川をコントロールすることは不可能だ。


ならば、狙うべきは芽上結衣。黒川は、芽上結衣を見捨てられない。芽上結衣さえ、こちらの計画に巻き込んでしまえば、彼もまた、否応なく駒として動かざるを得ないだろう。


彼女の口元に、ゆっくりと自信に満ちた、そしてどこか妖艶な笑みが広がった。それは、結衣の言葉の通りの、絶対的な支配者の笑みだった。



『ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます♡

皆さんの温かい応援が、何よりのエネルギー源!良かったら感想やご意見きかせていただけると嬉しいです!うふふ、楽しみに待ってますねっ♡』



天使ムーブかましてみました。滑ってすみません。感想、お待ちしております!(切望)

https://x.com/Endi_neer

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ