秋葉原にて
やっと依頼内容を知った二人は驚きを隠せない。
一旦店を出ることにした二人だが、力声はある人物に電話をかけていた。
プルルル……
そんな音を携帯から鳴らしながら、力声は携帯を耳元にあてて、相手が出るのを待っていた。
光たちは、声を上げた後、これ以上いるのも目立つので、あのメイド喫茶を出た。
今はとりあえず店のあった建物の端で、力声が苛立ちながらも電話相手を待っている姿を眺めていた。
なかなか出ないのか、靴のつま先をトントンと上下に動かし、苛立ちに耐えていた。
「おい晶子!」
ようやく相手が出たのか、力声が声を上げた。どうやら相手は晶子だったようだ。
「お前……わざとか」
『なんのことだい?』
電話の向こうから聞こえてくる晶子の声はいつも通りだ。
「明らか俺ら案件じゃねーだろ」
『そうかい?私はいいと思ったんだけどね』
冗談ではなく本気で言っているところが憎たらしい。
「なんっだよ……!魔法少女って、『少女』なんだから女隊員の案件だろ……!」
依頼主の花火愛に聞こえぬよう、声を潜めながら怒鳴る。
だがらと言って、晶子も曲げるつもりはなく、冷静な声で言う。
『何を言う、ただでさえ女性隊員は少ないんだ。こちらとしても、調整が大変なんだよ?それに、私は何の策もなく力声たちを送ったわけではないよ』
「んなことわかってる……!だから早くそれを言えっ」
『まあまあ落ち着け』
「誰のせいだ!」
『策というほどでもない。簡単なことだ。まあ、二人のどちらかには体を張ってもらうことになるだろうが』
「はぁ?何言って——あっ……」
力声が晶子に投げかけようとした言葉を止めて、何か思い至ったように小さく声を上げた。そして、額に手を当てると、大きくため息を吐く。
「はぁ〜……それ、本気か?いや本気なんだろうけど。でもほんとにそれ俺らでいいの?かなりその……キツいぞ」
はっきりと晶子に言う。
晶子も力声と同じことを考えていたが、引く気などない。
『冗談に聞こえるか?』
本当に冗談でも言うような声色で問う。
「誰が聞いても冗談にしか聞こえないだろ……まあ、とりあえずそれは冗談じゃないのはわかったけど」
『なら決まりだな。とりあえず必要なものを言うから買ってくるといい』
「まじかっ……」
力声は頭を抱えて、逃げきれないことを悟った。
力声は晶子の指示だと言い、光と愛と買い出しに出た。
内装の可愛らしい店へと入ると、必要なものを力声がぱぱっと素早くカゴに入れ、時々どっちがいい?とこれまた可愛らしい服を見せながら聞いてきたりした。
なんやかんやで買うものは買ったようで、光は首を傾げながら、買ったものが入ったビニール袋を何個か下げて見つめていた。
「これ、何に使うんだろ」
(晶子さんの考えがわからん……まさか私物?いやいやそんなわけ……)
全く見当がつかず、心の中でも外でも疑問を口にする。
「さ、さあな〜」
力声がわざとやっているのではないかと思うくらい明らかに知っていそうな反応をする。
(……なに?)
呆れながらも嫌な予感を感じさせる反応に眉を寄せる。
晶子の指示だと言うこともあり、自分にはまだ話せないことなのだと結論づけて、その疑問を力声にぶつけることはなかった。
一度戻って改めて準備を整えるとのことだったので、いずれわかることだろう。
「そんでさ、まだ帰るには早いし、どうする?」
力声が下げた紙袋を揺らしながらこちらを振り向いた。
現在、十五時過ぎ。微妙な時間帯だが、確かに帰るには早いように思う。だが……
「いや、この荷物だぞ?これ下げて回るのは、普通に回る倍疲れるって」
二人で分けてはいるものの、お互い二個以上は荷物を持っている。光はビニール袋をいくつか下げて、まだ重いまではいかないが、力声は服などが入った紙袋。二つだが、光よりも重さのあるものだ。
「へーきへーき!それにさ、せっかくじゃん?光も見たいだろ?」
「それはまぁ……そうだけど……」
力声は大丈夫だろうか。本人が大丈夫って言っているから気にすることはないんだろうが、荷物係と言えなくもない気がする。
「よし決まり!とりあえず片っ端から面白そうなとこ入ってみようぜ」
と、力声は早速、例の面白そうなとことやらを見つけたようで、あの荷物を抱えながら走っていった。
光も愛とはぐれないよう手を繋いで、力声を追う。まあビニール袋を持っているから、手を握っていても不自然ではないだろう。
どこかと思えば、そこはゲームセンター。人の声や機械の音が混じり合い、休日だからか中はより一層賑わっている。そして、この熱気。夏場と言われてもおかしくないような室内に、体がおかしくなりそうだ。
「すっごーなにこれなにこれ?!」
力声はまるで初めてそれを見るかのような反応をする。
「クレーンゲーム。やったことない?」
「ない!」
力声は元気な声で言った。光も半信半疑で質問してみたものの、まさかないと言われるとは。
「うーんと……」
光は辺りを見回しながら、ほとんどの台が埋まっている中、一つだけ空いている台を見つける。
それは小さなクレーンゲームで、ネコのぬいぐるみキーホルダーのようだった。
「えっと、とりあえず見てて」
光はその台へ行き、お金を入れると、チャリンっという音と共に、軽やかな音楽が鳴る。レバーを動かすタイプで、光はレバーを動かすと、レバー横の小さな画面の三十の数字がカウントダウンを始める。制限時間があるもののようだ。
三つのネコが配置されている中で、光は白いネコに狙いをつけてアームを移動させる。
体辺りに狙いを定め、決定ボタンを押すと、アームがネコに向かって降り、ガシッと体を掴んだ。腕の間にいい具合に入り、持ち上げても落ちることはなく、そのまま取り出し口まで落ちた。
(取れちゃった……)
光もまさか都合よく取れるとは思っておらず、びっくりしていた。
取り出し口から白いネコを取り出すと、光は言った。
「んーとまあ、こんなふうにこの機械を操作して景品をとるゲーム……みたいな」
そんな光の姿に力声は目を輝かせていた。
「うぉー……!すげー!面白いな!」
力声が興味を持ち始めたようだ。隣にいた愛もすごいと目を輝かせていた。
光は取った景品を見つめながら数秒考えると、力声にそれを差し出す。
「あの……よければいる?なーんて……」
「いる!」
「いるの?!」
予想外の反応に光の驚きが漏れる。
「だって光、かっこよかったもん!もらえるならもらいたい」
これは素なんだろうな。こういうところがたまにびっくりする。
光はノリノリな力声にそれを渡しながら言った。
「そんなところでかっこよさを感じるなよ……」
光は呆れながらも笑ってしまった。
そこからその店のいろんなクレーンゲームを回って、気になるものがあると、力声はものすごくやりたがり、何度も失敗していた。
途中、あぁぁぁぁっ!と喚きながらも結局やっていた。
最初にやった時、力声は一発で取れるものだと思っていたらしく、取り出し口の手前でアームから景品が落ちた時、機械が壊れてしまったと、あたふたしていた。そうではないことを伝えると、わかりやすいほど安心していた。
そして、やっとの思いで取れたのが……
「収穫はこれだけか〜」
力声は薄桃色と水色の二つのネコのぬいぐるみキーホルダーをぶらんぶらんと手で揺らしながら掲げた。
もう空はオレンジに染まり、チェーンの部分がキラリと反射する。
もう片手には先程買ったボリューミーなサンドイッチを持って頬張っていた。
ちなみに最初に光が取ったものと色が違うだけでシリーズは全く一緒だ。
全く取れる兆しのない力声は、光が取れていた台に戻り、これならいける!っと意気込みやったが、先程のようにいかず……だがもう一度プレイ。力声の何かに火がついたようで、その台をひたすらプレイしていた。
力声の今までの姿を見ていたのか、店員がアシストしてくれたおかげで、最初は案外すぐに取れたのだが……自分の力で取りたいともう一つ取ることに。
その台はまだ比較的取れやすい台だったのか、なんとか取ることに成功した。
もぐもぐサンドイッチを食べながら、取れたのは嬉しいがなんだか不服な表情な力声に、光は言う。
「取れただけでもすごいと思うけど……取れないやつはほんとに取れないし」
「そうなんだけどさー!あのでっかいくまたまごほしかった……」
唇を尖らせながら呟く。
「いや、あれはちょっとむずいって」
光はその台にあったくまたまごとやらのぬいぐるみを頭に思い浮かべた。本当にそのままで、卵の中からクマの顔出ていて、卵の着ぐるみでもきているのかなという感じのぬいぐるみだ。丸いし重いし、あれはなかなか難しいだろう。
「ていうか、ゲーセンは沼に入るとやばいから、あんまり覗かない方がいいよ」
光は苦笑しながら、力声に念を押すように言う。
力声がやったことがないと言うので、今回はみることに徹していたが、次は止めた方が良さそうだ。光も久々にプレイしたが、実際楽しかった。
「う〜……恐ろしや〜奥が深いよゲームセンター」
「だな」
光は力声の謎の俳句っぽい言葉に同意する。
「気をつけなきゃ」
力声が最後の一口を食べ終わるとそう口にした。
近くのゴミ箱に包み紙を捨て、力声はハッとした。
「そういや俺だけめっちゃ楽しんでんじゃん……」
力声は仕事にも関わらず遊んでしまったのもそうだが、肝心の依頼主(小さな女の子)よりはしゃぎ、ほぼ放置状態だったことだ。
「今更かよ」
光にもそう言われてしまった。
力声は愛の身長に合わせて膝を折り、パチンっと両手を合わせた。
「ごめんなっ!振り回しちまって……つまんなかったろ?」
そんな力声に愛は首を横に振った。
「わたし楽しかった……!かわいいのいっぱいでおにーちゃん面白かった!」
本当に楽しそうにオレンジ色の空が映った目をキラキラ輝かせて言った。
「え、そう?」
その反応にホッとしたと同時にある言葉が引っかかる。
(ん?面白い……?)
そんな力声は、頭を振って考えるのをやめると、持っていたネコのぬいぐるみキーホルダーを差し出した。
「これ、今日のお礼」
「え、おれい?何もしてないよ?」
愛は首を傾げる。
「おれすごく楽しかったから、メイド喫茶だって初めてだったし、料理もうまかったし!愛がいなきゃ経験できなかったことだ」
力声は愛にそう笑いかけて言った。いつのまにか愛に対して呼び捨てになってるくらいに嬉しかったのだろう。
「だからはいっ」
ずいっと差し出すと、愛はうーんと悩みながらも、薄桃色のネコを選んだ。
それを受け取ると、ものすごく嬉しそうにそして大事そうにギュッと胸に寄せた。
「ありがとう!おにーちゃん!」
「どういたしまして、こちらこそありがとう」
そう言って愛の頭を軽く撫でると、折っていた膝を戻した。
「青いおにーちゃんも!ありがとう」
「え、俺?」
突然自分に回ってきてびっくりしたのか、肩がびくんとする。
「え、と、こちらこそ……ありがとう」
光も照れながら愛にお礼を伝えた。
「あ、照れたね?今」
力声が指でつんつん腕を突く。そしてそのニマニマした顔でやってくる。
「は?眼科行け」
力声の頭をがっしり掴んで引き離す。
「隠すことでもないだろ」
「隠してねーしお前が勘違いしてるだけ」
「照れ顔察知には自信が——」
「あってたまるかーーっ!」
夕日に染まる空の中を泳ぐカラスが、カァカァと鳴いていた。




