緋い星
見知らぬ星が遥か遠くに見える青空。
その下には赤い砂と岩の大地が広がる。木や草は無く、代わりに黄緑の苔や菌類のようなものが稀に見えるだけ。
そこへ地球の太陽に似た恒星が照り付け、更に大地を焼く。
その枯れた荒野の遥か遠くに、濃い緑の地がある。
恒星の強い日差しを遮る、深い密林。
ヤシやシダ、ツル系の植物で過密状態になった森。先程の乾燥地帯と違い、湿気で満ちている。
そして満ちているのは湿気だけでなく生命もだ。
昆虫類や爬虫類のような生き物に、その糧になる色とりどりの果実も。
その密林を小さな人影がひょこひょこと動く。
白髪だが背は低い。5歳くらいの子供である。
褐色の肌に、服装は白いタンクトップと青い短パン。
髪はショートで格好もボーイッシュではあるが、襟足は蝶々結びの青いリボンで飾っている。くりくりした目のまつ毛は長い。
遠目だとどっちか迷うが、女の子である。
少女は熟れた果実達を捥いで、せっせとつる籠に入れる。
「あ!スネイデリーの実だ。」
子猫のような可愛らしい声。
彼女は苔に生えたつぶつぶのある丸く赤い実を採って口に入れる。見た目は地球のヘビイチゴだ。
急に甘い物を含んで口の中がツーンとする。それを我慢した後、広がる味に頬を染めた。
「甘くて柔らかい!
味を地球の食べ物で例えると、えっと……。
生クリームと真っ赤な苺!
フワフワのスポンジと一緒に食べればショートケーキ!」
彼女が摘み食いしてると、今度は足元に大きなヤドカリのような生物が寄ってきた。
ハート型の不思議な顔と拳程のハサミ。少女の腰の高さ程の全長。
「あ、『クラーバ』さんも食べたいの?」
クラーバとはこの生物の総称だ。この星の密林に非常に多く生息している野生動物だ。
少女は場所を空け、クラーバにも実を譲る。
クラーバは少女の事など気にも留めず、ハサミでチマチマと実を口に運ぶ。
少女はしゃがみ、目線を合わせて微笑む。
「ね!おいしいね。」
無垢な少女と生き物の微笑ましい触れ合い。
しかし、その空間に殺気が流れる。
枝が折れる音と、獣の息遣い。
少女は振り返る。
全長4mはありそうなワニの顔をしたイノシシのような生き物。
それが走り寄って来ていた。
(『バフティース』!
雑食で、子供とか小さな獲物は積極的に襲う!!!!)
認識した時には遅く、猛獣は目の前にいた。
涎まみれの黒い牙。瞬きしないゴールドの目。
少女は動けなくなる。
(食べ……られ……ちゃ……——!)