異星のバーベキュー
ギーシュとリオは密林の一番高い岩場にある洞窟に帰宅した。
ギーシュは獲物を庭の隅の血抜き場で血抜きすると、骨のダガーを使って解体を始める。
リオも手伝おうと、残飯の尖った骨で肉をチクチク刺す。
「あれれ!ギーシュがやるみたいにスルーっと切れない!」
「そりゃ俺のダガーは特別な獲物から作ってるからな。獲物の脂を吸うと切れ味が増すんだ。
加工してない唯の骨とは訳が違えよ。」
「ほぇ〜。」
「力がいるし、お前にはまだ早えから側で見てな。」
と、たまに腕っ節だけで獲物の股関節や関節を折る。
獲物は大まかに外皮や牙·蹄などの素材と、可食部の肉·内臓に分けられた。
それらをバナナの葉のような、大きい肉厚の葉の上に置く。
「内臓は夕飯用の煮込みと短期保存用の塩漬けに……。
足とか腿とか背骨周りは干し肉とか長期保存用にして、腹回りの肉を昼飯にするか。」
と、口の端の涎を拭く。
「バラ肉だ!バラ肉!!」
大喜びのリオ。
次は庭中央にある石組みのかまどへ移動した。
葉っぱをまな板に、肉のブロックを角切りにする。
透明感のあるルビーのような赤身とムーンストーンのような脂身の模様は美しいガラス工芸のようだ。
「リオ籠の果物、トマベルぺとマンベルぺをくれ。」
「どれ?」
「赤いのとオレンジのやつだ。」
「このパプリカみたいなの?見た目はお野菜みたいだね。」
「お、おう。(『ぱぷりか』って何だ……?)」
果実も食べやすく切る。
「ばーべきゅ!ばーべきゅ!」
2人は肉と果実を交互に細い骨で串刺しにした。山盛りに何本も作る。
それを石かまどに立てて焼く。
程なくして、いい匂いがしてきた。
肉がピンク色になって脂がポタポタ滴り落ちる。脂が火に落ちると、ジュッと美味そうな音が響き、香ばしい煙が立つ。
リオは自分の涎が垂れて落ちそうなのに気付き、しゅるっと吸った。
「脂が凄いね!」
「だがバフティースの脂は子供には濃くて腹下すからなあ。勿体無いがもう少し焼いて落とすぞ。
ま、その方が表面の薄皮がカリカリになって美味いんだけどな!」
ギーシュはかまどの隣で新しいまな板の葉っぱを用意した。
「焼いてる間にソースを作るぞ。
リオ、熟れた果実を棒で潰しててくれ。ちょっとスパイスを取ってくる。」
リオは甲羅のようなすり鉢に、皮を剥いた黄色い果実を入れ、棒で潰す。
そこにギーシュがコショウや岩塩のようなものをパラパラと入れる。
そうこうしてる間に肉に火が通って、焦茶の焼き目が付く。
普通の豚のバラ肉と違い、程良く焦げた薄皮が唐揚げの衣のようになっていた。
「よーし、焼けたぞ!」
「焼けた♪焼けた♪」
焼きたての串を葉っぱの皿に山盛りに飾る。
隣には小さい甲羅の椀に入ったソースを添えて。
目をギラつかせ、肉の前に平伏す2人。
「さあ食うぞーー!!」
「いただきます!」
と、両手を合わせるリオ。
ギーシュは不思議そうに見る。
「えっと、お前が昔住んでた国のお祈りだっけ?」
「お祈り……なのかなあ?
でも、『大切な命をありがとう』とか、『お料理してくれた人、ありがとうとか』、色んな意味があるよ。」
「ふうん。じゃあ、俺たち『カニシアン』と似たようなもんだな。
獲物とか果物とか、この世に美味いもんを用意してくれた『緋色の大地の神様』に、『ありがとよ』ってな。」
ギーシュは落としたバイティースの首の前に跪き、酒と儀式用のスパイスを供えた。
リオも隣で跪く。
「美味しいお肉をありがとう。残さず食べるからね!」