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辺獄の羽根編 第十話

著者:ハトリユツキ 様

企画・原案:mirai(mirama)

——治療は毎日、毎日続く。

「先生」とすがるようにウイリアムに伸ばす指。高熱のせいか視界を奪われた病人は、手を彷徨わせる。彼は、ひどく熱い身体を氷嚢で冷やす。何も受け付けない身体に補液を行う。入れても、嘔吐を繰り返す。吐きながら、苦しげに震える痩せ細った背中をさする。

「先生……」

ウイリアムは手を差し伸べる。それしか、できない。自分は医者としてどうしようもなく無能だ。それでも、手を差し伸べる。患者がそれを望んでいるからだ。

死に向かっていた患者たちの病状が落ち着くのには、一週間以上かかった。

「先生——ありがとうございます」

倒れていた頃は自分を見ていなかった患者がまっすぐに自分の瞳を見つめている。

その手が震えるのは泣いているからだ。今、生を感じているから。

「先生、ありがとう」

「先生、ありがとうございます」

自分はただ差し伸べられた手をとっただけだった。根気よく、補液を行っただけだ。薬で解熱しただけだ。治療らしい治療など、何もできていない。治療法を見つけたわけでもない。助からずにそのまま死んでいく患者も多くいた。たまたま、助かっただけだ。自分が助けたわけではない。

そう理解していても、患者の治癒の機会に立ち会うたび、ウイリアムはどうしようもなく救われた気分になった。


気がつけば、また夢の中。

深い暗闇の中でもうめき声は響き続ける。寝ても、覚めても、声が途切れることはない。そこが現実か、夢なのかわからなくなる。

でも——「ああ……」朱い蝶が飛んでいた。

蝶はその真っ紅な羽根をはためかせながら、ウイリアムを招く。その紅を見ると、どうしてだろう。心が引き寄せられる。こちらへと呼ばれているような気分になる。

ウイリアムは朱い鱗粉を辿って、歩き続ける。ひどく身体は怠い。もうずっとだ。疲労困憊だ。もう一歩も歩けないと思いながらも、脚を前に出す。

やがて、暗かった道に光が灯っていた。声はそちらの方向からしていた。

噴水のある広場だった。水はすっかり枯れ、泥水が池のように噴水に貯まっていた。

「うう」

「ううう……」

うめき声が足元から響いている。まるで地面全体から唸っているようだった。

ウイリアムはゆっくりと視線を降ろす。

「ヒッ……」

思わず叫びそうになって、慌てて口元をおさえた。そこには、人、人、人、人、人。数えきれないほどの人の山。

地面に倒れこんだ人々は、まだ確かに息をしていて、呻き声を漏らしながら、ウイリアムに手を伸ばしていた。その瞳は朦朧としている。彼は口元をおさえたまま、嗚咽を漏らす。泥の匂い。水の腐った匂い。肉の腐った匂い。それらが混じって、ひどい悪臭だった。


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