辺獄の羽根編 第九話
著者:ハトリユツキ 様
企画・原案:mirai(mirama)
ウイリアムはあたりをキョロキョロと見渡す。
時間はわからないけれど、夜はすっかりふけていて、街のあかり一つ確認できない。完全な闇がそこに広がっている。足元に咲く薔薇だけが、赤くぼんやりと光っている。
彼はしばらくの時間を置き、それが夢であることを理解する。
そして、闇の中に一歩足を踏み入れた。ざくりと何かを踏む。枯れた薔薇が足元で咲いている。真っ赤な血が滲む。革靴が血の池ですっかり濡れている。
「……っひ」
ヒュッと自分の気管支が音を立てた。呼吸が荒くなり、数秒間の間になんども呼吸を繰り返す。それなのに、息が苦しい。ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ。呼吸がままならなくなる。これは過呼吸だ。自分でそのことを理解していても、うまく呼吸の調整ができない。意識がだんだんとぼんやりとしはじめる。
蝶がとんだ。あの朱い蝶がとんでいく、自分はそれを視線で追う。もう何度、この蝶の夢を見ただろう。
自分はまぶたを閉じるたびに、眠り、そしてあの朱い蝶に心惹かれていく。
「——先生、助けてください」
呼ぶ声にまぶたを開けると、自分の足に誰かがしがみつく。今が夢なのか、現実なのか定かではない。
でも、ここにあの蝶はおらず、今いるのは助けてほしいと救いを求める人間。彼らの身体にはでこぼこと大きなイボのようなものがある。膿っぽい肌の匂いが鼻をつく。膿んだ部分が切れて、出血をしている。真っ赤な血が足元を濡らす。
ウイリアムは震えながら、手袋とマスクをつけて彼らの肌に触れる。
大丈夫だという言葉をかけることはできなかった。ただ、呻き声を漏らす人間の手を握り、彼らに水を飲ませる。触れた指の温度が焼けるように熱い。
「……あ…………ああ……」
風の噂で、流行り病があると聞いた。肌にたくさんのイボができ、熱が出て、身体が動かなくなる。彼らもまたその流行り病なのだろうか。ウイリアムはそんなことをぼんやりと考えながら、彼らに手を伸ばした。
毎日、毎日、外に出ればそういった姿の患者に出会う。
流行り病の噂が流れるようになってからは、患者たちは街の人間から忌み嫌われるようになっていった。熱が出て、動けなくなった人間を隔離するような施設もなく、街から追い出される。そういった人間は路上でウイリアムの噂を聞き、助けを求めにやってきた。もう手の施しようのないほど弱っていた病人もいた。
「あ……ああ……痛い、痛い」
苦しげに自分に訴えかける声。水分が失われてしわだらけの指。有効な治療法などない。もうすべてを投げ出してしまいたいと思ったその瞬間ふと、視線の端に朱い蝶をみた。自分にどうしろというのだとウイリアムは蝶に問う。蝶は答えることなく、再び夢の中に紛れ込む。現実に残されたウイリアムは目の前の患者の手を握る。今はただ、それしかできそうにもなかった。




