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Spirit  作者: まもる
8/36

準備

ある霊の捕獲。

それを頼まれた光は、突然のことで困惑するが、やることを決意する。

だが、それを行うまでの道のりが大変で——。

 確かにいつも落ち着いている雰囲気の店だが、今は、さらに静かに思える。

 心を落ち着かせるような穏やかな音楽さえも、今は耳に何か覆い被さっているように、曇って聞こえる。

「俺に……ですか……?」

 混乱の中、目の前に立つ女性に再び問う。

「そうだ」

 驚きの表情を隠せない光を見下ろしながら言った。そんな彼女を席から見上げながら、全身を固めている。

「そんなに緊張しなくていい。なにも大物を捕まえろと言っているわけじゃない、あくまで初めての仕事だ」

 とそこで光は思った。

(あれ?初めてだっけ?)

 確かに、晶子から直々に頼まれることは初めてだが、仕事自体は軽く?触れたことはある。ほとんど力声が原因だが。

「あの……俺別に初めてじゃ——」

「——晶子!」

 と言いかけていた言葉を遮ったのは、力声である。勢いがありすぎて、席を思わず立っていた。

「っ、どうした。急にデカい声出して……」

 さすがの晶子も急でびっくりしたようで、肩が少しビクッとしながら力声の方を向く。

 光もその様子に驚きながら思う。

 ——何か言っちゃいけないことでも言ったか?

 そんな感じなかった気がするが……と考える光を前に、力声は一瞬考え、少々慌てながら言う。

「あ、えと……さすがにこ、光一人じゃ危ないだろ……⁉︎だからその、誰か付けたほうが……」

 力声の言葉を聞いた晶子は、何を当たり前のことを言っているんだという顔をしていった。

「一人で行かせるわけないだろ……当然一人はサポートに付ける。それで、その役割は力声に頼みたい」

「お、おう……」

 そう言って、立っていた体を改めて席に座らせた。

「それで、どうかな?光君。最初に言っておくが、これは命令ではなく、頼みだ。断っても構わない」

 相変わらず優しい眼差しで光を見ている。力声も光の返答を待つように見つめている。

「…………」

 光の答えは決まっているはずだった。でも、いざそれを口にしようとすると、なぜか全身が硬直したかのように、とどまってしまう。

 その姿を見ていた晶子は、フッと笑い、光に言った。

「一度にいろいろ喋りすぎたね。別に今日決めなくても構わない。だが、できるだけ早く——」

 結論を出してほしい。そう言いかけたその時——

「ぁ……あの!」

 話に区切りをつけようとした晶子に声を上げたのは、光だった。自分の声に思わず立ち上がってしまう。

 突然声を上げた光に二人分の驚きの表情が向けられる。

「あ……」

 自分の行動に思わず弱々しい声を出してしまう。

 そんな光を見ながら、二人は次の言葉を待つ。

 光はゴクリと息を呑み、拳をギュッとにぎりながら、声を発する。

「あの!俺、やります!やらせてください!」

 突然発された言葉にぎょっとする二人。晶子もこんなの声を出せる子なのかと、改めて思い知る。

「せっかく任せてもらえる初めて仕事です。俺でよければ、やらせてください……!」

 光は、はっきりとそう言い切り、少々息を吐いている。

「……いいのかい?」

「はい……!」

 晶子の言葉に、その言葉と声で、しっかりと答える。

 晶子は、口元を軽く緩ます。

「よし、わかった。じゃあこの件は、光君が担当すると、上に伝えておくよ」

 その言葉を聞くと、光の緊張しきった顔が、少しずつ明るくなる。

「ちなみに光君は、霊体について知っているかな?」

「れいたい?」

 発された言葉に、明らかにわからないといった声で言う。そんな光を見て、晶子はやれやれといった様子で言った。

「その様子だと、知らないみたいだね」

 そう言うと、体ごと力声の方に向けると呆れた声で続けた。

「力声。あれほど教えておけと言ったのに、やっぱりまだ言ってなかったな?」

 その言葉に力声はすぐさま反論した。

「ちげーよ!教えようと思ってたところに晶子が来たんだよ!」

「やっぱりまだ言ってないじゃないか」

 とまるでいつもの自分たちを見ているようだった。力声はまだまだ言い足りないといった様子だったがそんなのは無視して光に話しかけてきた。

「では光君、明日軽く話しておきたいことがあるんだが、今日と同じ時間にまたここに来れるかな?もちろん予定があれば、そちらを優先して構わないが」

 光は、明日のことを軽く考え、案外すぐに言葉を発した。

「いえ、大丈夫です」

 その言葉を聞いて、納得した晶子は軽く微笑む。

「ならよかった。では明日、力声を向かわせるから一緒に来てくれ」

 その言葉を聞いた光は、そろそろと小さく右手を挙げて言った。

「あ、あの、俺もうここに来る道は大体わかったので、力声がいなくても大丈夫ですよ」

「そうなのかい?ならここで力声と合流するといい。あとのことは、力声に伝えておくから」

「はい」

 一通り話に区切りをつけると、光はカフェを後にした。

 もうそれなりに暗くなり、送っていくと言われたが、光はそれを断ったが、なぜか力声がついて来た。振り切る気力は、もう残っていないので、何事もなく足を進める。

「あのさ——」

 静かなそう声を上げたのは、光だった。

「ん?」

 顔を光の方に向けながら、軽く返すと、光は続けた。

「ずっと気になってたんだけど……」

 さっきまで、別の話をしていたため忘れていたが、光は気になっていたことを聞く。少し溜めてから改めて言葉を発する。

「俺、お前に連絡先教えた記憶ないんだけど、いつ教えたっけ?」

 そう、気になっていたこととは、これである。別に重要というわけではないが、昨日の電話の後、ふと疑問に思ったと思うと、モヤモヤが光の中にずっとあったのである。

 光の言葉を聞いた力声は、きょとんとした顔をしたが、すぐに別の表情になる。

「…………」

 光は何も言わず、目の前でニコッと笑うその顔を見ながら思う。

 その力声の顔が、光にとっては、何より恐ろしかったことをこの相手は知る由もないだろう。

 

 次の日。

 約束通り、学校が終わった後、光はそそくさとカフェへ向かった。

 道はなんとなく覚えたが、まだ少し不安がある。そんな不安を抱えながら、なんとか目的地へ着くと、中へと繋がる扉に手をかけ、グッと力を込めた。

 カランッ。

 扉のベルの音が軽い音を立てて鳴る。

 この景色。何度か来た光にとっては、少しずつ見慣れた景色になっていることに、自分でも変化を感じる。

 席を順に見渡すと、一人の店員が目に入る。

 注文を取り終えたのだろうか、軽く一礼すると、カウンターへ戻ろうとするところで、目が合う。

「っ!光!」

 そう言って、早歩きでこちらに向かってくる。やがて光の目の前に立つと再び口を開く。

「そっか、もうそんな時間か……」

 そう言った店員は、力声である。エプロンを身につけた姿は実に新鮮である。ふーむと少し考えるような仕草をすると顔を上げて続ける。

「待ってろ。もう少しで終わるから、適当に空いてるとこ座っててくれ」

 それだけ言って立ち去ろうとする。が、あっ、と小さく声を漏らすと、すぐ立ち止まり後ろを振り返る。なんだろうと思うと、それに答えるように言った。

「何か飲みたいものとか食べたいものあるか?あるなら持ってくるけど……」

 突然の問いに、光は少し考えを巡らせると、すぐに口を開いた。

「あ、なら……『あれ』を頼みたいんだけど」

「『あれ』?」

 そう首を傾げる力声に光は、『あれ』を頼むのだった。

 空いてる席に腰掛けると、ふぅーと息を吐く。

 適当に座った席は窓側の席で、外の景色がよく見える。

 午後でもう暗くなるからか、人通りは少なかった。

 店内も人は居たが、少ないわけでもなく、皆それぞれ店を堪能していた。静かな店内に響く、心地よい音楽と途切れ途切れに聞こえてくる話し声。

 なんだかそれだけで心が落ち着く。

 視界がなんだか狭くなっていき、どんどん暗くなってくる。自分の目を開けたり閉じたりと眠気に葛藤していると、コトンッと机に何かが置かれる音が近くで聞こえる。

 重い瞼を無理に開けると、そこにはガラスの器に真っ赤な色が映えるいちごが乗せられていた。隣には、温かそうな湯気が薄く立っている、ティーカップが置かれる。

 それを一目、見終えると、眠気を押し込み言う。

「ありがとうございます……」

 と、言うとともに、見上げると、それを置きにきたのは力声だった。

 今にも眠そうな光を見ると、口を開く。

「眠いのか?」

 と、軽く目を擦る光は、その行為と正反対のことを言う。

「いや、大丈夫……」

 それを聞いて、少し呆れていると、口を開く。

「もしあれなら、スタッフルームで少し寝てくれば?俺が終わるまで、あと十分くらいあるし」

 そう言って親指でスタッフルームを指差す。

「いや、平気。あと十分ならこれ食べてれば、ちょうどいいだろうし」

「……光がいいなら、それでいいけど……」

 少し不安そうな声で言うと、向こうから、力声を呼ぶ声が聞こえ、聞こえた方へ声を返す。

「はーい!今行きまーす!」

 そう言うと光に改めて声をかける。

「もし気が変わったら、休んでいいからな」

 そう言って、急いで向こうへ向かって行った。

 そんな力声を視線で見送りながら、机に置かれた、皿を目に映す。

 電気で照らされたガラスの器といちごは、より一層の輝きを見せている。

 なぜこれを頼んだかと言うと、この前来た時にお預けをくらったからだ。気になっていたものがやっと食べれると、無意識に机の端に置かれた、フォークを手に取ると、いちごに刺した。

 真っ赤ないちごを口に運び、半分ほどかじる。

(うまっ……)

 口に入れただけで、その一言が浮かぶ。噛むごとに、少しずつ汁が弾け、口の中は、完全にいちごの味に埋め尽くされた。

 『甘い』それだけじゃない。それに合わさる酸っぱさも調和が取れている。

 今までいろんないちごを食べてきたが、これほど、自分を刺激するものは初めてだ。

 それに気づくと、みるみると置かれたいちごは、消えていく。

 やがて、それが空になると、横に置いてある、ティーカップを手に取り、飲み干す。

 春が近づいているにせよ、まだ二月の後半。まだ暖かいという、言葉には遠い。

 その寒さに体も冷えている。店の暖房が効いているにせよ、まだ多少は寒い。

 それを解きほぐすかのように、暖かい紅茶は、喉を通り、身も心も溶かしていく。

「ふぅー」

 満足。今の光にぴったりの言葉だ。

 さらに落ち着いてしまったからか、眠気がさらに増してきた。

 これは、力声の言う通り、少し部屋を借りたほうがいいだろうか。そんなことを考えていると。

「光」

 その呼び声とともに、落ちかけていた意識を呼び起こす。

「ぅぉう……!」

 肩をビクッとさせながら、少しもたれた体を起こす。

「本当に大丈夫か……?」

 エプロンを取った姿で現れた、力声は、顔を覗き込みながら、言った。

「ごめん、大丈夫」

 そう言って、椅子から立ち上がる。

「本当に無理なら別に今日じゃなくてもいいからな。晶子には俺から言っとくし……」

 これほど疲れが出ているのは、力声も初めてで、今までこれほどの心配の言葉をかけられたことない光は、少し驚いている。

「いや、本当に大丈夫だから……」

 そう言うと、力声はそれ以上のことは、言わずに、光を例の部屋まで連れて行った。

 そして現れる、あのロッカー。光の苦手なものである。まだ少し慣れない。が、これに乗るしか、移動手段を知らないので、ただ力声について行く。

 そして、数字が書かれたロッカーが並べられている場所に着くと、力声は、五と書かれた扉を開けた。

 これは覚えている。光が一番最初に行った場所で、機械がたくさん置かれていた場所だ。

 相変わらずの勢いで移動すると、わかっていた景色を見渡すと、そこには見覚えのある女性が待っていた。『萩待晶子』だ。

「来たか」

 そう言って、こちらに向かってくる。

「悪いね、わざわざここまで」

 そう言ってくる晶子に両手を前にして、軽く手を振りながら、否定の声を上げた。

「いえ、そんな。そこまでの距離じゃないですし……」

 そう言うと、優しくこちらに微笑みかける。

「優しいな、君は」

 そう言って、本題に入る。

「光君に来てもらったのは、昨日言った、『霊体』についてもあるが、君に捕獲してもらいたい霊について教えるためだ」

 そう言って、光たちを先導するように前に進見ながら言った。

「ついてこい」

 そう言われ、後を追った。

 進んでいくと、その奥には、機械があるのは変わらないが、前の部屋ほどではない。さまざまな資料が置いてあり、開いている扉に目を向けると、そこには『管理室』と書かれた、プレートが付いていた。

 見たところ、情報を管理してある場所だろう。

 晶子は、パソコンのキーボードをカタカタと軽やかに指を動かすと、目の前の大きな画面に、人型の図が映し出される。

「まずこれを見てくれ」

 そして、画面に顔を向けると、それを確認し、話し始める。

「まず、基本中の基本。霊体について説明しよう。霊体というのは、言葉の通り、霊のからだ。ということだ」

 そう言って再びキーボードをいじると、今度は、人魂のような形をしたものが三つ映し出される。

 それぞれ、光から見て左から、『青』『オレンジ』『赤』といった具合で並んでいる。これを意味するのがなんなのか、これから説明される。

「これが何を意味するのか、光君にはわからないだろうが、見覚えはあるんじゃないかな?」

 そう言って、光の返答を待つように、こちらを見る。

 見覚え——。

 すぐには、思いつかないと思ったが、この形にその色。全てというわけではないが、見覚えがある。そう——。

「——霊の、魂……」

 そうぽつりと呟く。

 どうやら、晶子も聞こえたらしく、それに答える。

「まさにそれだ」

 人差し指で光の方向を指差すと、続ける。

「これは、霊に必ず存在する魂だ。もちろん、霊だけじゃなく、私たちの体にもこれは存在する」

 そう言って、自分の胸あたりを指差したのち、青から順に説明していく。

「魂の色は、その人の持つ霊気によって変化する。この青い色は、霊の中で一番下。つまり、霊気が薄いということだ。そして、その隣、オレンジは中間。この法則でいくと、その隣の赤は、一番上。霊気が濃いということだ」

 なるほど。

 つまり、魂は霊気の多さに比例して色が決まる。

 薄ければ、青。濃ければ、赤。

「これは、強さにも比例して、霊気が濃い。つまり、この中なら赤が一番強い。青が一番弱い。そして呼び方は人それぞれだが、基本的に、これらのことを、青から順に、ビーレベル。オーレベル。アールレベルと呼んでいる。簡単に、それぞれの頭文字を取った安易な呼び名だが……」

 霊気の濃さは、ただ色が変わるだけではない。しっかり、意味がある。

 そして、その呼び名もまた、しっかり決められているようだ。

「まあ、要するに、青が弱い。赤が強い。それさえ理解できれば問題ない」

 頭の中でいろいろ整理をしている光に向け、簡単に話をまとめた。

「それでは、次にいこう」

 そしてまた画面が切り替わると、再び人型の図が表示される。

「強さもいろいろあるが、霊にもさまざまな種類が存在する。我々もそれを全て理解できているとは、断言できないが、とりあえず、よく出るタイプのものを教えよう。まずは、ノーマル型。まあ普通の、何も変わりがないタイプだな。このノーマル型ができる動きは、基本の単独行動。そして、人に憑依することだ。これは、すぐに覚えられるだろうが、ちゃんと頭に入れておかないと、対処できることもできなくなってしまうからな。しっかり覚えておくように。そして——」

 そう言って、また画面を切り替える。

 人型の図は、相変わらず映ったままだが、真ん中に表示されていたのが、横にスライドし、端に移動していく。

 そして、その横に複数の矢印が表示されると、その横に、小さな円がいくつか並べられた。

「もう一つは、分裂型だ。分裂型は、自分の体をいくつか作ることができるタイプだ。力こそ本体には及ばないものの、実際にやられると厄介なタイプだな。そしてそれが、Oレベル、Rレベルになってくるとさらに厄介だ。上手く使いこなせるやつは、そこかしこにいるからな」

 一通り話し終えると、さらにもう一つ。別の図を出す。

 お決まりの人型の図とさらにもう一つ同じような図が横並びになっている。

 もう一つはさっきと同じだが、その隣は微妙に違う。人で言う、胸あたりに、人魂の形をした図が映し出されているものだった。

「そしてあと一つだけ、言わせてもらおう。もう一つのタイプは、何かしらの『力』を持ったタイプだ」

「力……」

 無意識に光はそう呟く。

「力声から聞いてなんとなく理解しているだろうが、私たちの言う『力』とは、魂だ。もちろん、霊も元は生きていた人間。生前に力を持っていた人なら持っていても不思議ではない」

 なんということだろう。

 この厄介な力は、生きている自分ですら、厄介だと感じているのに、さらに厄介な霊がそれを持っているとなると、厄介と厄介の最悪な組み合わせである。

「とまあ、長々と話してしまったが、霊体に関する基本的なことは、これくらいとして……」

 そう言って、パソコンを閉じると、光の方を改めて向く。

「さっそく、君の初任務についてだ」

 その言葉に、光は自然と背筋をピンと伸ばし、息を呑む。

 その姿に晶子は、フッと軽く微笑む。

「まず、光君に捕獲してもらいたいのは、ノーマル型の霊だ。その霊が出るのは、決まって夜。だから夜の活動になる。あらかじめ理解しておいてほしい。特徴としては、身体能力はやや高いこと、そして、ひかりに弱いことだ」

「光?」

 その特徴に首を傾げる。

「そうだ。だから決まって夜に現れ、人に憑依するとき以外は、基本外では姿を現さない。だから光君には、出てきたタイミングを狙ってやってもらいたい」

「…………」

 情報量が多すぎて、固まることしかできない。

 でもこれだけは、わかる。

 覚えることは、多そうだ。

「それと、もう一つ。それに向けて、やってもらいたいことがあるんだ」

「?」

 何も言わず、ただわからないという顔をする。

 晶子は、言葉を発するとこちらに近づき、肩にポンッと片手を軽く乗せて、続けた。

「まず、君の武器を決めようか」

「…………は」

 思わず口にした言葉は、随分と間抜けな声だった。

「さあさあ行こう」

 そう言われ、体をくるっと部屋の出口の方へ向けられると、今度は両肩に乗せられた手で、ぐいぐいと前進させられた。

 しばらくして、やっと解放された光は、家に向かって、足を進めていた。

 あの後、何をされたのかというと、用意された武器をひたすら試すことだった。

 ナイフ、銃はもちろん、鞭のような細長いものや、そんなに攻撃力が無さそうに見える、小さなものまで、さまざまだった。

 さすがに、今日中に全部試すことは難しいので、いくつかの扱いやすそうなものを自分で選んで試した。

 試すと言っても、軽く触ってみたり、自分なりに使ってみたり、簡単なことしかしていない。

 本格的に決めるのは、おそらく明日。

 時間がある時にするのだろう。

 でも、これで少しずつ実感が持ててきそうなとこまで来ている。

 無意識に手を握ったり、開いたりしてみた。

 月明かりに照らされたその手は、いつもとなんら変わりないが、改めてぎゅっと握った手と共に、心臓がトクンと跳ねた気がした。

 

 次の日、早めに学校を切り上げた光は、駆け足でカフェに向かった。

 今向かっていることを、携帯のチャットで力声に連絡を取る。

 ちなみに、力声との連絡先は、ちゃんとした方法で改めて交換した。

 やはりあの時は、光の記憶が正しく、教えていなかったようだったが、力声は平然とした態度だった。

 本当なら何か言うべきなんだろうが、力声のことなので、何も言う気にはなれなかった。

 とにかくネットって怖いなぁ。と思った。

 そんなことは置いといて。

 店に入ると、席には着かず、真っ直ぐスタッフルームに向かう。

 事前に教えてもらったパスワードを使い、ロッカーに入った。

 入ってきたばかりの新人にパスワードを教えてしまうのは、防犯的なアレでもどうかと思ったが、どうやらパスワードは、時間で変わるらしい。

 だからこのパスワードも時間が来れば使えなくなるということだ。

 そんなことを考えながら、昨日の場所へ向かった。

 武器のことに関しては、『四』階らしいが、とりあえず、合流するために、『五』のロッカーを選び入った。

 そこへ着くと、何やら忙しそうだった。

 十から二十人ほどの隊員と思われる人たちが、せっせと動き、機械をいじったり、画面を見ながら小型マイクのようなもので誰かに語りかけている者もいた。

「光君!」

 やがてその中心に立っていた晶子がこちらに気づき、早足でこちらに向かってきた。

「こんにちは」

 光は、ぺこりと頭を下げて、軽く挨拶を交わす。

「早かったね」

 光の挨拶に返すと、晶子はそう言った。

「学校が早く終わったので」

「なるほど」

 そう言って納得すると、光は晶子の横にひょこっと顔が出る形で覗き込むと、今の状況に問いかける。

「忙しそうですね……」

「ああ、少しな」

 その問いかけに、せっせと動く隊員たちを見ながら答える。

「私は今日付き添えないが、力声が今、四階で準備してくれてる。時間が許す限り、じっくり自分に合うのを見つけるといい」

「はい!ありがとうございます」

 そう言ってぺこりと頭を下げると、今度はロッカーではなく、室内についているエレベーターを使って、四階に向かった。

 四階につき、扉が開いて部屋全体見えるようになった。すると——

「うわっ……」

 思わずそんな声が出た。

 部屋には、準備を進めていた力声。それは、普通だ。だが、その周りはどうだろう。

 部屋全体が、まるでこれから戦争にでも行くような感覚で、びっしり武器で埋め尽くされていた。

 昨日とは全く違う光景に恐る恐る足を踏み入れると、入ってきた光に向かい、力声が声をかける。

「よっ!ここまでご苦労さん。待ってたぞ」

 そう言いながら、右手を挙げて、こちらに向けて手を振るような動作をする。

「ああ、ご苦労さん……」

 そんな力声に適当に言葉を返すと、続けた。

「なんだこの数……」

 率直に出た言葉がそれだった。

 状況が理解しきれていない光に力声は、明るい声で答える。

「すげーだろ。これでも全部じゃないんだぜ」

 周りを見渡しながら感心して言う。

「それは……ほんとにすごいな……」

 光の言葉を聞くと、力声は再び口を開き、自分の両手でパンッと手のひらで叩くと言った。

「ま、冗談はこの辺にしといて」

「冗談だったのかよ……」

 呆れ気味に力声を見ながら言う。

「いやいや、ここにある武器は、全部本物だぜ。これ以外にもあることは事実だし」

「じゃあ、何が言いたいわけ?」

 相変わらずのテンポに慣れてきた光は、さらっと聞く。

「さすがにこの中全部から選ぶのは、時間かかるし、かと言って慣れないものを選んだら、そっちの方が危ない。だから——」

 そう言って、すぐ横の机からリモコンらしきものを手に取ると、ピッという音を立てて押す。

 その途端、部屋が少しずつ揺れると同時に、壁やらにかけられていた武器たちが、次々しまわれていく。

 やがて、机に並べられたものだけになると、再び力声が口を開いた。

「まずは、扱いやすいものをこっちでピックアップしといたから、これで試してみようか」

 そう言われ、並べられた武器たちを見る。

 先ほどよりは、確かに数は減っている。

 机に並べられた武器の数は、ざっと見て、二十以上は確実にあるだろう。

 その多くは、ナイフや銃など、誰もが知っているであろう、代表的なものばかりだった。

 その数々にざっと目を通していると、後ろから音が聞こえてきた。

 振り向くと、どうやらエレベーターの扉が開く音だったらしい。

(晶子さんかな……)

 と考えたが、今日は忙しそうで付き添えないと言っていたが……。

 そんなことを考えながら、やがて扉が全て開くと、どうやら別の人物のようだった。

 見た目は、大きめの丸メガネが印象的で、上半身ジャージに下は膝くらいまである半ズボン。それに白衣を羽織るという、晶子に続き、独特なファッションをした人物が現れた。

 パッと見、男の子だろうか。その服装に反して、髪の毛だけは、綺麗に整っていた。

「お、来た」

 そう言って、その人物を手招きする力声。

 もちろん光はその人物を知らないので、突然現れた人物に困惑する。

 その人物は、並べられた武器の机に真っ直ぐ向かうと、それらに目を通した。

「えっと、光。この人は今回協力してくれる、うちの開発研究員のば——」

 と力声が喋っているにも関わらず、その人物は、武器に目を通し終えたのか、今度は光に向かって歩み寄ると、突然グッと制服のシャツを掴んだ。すると——

「っ——⁉︎」

 服を掴まれたかと思うと、光の目に飛び込んできたのは、ある行動だった。

 そう、掴んだ手を思いっきり上に持ち上げたのだ。

 その人物は平然とした態度のまま続ける。

 シャツの中に着ていた下着も同時に剥がされ、露出した肌をまじまじと見つめる。それに続け、持ち上げた手とは反対の手で肌をペタペタと触り始める。

「え、ちょ——」

 困惑しその状況をただ見つめることしかできなかった光がやっとの思いで声を出し、制止した。

 だが、それも無視、あるいは聞こえていないのか、今度はそれが背中にまわり、足にまわり、もう何がなんだかわからない。

 一方力声はというと、すでに諦めたようで、額に手を当てながら、やれやれといった様子で離れたところで、見守っていた。

 さまざまなところに触れ続けていた例の人物は。

「チッ……」

 と小さく舌打ちをしたと思うと、その手は、だんだん上に上がってきて、やがてズボンの一番上に差し掛かると、なんと——

「っ——」

 カチャカチャとベルトをいじり始めた。

「お、え……」

 少しずつ解かれていくベルトを目にしながら、さすがにこれ以上は、やばいと反応しその手をパシッと力強く掴むと、声を上げた。

「ちょっっっっとまて‼︎」

 その声に驚愕の雰囲気がシンと静まる。

「あ?」

 まるで不良のような言い方でこちらを見上げてくる。

 メガネが照明に反射していたが、うっすらと目が見える。

「うっ……」

 その姿に少し怯えながらも、光は言葉を発する。

「え、何してんの……」

 まるで、変質者を見るような目で訴えかける。

 そんな光に平然と相手は答える。

「わかりづりぇから調べてやってんだろうが」

 その答えに、全く見当がつかない。

「だからどういう——」

「まあまあまあストップ!」

 その様子を見ていた力声がやっと、制止に入る。

「「゛あ?」」

「うぐっ……」

 見事に二人がハモると、もうどっちがどっちだか見分けがつかなくなってきた。

 力声は、ふぅーと落ち着かせるように息を吐くと、二人に声をかける。

「光はとりあえず手離して……爆大ばくだいさんもベルト離して……」

 光は素直に手を離したが、爆大と呼ばれた男はムッとしたが、力声の「ほらほら」という言葉でやっと手を離す。

 その様子に力声はホッとする。

 そして改めてその男について紹介する。

「じゃあ改めて……」

 そう言って、隣に立った男に手を向けながら続けた。

「この人は『爆大飛翔ばくだいひしょう』さん。一応ここの開発研究員で、主にこういう武器とかを作ってくれてて、今回の武器選びに協力してくれるってことで来てもらったんだけど……」

 そう言って横目で爆大を見る。

 相変わらずムッとした表情をしているようだ。

(協力……?)

 協力してくれるというので連れてきたというが、これは協力してくれるという雰囲気だろうか。

「えっと、さっきのアレは、この人がいつもしてることだから、気にするだけ無駄だから」

 アレとは言わずともわかるだろう。

「無駄ってなんだよ‼︎」

 力声の言葉でやっと声を出した爆大。こんな大きい声は初めてだ。

 横でその大声を聞いた力声は、両耳を塞ぎながら言った。

「この人曰《 いわ》く、その人に合った武器を作るために必要なことなんだと」

 必要なことなのはわかった。だが——

「それにしたって、突然ああいうことするのは、どんな人にしたって引くぞ」

 光はズバッと思ったことを言った。

 理由を聞かされでもしないと、これは誰から見ても変質者だ。いや、理由を聞かされてもやられることに対して何にも思わないことは無いと思うが。

「い、いいだろ別に……それが俺の仕事なんだから」

 と、腕を組みながら、もごもごと言う。

 そして仕切り直すように話題を逸せる。

「んで、こいつの武器だっけか」

 そう言って再び並べられた武器に目を通すと、一つの武器に指を指す。

「これ、なし」

 それを合図に次々と指を指しながら言っていく。

 それを力声がひたすら手に取って回収していく。

「なし、これもなし、こいつもダメ……」

 そう言って次々と武器を選択肢から排除していく。

 それを続けると、二十以上あったはずの武器がなんと六つに絞られていた。

「今のこいつに使えるものといえば、これくらいだな」

 そう言われ、残っていたのは、大半が銃で、あとは小型ナイフや折りたたみ式のナイフのみ。

「だって」

(だってって……)

 力声がこちらを向き言うと、心の中でそう返す。

 そんな中、爆大は、気にせず口を開いた。

「本人の戦闘データがない以上、細かいことは、何にも言えん。が、やっぱ最初はそこら辺が無難だろう。とりあえずそれ使ってみい」

 そう言われて、武器を手に取ろうと手を伸ばした。すると——

「あ」

 と何かを思い出したように声を上げたのは、爆大だった。

「そういや忘れてた、ほれっ」

 その言葉と共に光に、ふわっと何かを投げ渡された。

「っと」

 慌ててそれを受け取ると、それは黒い手袋だった。

 それを受け取ったのを確認すると、爆大は光に向かって指を指しながら言った。

「お前、霊が触れないって話だったろ。とりあえず慣れるまでそれつけとけ」

 光は手袋を見つめながら聞いた。

「これって……」

「それつけとけば、少なくとも霊に触れるようになる。仕事すんならそっからできるようになんなきゃ始まらねえだろ」

 この手袋は、どうやらそんな効果があるらしい。光にとっては、それも悩みの一つだったためありがたい。

 光は素直にお礼を言う。

「……ありがとう!」

 さっき言い合っていた人とは思えないほど輝いた瞳を向けられ、爆大は顔をふいと横に向けた。

「フンッ。精々それで少しでも役に立てよ。それと、感謝の気持ちがあるなら行動で示せ。俺の武器を少しでも雑に扱ったら殺す」

 と、口ではとても厳しい言いようだったが、少しは心配してくれているのだろうか。

 横向いてて顔は見えないけど。

「ほら、時間ねぇぞ!さっさと自分のやつ決めろ!」

 爆大は、着けていた腕時計を見ると、そう声を張り上げた。

 やっぱり心配してないかも……。

 光たちは、爆大に急かされ、『訓練場』へと急いで足を運んだ。

 訓練場は、さっきいた部屋の奥の奥にある。

 使いたいものをすぐに試せるようだ。

 とりあえず光は、勧められた六つを順に試すことにする。

 手始めに最近使ったことのある銃から。

 銃は銃でも種類はある。見た目はほとんど同じだが、違う性能があるらしい。

 手前の銃を手に取ると、前より重みがあるように感じる。

 どうやら、離れた場所にあるまとを狙って撃つという形式らしい。

 離れた場所と言っても、距離はそれぞれあって、一番短い三十メートルで始める。

 光は的に向かって銃を構える。

 光はもちろん素人なので、絶対何かしら言われると思ったが、他の二人は見ているだけだった。

 爆大は何やらビデオカメラを構えている。

 とりあえず自分のタイミングで撃ってみた。

 パンッ!

「うわっ……⁉︎」

 撃った反動で軽く後ろによろめくが、なんとか足に力を込めて、転倒を回避する。

 結果は——

 もちろん的にかすりもしていない。

 銃弾は、的から少し離れた斜め上辺りに当たったらしい。

 わかっていたことだが、やはり悲しい。

 それを見ていた二人はやっと口を開いた。

「へったくそ」

 と声を上げたのは爆大だった。撮ったビデオを確認しているのだろうか、こっちを見ずにカメラを見ながらそう告げた。

「まぁ、最初はこんな感じだって。いや、最初にしては、結構筋良いんじゃないか」

 そう言ってきたのは、撃った銃弾の場所を確認してきた力声がこちらに戻ってきて言った。

「最初から当たる人なんてそうそういないし、俺だって最初は当たらなかった」

 力声はそう言うと、光にこう投げかけてきた。

「光!撃った時、どんな感じだった?例えば、撃ちにくかったとか、体に負担がかかるとか。なんでも思ったことを言ってみてくれ」

 急にそんなことを言われても……。

 正直、当てることに精一杯でそれ以外何も考えていないに等しいが、なんと言ったものか。

「うー……」

 小さなうめき声のような声を出しながら、考え込むと、ハッと何か思いついたように人差し指を立てると言った。

「正直に言うと、何を感じたかと言えば、詳しくはわからない。でも今思うこととすれば……撃ちやすかったとは思う。自分なりに、一番ベストだと思う感覚で撃ったつもりだし。まあ実際当たってないんだけど……。でも、なんていうか、その……」

 溜めに溜めて出した言葉はこうだった。

「……すごかった!」

 我ながら、高校生でありながら出す答えがこれとは……学校でこの感想を書いて提出したなら、確実に再提出だろう。

 その言葉と共に、一瞬沈黙が訪れたが、力声がそれを破る。

「ふはっ、そっかそっか!そら良かった!」

 光としては、そう言うことではないとか、何言ってるんだとか、そう言う感じだと思っていたが、案外好評のようだ。

「こっちとしても、そう言う考えの方が教え甲斐があるってもんだよ」

 その声で、光たちは次に進んだ。

 それからは、並べられた武器をひたすら試した。

 最初は、自分一人でそれぞれ試した。意外にも、どれも使いやすく、反動もできるだけ最小限のものもあったり、あの爆大という人物が選んだ武器の数々は、ちゃんと光に合った、ちゃんと考えられたもので、その凄さに、武器の専門なだけある。

 一通りやり終えると、その中で、自分に合っているであろう武器を自分でできるだけ絞った。

 今度は力声がそれぞれの武器の使い方やアドバイスをくれた。

「手は……ここ。そう、もう片っぽの手で支える感じ……ん、そんなに力は入れなくていい、もうちょい抜いて……もう少し、そう。そのままをキープして」

 力声が光の後ろにまわり、支える形で丁寧に教えてくれている。

「目は両方開けて。閉じないで、しっかり見ろ」

 横からくれるアドバイスを聞き入れながら、動きを少しずつ修正していく。

「ふぅーー……」

 空気をしっかり吸い込み、吐いて息を整える。

「……今!」

 力声の声と共に、指にかけた引き金を一気に引く。

 パンッ!

 撃ったことを確認するのに、光自身時間がかかり、しばらく撃った体勢のまま固まる。

 力声が光のそばを離れ、当たった場所を確認しに行く。

 走り出した力声の後ろ姿を目にとらえると、やっと銃を下ろした。

「ハァ……ハァ……」

 止まっていた呼吸をやっと思いで吸い込み、吐いてを繰り返す。最初も少々早かった呼吸も、だんだんとゆっくり、そして深くなっていき、少しずつ整えていく。

 そして、向こうに見に行った力声が声を上げた。

「光!」

 手招きされて見に行くと、そこには。

「っ……!」

 最初に撃ってから何度も撃っているが、どうしても的に当たらなかった。なんならかすりもしなかった。

 だが、今はどうだろう。

 今撃った銃弾は、ほんの少しだが、的の端に着弾している。

 力声のサポートがあったとはいえ、これは大きな進歩だろう。

 そこからは、握り方、構え方、その時に応じてどんな使い方ができるかなどを、力声のサポートと共に実際にやってみながら、少しずつ頭と体に刻み込んでいく。

 銃意外にも、ナイフの使い方についても知りたいところだったが、この日はここでお開きとなった。

 次の日から、光は学校帰りにカフェに通い、訓練をすることになった。

 ある程度の使い方を身につけ、今の自分に合うものを見つけ、そこからひたすらそれを磨いた。

 もちろん、訓練だけでなく、霊のことについての勉強も取り入れることになった。

 それは光が希望したことで、基本的なことを知っていれば、今回にはあまり支障はないらしいが、今後のことを考えて、知れるとこまで知ってみたいと思った。

 訓練の隙間時間や、途中で軽く触れるなどして、光は武器だけでなく、霊のことについても着実と知識を身につけていった。

 今回の任務に使う、光のメイン武器は、銃で、サブ武器として、折りたたみ式のナイフに決定した。

 決まってからは、狙いの正確さを磨くのはもちろん、反動に慣れることや、止まって撃つだけでなく、動きながらでのことを考えたものもやった。

 ダメな部分に関しては、力声もアドバイスをくれるが、それよりも的確に言ってくれるのは、爆大だった。

 爆大は、光の動きをビデオに撮り、見て、比較することで、ダメ出しだけでなく、やる気を損ねないためなのだろうが、良くなっている部分も含めて、伸ばすことを教えてくれた。

 言葉は相変わらず厳しいが、言っていることは、間違っていない。むしろ図星を突かれすぎて驚くことも多々ある。

 そんなことを毎日繰り返しながら、いつ現れるかわからないその日まで、着々と準備を進めた。

 

 場所は、五階にと移る。

 晶子は、資料室でそれぞれの資料に目を通していた。すると——

 ピピピッピピピッ……

 突然その音は鳴った。

 この音の正体はというと。

「一定以上の霊気反応あり!」

 画面の前の椅子で待機していた隊員の一人が、画面に映し出された反応を見ながら、声を張り上げた。

 そう、この音は、霊が現れた時に出される、音だったのである。

 資料室にいた晶子も急いで、そこを出て、その画面に目を向ける。

 晶子はその霊気の反応を見ると、驚きを含ませた声で言った。

「っ……これは……」

 すると急いで画面に連携しているパソコンを隊員の隙間から覗き込み、その霊気の発生している場所を確認した。

 そして、晶子は急いである場所へ向かった。

 そして場所は、訓練場。

 そこには、光、力声、爆大がいた。

「ここは、もっとばっ!と振っていい」

 光は、右手でナイフを持ち、力声のアドバイスを聞きながら、いつも通り行っていた。

 すると——

 バンッ!

 訓練場の扉が勢いよく開くと、光たちは、それに驚き、思わず振り返る。

 するとそこには、晶子が立っていた。

 そして入ってくると同時に口を開いた。

「光君!力声!訓練はそこまでだ」

 そう言って、光たちのそばまで近づくと、止まった。

「何かあったんですか?」

 その様子にナイフを一度折りたたむと、光は晶子に問いかけた。力声も光に向けていた体を晶子に向ける。

「この日が来たようだ」

 そうとだけ言うと、光はわからないと言った様子で口を開く。

「この日?」

 そして力声には、伝わったらしく、晶子に向かって言った。

「っ、まさか……」

「ああ」

 その二人の様子に、光は置いてけぼりにされている。

「え、なにっ」

 と声を出すと、晶子は光に向かって言った。

「さあ、光君。待ちに待った時間だ」

「……?」

 晶子は息をスゥーと吸うと言った。

「君の、初任務だ」

「っ……!」

 その一言で光は全てを理解した。

 ——ついに、この日が来た——

「にしても、少し早すぎないか?」

 そう口を開いたのは力声だった。

「ああ、確かにこの前反応があった時間帯より、少し早いな。あいつは、完全な夜にならなければ現れないはずなのに、今は少しとはいえ、日もまだ落ち切っていない。単なる気まぐれか、余程素晴らしい素材を見つけたのかもしれないな」

 晶子は力声の言葉に対してそう返す。

「なら、急がないとな」

 そう割り込んで来たのは爆大で、そのまま続ける。

「あいつは、ノーマル型とはいえ、かなりすばしっこい上に、人に憑依するのが上手い。人に憑依されたら、そいつの肉体がどうなるかわからない」

 と告げた。

 光は、まだ入ったばかりだが、急がなければまずい状況なのはわかる。

「なら行きましょう!」

 光がそう言って、晶子に場所を聞くと、力声を引っ張って、訓練場を出ようとする。

 と、そこで、後ろから声をかけられる。爆大だ。

「おい!これ、わすれてんぞ」

 そう言って投げてきたのは、光が使うことに決めた、メイン武器である銃だった。

 それはしっかりとホルダーにしまわれていた状態だった。

「あ!ありがとうございます!」

 一言お礼を言うと、ホルダーを腰に巻きつけ、持っていた折りたたんだ状態のナイフもしまう。

「気をつけて行っておいで、力声もいるし大丈夫だと思うが、こちらもサポートはする」

 晶子は光にそう投げかけると。

「はい!」

 と一言返した。

「失敗したら承知しねぇからな……」

 と声をかけた爆大だったが、顔を上げた時にはもう、光たち行ってしまっていた。

 晶子も部屋を出るところで、その様子を見て言った。

「帰ってきたらちゃんと伝えられるといいね」

 そう言い残して、訓練場を後にした。

 その場にぽつんと残された爆大は、恥ずかしさを、歯で噛み締めて必死に堪えていたのだった。

書き始めたら区切りがつかなくなってしまって、いつのまにかこんなに日が空いてしまいました。

すみません。

前の話を覚えてない方は、是非おさらいついで、前の話を読んでみてください。

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