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Spirit  作者: まもる
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初任務——初——

とうとうこの時がやってきた。

光は力声と共に反応のあった場所へ向かう。そして、近づくにつれ緊張は膨れ上がる。

そして二人の前に突如何かが襲う。それは一体——

 ダッダッダッダッ。

 誰かが道を駆け抜ける足音が、二つ鳴り響いている。

 辺りは暗くなり、建物が多くなっている。道も少しずつ細くなり始めていた。

 そんな場所を走っていたのは、二人の後ろ姿。どこにでもありそうな青い上着を羽織り、だが左腕には特徴的な『光』文字が刺繍されている。

 首には、真っ青な宝石が埋め込まれた、綺麗なペンダントが走るたびに、服の隙間からちらりと覗く。

 もう一人は、シンプルな黒いパーカーに動きやすそうな長ズボンを身につけている。

 その二人とは——

「なんっっで、こんな遠いとこに出るんだよ!」

 走る足を止めずに、波河光なみかわこうは思いを叫んだ。その叫びに、同じく隣で走っていた少年が反応する。

「ここは建物が多くてかげってるからなー、身を隠すのには適当な場所だろう」

 さらっとそう返したのは、力声りせという半分霊の少年である。

「やっぱきついわ……」

「じゃあやめるか?」

 呟くように言った光に、力声がいたずらっぽく問いかける。

「やめねーよ」

「…………」

「……なんだよ、その顔」

「えっ」

「えっ、てなんだよ」

「……いや、そんな変な顔してたかなって」

 力声は自分の頬を両手でペタペタと確かめるように触りながら尋ねた。

「……もともと変な顔だろ」

 ほんの一瞬、間を置いて言った。

「ひどっ!一応この顔にはそこそこ自信あるのに!」

 力声は嘆くように口に出す。

「マジかよ……」

 少々引き気味にそう口に出した。

 自然と会話は終了し、目的の場所に近づいて行った。

 お互い話すことなくただひたすら走り続ける。だからか、お互い少々考えてしまった。

 力声はチラッと視線だけを動かし、光の横顔を見た。ほんの一瞬ですぐ視線を目の前に戻した。

(誤魔化された……かな。そんなに顔に出てたかなー。これでも上手くなった方なんだけど……)

 力声はさっきの会話を思い出しながら、心の中でそう口にした。

 わかっていた。答えなんて、聞くまでもない。冗談で言ったつもりなのに——

『やめねーよ』

 改めて心の中であの言葉を思い起こさせた。

 本人は深い意味を込めて言ったんじゃないだろうが、その一言には不思議と力があった。

 ただの勘違いだろう。そう思うが、俺にはただ、本当になんとなく感じるんだ。

 ——俺と……同じなんじゃないかと——


 光は、さっきまでの会話とは裏腹に、ただ二人分の足音のみ聞こえるこの空間。

 少し居心地が悪く感じながらも、足を進める。

(なんか、ちょっと気まずい……。何かしたってことはないだろうけど、空気が……いや、今からすることを考えるとこれが正解なのかも。うーん……)

 頭の中でなにやらいろいろ考えていた。

 チラリと視線だけを力声の横顔に向けた。

 暗くてはっきり見えるわけではないが、多分いつも通りの顔だろう。当たり前だが。

 視線を前に戻すと、再び心の中で呟き始める。

(……それにしても……)

 光は頭の中でさっきの会話を思い起こさせた。そして、すぐさま出てきたのは、あの時の力声の顔だった。

『…………』

 その後も。

『……いや、そんな変な顔してたかなって』

 すぐにいつも通りに戻っていた。と思う。

(変な顔っていうより…………らしくない顔っていうか……)

 あの時、なんと表現すればいいだろうか。本当に、本当に一瞬。表情が固まったような、驚き、というのは少し違うような。どちらかといえば、不思議がっていたというような表情。

 力声は、弱音を吐いた俺に場を少しでも和ませようとしたのだと思う………………多分。

 俺が、やめるとでも言うと思ったのだろうか。どうにも引っかかってしまった。

 大事な任務を目の前にしているのに、なにを考えているのだろう。とりあえず一旦忘れようと頭をフリフリと何かを振り払うように振った。

 やがて、反応があった場所であろう場所に着くと辺りを見渡す。建物が多くあり、唯一の光である月の光をうまく遮っている。あっても隙間隙間であまり当てにならない。

 確かに、これならばその霊にはうってつけの場所である。

「…………」

 光は、ボーッと上を見上げていると、隣にいた力声が声を掛ける。

「どした?」

「なんか聞こえないか?」

 自分の耳に手を添えて、聞き耳を立てる。

「なんかって……」

 光のそれにならい、力声も自分の耳に手を添えた。

 ———

 本当に静かな空間。微かな風の音は聞こえるが、特に気になるような音はない。

 やっぱり気のせいだったのだろうか。緊張で余計な音を自分で作り出してしまったのかもしれない。

「……ごめん、やっぱ勘違い——」

 光は力声に向き直り、その言葉を口にした。だが最後まで発されることはなかった。なぜなら——

 光の脳内に何かが流れ込んできた。

 この感覚——何度も経験したことのある嫌な予感。忘れたくても忘れられない、突然やってくる悪夢のような映像。そうこれは——

「光!」

 そう叫んだのは力声である。こちらに向かって目一杯叫んだ。

「!」

 それと同時に光は後ろをサッと振り向くと、その目には何かがこちらに飛んでくるように近づいてくる。

 それを認知すると、光は間一髪でそれを避けた。

 正直、認めたくはないが、もし光が『未来を見る力』がなければ力声の言葉だけでは、どこかしらに当たっていただろう。

 カーーン!と鉄か何かが、壁にぶつかるような音が発せられ、その方向を見ると、あるものが落ちていた。

 棒状の何か。見たところ鉄パイプである。

 誰かがこちらに向かってそれを投げた。状況からそう考えられる。

 しかもかなりの力だ。こちらに向かうスピードもいくら運動神経が良い人でもあそこまで出せるだろうか。

 いくつも疑問が浮かぶが、この場所、そしてこのタイミングで光たちを狙う者。それは——

「なんだよ、空振りか……絶対仕留めたと思ったのによ……」

 この声を発したのは、光でも力声でもない。

 声がした方に二人は視線を向けると、一本の暗い通路から少しずつ姿が浮かび上がる。

 ぼんやりと体から光を発し、自分の後ろ首元をうんざりといった様子でいている。

「……まさかそっちからお出ましとはな——」

 たらりと一筋の水滴が頬を伝う。

「——指名手配犯さん?」

 力声は目の前のそいつに向かってそう呟いた。

(えっ、指名手配犯?)

 隣で聞いていた光は何が何だかわからない。心の中で混乱の声を上げながら力声と目の前のおそらく光たちが狙っていた霊であろう者を交互に見つめる。

 突然の襲撃。

 さまざまな情報が行き交う中、光はポツンと立ち尽くしながら思う。

(いや、俺を置いていかないで!)

 相変わらず目の前の二人は、光には理解できない話をしている。

 というか、聞き取る余裕が今の光にはなかった。

 不適な笑みを浮かべ、こちらをじろりと見つめるその目は、全身が震えそうになる。

 ——これが、俺が捕まえなければならない霊——

 伝えられていた情報と全然違う。

 そんな簡単な任務ではないこと。それはわかっている。そんなもの俺にとって意味がないからだ。

 でも、これは想像以上だ。

 この前、力声に同行して巻き込まれた悪霊化事件。あの時の威圧感も半端ではなかったが、今この瞬間もやばい。なんというか、とにかくやばい。

 これが日常的になっていくのか?

 自分で踏み込んだ世界だが、やはり俺自身震えている。

 力声は怯えることなく、普通に会話しているように思える。この仕事では、それが普通で、俺にとっては自身で生きてきた、見てきた世界が普通で、日常で。

 俺の知らなかった世界。

 今はほとんどの人が知らずに生きている。この組織が『spirit』が、悪影響を及ぼす霊たちを世に出さないように、影で支えている。それを知ってしまった俺は、自分の目的を持って、ここに立っている。

 もし、この目的が達成されたのなら、今後はどうする?力声や晶子さんは、無理にここにいるようには言わないだろう。やめると言ったら、簡単にとはいかないだろうが、ちゃんと話を聞いた上で、考えてくれるはず。

 と、いろいろ話が脱線してしまった。

 気を取りなおすように、バチンと両手のひらで頬を叩く。

 よし!と決意を固めるように両手をギュッと自分の胸あたりの前で握りしめる。

 今は何やら話しているようだが、きっと何かが起こってしまうだろう。

 その時に備えて、油断せずにいつでも動けるよう、しっかり集中しなくては。

 そう決意を固めた光に対して、一方力声はというと。

(明らかに前に見た時と、見た目も変わって、霊気の量も増えてる……。さっきのも、俺はともかく、まだまともに訓練し切れてない光に当たってたら捕獲どころじゃない。当たりどころが悪ければ、大怪我だ)

 そんなことを考えながら、相手をじっと見つめる。

 少しでいい、何か読み取れるものはないか?光が少しでもやりやすくなるような、俺ができる最大限のサポートを。

(いやまて……この霊気、何か変だ。霊気の量が増えていると言っても、なんだかおかしい……)

 力声は、目の前の相手から感じる違和感を探る。

 なんだ、この感じ。相手は一人なのに、一人のように感じない。

 捕獲対象の霊は、別に何か特殊な力を持ってるわけじゃない。それはこの前の調査でわかっている。

 なら何だ?さっきから感じるこの違和感。

 それにあの霊が見せる余裕。この前とは違う。足の速さに自信があるのは知っている。実際、本当に速かった。体力もそこそこあって、捕獲寸前で逃げられてしまった。

 こいつの奥底は、臆病だ。捕まることを恐れ、罰を受けるのを恐れている。

 だが今、目の前にいるそいつにはこの前とは、正反対の自信を感じる。

「!」

 力声は、その時何かを感じ取った。

 本当に微弱だが、ブレを感じ取った。

 何だ、なるほど。この違和感はこれか。気づくと力声はフッと口元を歪ませると、口を開いた。

「……お前、別人だな」

 その霊は、何の反応も示さない。どちらかといえば、意味を理解していないと言ったところだ。

「いやー、定着しすぎて危うくモヤモヤしたまま帰るところだった」

 力声は腰に手を当てながら、はぁーと息を吐く。

 隣で途切れ途切れに聞いていた光も、この声は聞こえたらしく、その意味を問いただす。

「お、おい……さっきから何言ってるんだ?別人とか何とかって……」

 その声が届いた力声は、「ん?」と光に顔だけ向けたのち、すぐその霊に向き直った。

「ああ、光はまだ知らないのな。あいつはな——」

 光もその霊に目を向けて、次の言葉を待った。

 そして、ほんの少しして、力声が再び口を開いた。

「——あいつは、霊を喰ってる——」

遅くなりました。続きです。今回は『初』ということで本当に少しです。近々その続きも出せるよう善処しますので、楽しみにしていただけると幸いです。

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