覚悟
昨日の出来事をきっかけに、決断を決めた光。
正式に入隊するための手続きを済ませるため、前に訪れたカフェに向かうことに。
この前と同じような移動手段にやはり慣れない光は、フラフラになりながらもある場所へ連れられる。
そこは、この前見た機械だらけの部屋とはまるで違う場所であり——?
「——ということで、無事、光の加入が決定しました!」
そう声を上げたのは、他でもない力声だった。すると同時に周りから盛大な拍手が主役に送られる。
たくさんの人に囲まれて、その中心には、所々に紙切れが付いた光が、拍手を浴びせられていた。
(なんでこうなった……)
遡ること約二十四時間前。
スーパーへと買い物に出たはずの光は、何故か霊との鬼ごっこに巻き込まれてしまった。
無事その霊を捕獲し、Spiritへの加入を決めたが、その代償は大きく、唯一の移動手段である自転車が使い物にならなくなってしまう。それに光は押さえつけていた感情を爆発させ、怒りをぶつけたこともあってか、さらにぐったりした状態で朝を迎えた。
そして今日、手続き諸々をするというので、学校が終わった後、前に力声に連れられたカフェに行くことになっている。
ちなみに、自転車はまだ帰ってきていない。昨日は、無理矢理引きずりながらも持ち帰ってきたはいいものの、昨日ので限界を迎えたのか、ダメ元で、修理に持って行こうとしたが、前に進むたびに、メキメキと何かが壊れそうな音を出していたので、それ以上動かすのはやめた。
なので今日も学校まで徒歩で行くことになった。うちの学校は、家からだと遠いとも言えなければ、近いとも言えない微妙な場所に位置している。
それに、一昨日も昨日も散々な目に遭い、慣れないことをしたせいで体も少々疲労を訴えていた。
最後の力を振り絞り、学校に着くと少しずつ力が抜けていく。やがて教室に、そして自分の席に手を掛けるとバッグを机に置き、まるで酔っ払ったおっさんのようなスタイルでだらしなく席に座った。
——ああ、椅子って素晴らしいなぁ——
ついには頭までおっさんくさくなってきた光に、すぐ横の席にいた和也は、心配そうに声をかけてきた。
「光……大丈夫?なんか昨日より顔死んでない?」
さすがにそんな姿の光をなかなか見かけないので、和也はとても不思議な感覚であった。その言葉に光は、自分にとって精一杯の声を出した。
「うっぅぅ……」
多分「うん」と言いたかったのだろうか、もはや呻き声にしか聞こえない。その答えにさらに心配になる和也。
「え、本当に大丈夫……?保健室行く?」
普段の行いから、優しいのは知っていたが、ここまで優しく接してくれるとは。光がもし、和也側ならとても面倒な人だなと感じてしまうだろう。
(俺って……いい友達持ったなぁ……)
としみじみ思うのであった。
学校が終わると、光はカフェに向かおうと足を進めたが、校門を出てふと思う。
(俺……あの場所知らなくない?)
と。確かにあのカフェの建物がどんな感じか覚えてるし、足も踏み入れた。だが、あの時は、知らぬ間に知らない場所にいたし、ついて行っただけで、ちゃんとした道を覚えているわけではなかった。
(あーー、やっちまった……)
光は額を手で押さえながら、渋い顔をしていると。
「光?」
と顔を下から覗き込む形で出てきた。
「うぉわ⁉︎」
さすがの光も突然のことでびっくりして、思わず跳ねながら後ろに下がる。そして、急に出てきた人の顔を見ると、光はその名を呼んだ。
「おまっ、なんでいんだよ……力声!」
そう、光の前に突然現れた人の正体は、力声だったのである。
「いちゃ悪いかよ」
「っ!ていうか、急に出てくんな!びっくりすんだろ⁉︎」
そう言う光に、力声は平然とした態度で言う。
「いや、何回も呼んだんだけど……。それに気づかなかったの光だからな?今回は俺のせいじゃないぞ」
そう言ってきた力声の言葉を素直に受け取り、言った。
「え、あっ……そう……なのか?悪い、考え事してて」
そう言うと「へー」という言葉だけ返してくる。そして、光は突然出てきた理由について尋ねた。
「ていうか、お前なんでいんだよ。カフェで待ち合わせだろ?」
「いやーそれがさ、俺、光に場所ちゃんと伝えてなかったなって思ってさ。晶子に聞かれるまで、俺気づかなかったわー」
と罰が悪そうにそう言った。晶子とは、この前の女性のことだろう。
「ほー、てことはお前は俺の道案内で来たと?」
「まっ、そう言うことだな」
それならば都合が良い。ちょうどそれについてどうしようと考えていたことだし、単純に助かる。
「んじゃ、サッとお願いします」
「おう、任せろ!」
そう言って、目的の場所までの道を歩いて行った。
途中、いろんな店に立ち寄った。急がなければと思っていたし、ただ遊んでいるのかと思っていたら、どうやら向かいに行くついでに買い物を頼まれたらしい。それならば仕方ないと思いながらも道を進む。すると買い物袋を両手に下げた力声が声をかけてきた。
「あのさ、答えたくなかった答えなくていいんだけど——」
突然、話を切り出され。
「え、お、おう」
そうかろうじて答えると、話の続きをしてきた。
「光のその……未来が見れる力ってさ、どのくらい先の未来が見えるんだ?」
本当に突然である。しかもあまり触れられたくはない、能力の話を話題に。
「え、あー……」
あんまり答えたくないと言った様子で、目を逸らす。するとすぐ力声はこう言った。
「いや、無理して答えてほしいわけじゃないから。ただ単純に興味が湧いただけだから、あんま深く考えんな」
そう言って、話を無理矢理切り上げた。そして、光の感覚だが、それと同時に歩調も少し速くなった気がした。
そうこうしてるうちに、目的地である、カフェ、『TEA-Main』と書かれた店に着く。
カランッと軽やかなベルの音を鳴らしながら扉を開けると、前に見たおしゃれな景色が広がっていた。前に一回来ただけだが、やはり店内に広がる紅茶の香りは、鼻をくすぐる。この前は、緊張していて、お店を堪能!とはいかなかった。今度は個人的に行ってみたいなと思いながらも、力声の後をついてく。前のように席に座るのではなく、まっすぐスタッフルームの扉に向かった。
その後は、この前と同じ道のりだった。奥の部屋から、ロッカーでの移動。だが前は五番のロッカーだったが、今日は、この中で一番大きい、数字の八と書かれたロッカーの中に入った。ほんの一瞬で酔いそうな勢いで上に登ると、この前の機械だらけの部屋とは違い、普通に綺麗な一部屋だった。シンプルなデザインの机に黒椅子。壁には、写真が収められた額縁がいくつも並べられていた。楽しそうな写真から悲しそうな写真まで様々だった。
周りを眺めながら前に進むと、力声は入って来ず、そのままロッカーの扉を閉め、下に落ちて行った。
「えっ……」
思わず、そんな声を出すと、その黒椅子に座っていたこの部屋の主が背を向けながら言った。
「悪いね……。彼には事前に私から言って席を外してもらったんだ。落ち着かないかもしれないが、君とは二人で話したかったんだ」
声からして、渋い男の声だった。そう言うと椅子がくるりと回り、光の目にその主の姿が目に入る。机に両手を組んでついた。
「君だね?新しく加入したいという少年は……」
「っ……」
薄茶色のさっぱりした髪型に、口髭を生やし、キリッとした目をした男性だった。明らかにここの一番偉いそうな人がそう尋ねてくる。なんだか計り知れない圧が光を襲い、息を呑む。
「ああ、そんなに固くならないでくれ、ただの確認だ」
片手を前に出し、宥めるような仕草をする。
「あ、えっと……その」
なんとか振り絞って出した言葉は、全く答えになっておらず、曖昧な形になってしまう。その様子見て察したのか、口を開く。
「なるほど、その様子だと本当のようだね」
そう軽く笑みを浮かべ、ある名を呼ぶ。
「——波河光くん?」
「えっ……」
まあ、当然の反応である。今日会ったばかりの、というかほんの数分前に顔を合わせた相手が自分の名前を知っているのだから。
「なんで……名前を……」
何も考えず、そう口にしてしまう。そしてすぐハッとし、やってしまったとすぐ訂正しようとする。
「あ、いや——」
と言いかけると。
「あはは、安心しなさい。君の話は力声君や晶子君から聞いている」
と軽く笑いながら言ってきた。関係ないが、笑い方が爽やかだ。
「あ……そう……なんですね」
なんだかさっきから、えっ、や、なんで?などくらいしか言ってない気がする。まともな言葉を喋れてないような……などと考えていると。
「君は、あの自殺魔の霊に取り憑かれたらしいね、大変だっただろう」
と言われた。そしてふと気になった。『自殺魔』とは?と。ただでさえ今のこの状況でキャバオーバーなのにさらに新しい用語が出てくる。まるで壊れた機械のように、もう頭から煙でも出ているのでは?と思うくらい、頭はぎゅうぎゅうだった。
「あ、の。自殺魔って……」
まるで頭の情報を吐き出すように言うと、意外そうな顔をして言った。
「おや?知らなかったのかい?ほら、ニュースで報道されていただろう。自殺者が多発していると」
そう言われて、そう言えばそんなことテレビで軽く見たような……と記憶を辿る。
「あれの犯人が君の中に入っていた霊の正体さ。人の中に入って、落ちる直前で霊自身は、その体から抜けて人間だけ傷つける……。全く何を考えているのか……。卑劣なやつだよまったく」
そう言われて、光は考える暇もなく、思ったことを口にする。
「え、そんなやばいやつが入ってたんですか……?」
つい最近自分の中に入っていたのが、ニュースに報道されるくらいのことを犯していた犯人だったとは……。それに光は少し肩を震わせる。
「ああ。そのことなら力声君がとっくに言っているものだと思っていたが……」
「残念ながら何も言われてませんね……」
と、いつの間にか自然に会話ができ始めていた。
「力声君といえば、霊での件は悪かったね。おまけに君の自転車まで壊してしまったようで……改めて謝罪させてくれ」
そう言って机に手をつき、頭を下げた。その姿に光は、慌てて口を開く。
「あなたが謝ることじゃないです!それに、協力したのは自分ですし、非はこちらにもあるので……。自転車は、あいつから弁償してもらうので大丈夫です!」
「だがしかし——」
「大丈夫です!」
そう言う彼の言葉を遮って言い切った。もう失礼とか関係なく必死だった。
こんな絶対偉い人に頭など下げさせようものならただで済むはずがないと。
「そ、そうなのか……?」
少し困惑気味に言ってくると。
「はい!そうです!」
と元気よく言った。そして素早く話題を切り替えた。
「と、ところで、用はその件だけでしょうか?」
そう、こんな自転車ごときでこんなとこに来るわけがない。光はここへ加入するための諸々を準備しにきたのだ。他にちゃんとした理由があるはず。そして、さっさと切り上げて帰りたい。
「ああ、そうだった。君には別の件で来てもらったんだ」
やはりか。
「えっと、なんでしょうか……?」
改めて、真剣な眼差しが光を貫く。
「単刀直入に聞こう。君はなぜここに入りたいと思った?」
再び空気が重くなるのを肌で感じた。一歩間違えたら、アウトなやつだと。そんな空気に光は、倒れそうになるのを我慢して、なんとか自分の足で地に立って見せる。
「それは……ここに入るうえで、絶対に必要なこと……ですよね?」
その質問に表情を一切変えず答える。
「ああ、返答次第では、君はここに入る権利を失う。これは、意地悪ではなく、君の今後の……いや、命に関わることでもある。それに値する覚悟がなければ、私は決して認めない」
確かにそう言い切った。
——それに値する覚悟——。
正直、光がここに入ろう思う理由は、他人にとっては、それほどではないかもしれない。だが、光にとっては、ここが唯一のチャンスである。この理由は、光にとっては、命を賭けるに値する最もな理由。
目の前の男の瞳は、光をまっすぐと見つめ、離さない。
嘘を言えば当然ばれる。そして、隠すほどの覚悟ならばと、きっとここに入れてくれないだろう。
なので光は、自分が思う、一番の覚悟をその男に向かって話した。
「俺は——」
そう言って、光は喉から出る言葉をそのまま伝え、そのままの覚悟をその男に見せた。
ようやく聞き終えた男の顔は、相変わらず表情を変えない。『未来が見える』という力を持った光でも、人の未来を見るということは、できたことがないし、しようとしたこともない。見たことがあるのは自分に関わる未来のみ。そしてそれを自主的に見たことはない。今までは、勝手に発動し、勝手に見えた。
まだ小さく、何も知らなかった頃の光は、未来と現実の区別がつけられていなかった。なので、自然と未来を言い当ててしまう様に、最初は、良くしていた人たちもだんだんと離れ、不気味に思うことが増えた。
気づいた頃には、誰もいない。友達もその親もみんな。自分を産んでくれた母親は、少年を産み、すぐ死んでしまったという。そんな中、不気味な少年を見守り続けた者がいた。その人は、とても温かく、いつも笑顔を向けていた。嫌な顔などその少年の前では、したことがなかった。本当は、憎くて仕方がないはずなのに……。
だが、事は突然に起こる。
その人は、その少年の前から、永遠と姿を消してしまったのだ。
少年にとっての唯一の心の支えであり、唯一の宝物で会った、最愛の『父親』は少年を残し、遠いどこかへ行ってしまった。
そして、少年は後悔した。とても遅すぎる後悔を。
父がいなくなる直前、あんなことを言わなければ、今もまだ一緒にいることができたのではないかと。そんな小さな期待を。そんな事しても帰っては来ないのに。
目の前には、その少年——波河光を見つめ続ける男。その前に立ち続け、自分の覚悟を明かした少年。その結末はどうなるのか。
「なるほど……。つまり君は、その罪を報いたいと」
「簡単に言えば、そうですね」
さっきまで緊張に呑まれていた光も、これに関しては、まっすぐ、偽りのない瞳を向ける。
「君には失礼だが、なんとも自分勝手な理由だな」
その言葉は、光にも予想できていた。自分自身、一番そうだと思っていたから。それでも全てを崩さず言った。
「はい、自分勝手です」
迷いのない答えに彼は言う。
「否定はしないんだね?」
「自分が一番分かってますから」
「私から言わせてもらえば、その理由は完全な私情。それに、君はそのためなら、命を犠牲にできるようだしね」
「——とても許可できる内容じゃないな」
彼は、そう言い切った。そう言うのも光には分かっていた。だから全部言った。偽りなく、全てを。
だからわかる。
——この人は、絶対に俺を否定しないと——。
少々長い、沈黙にようやく終止符を打つ。
「確かに、完全な私情です。命を賭けるなんて言うけれど、実際にそんなことできるわけないと思う気持ちがほとんどです。——だからわかる——。俺は、窮地に立たされれば立たせるほど、『覚悟が決められる』。平気で命を投げ出してしまいかねないと」
鋭い眼光で目の前にいる者を見る。絶対に離すまいと。逃すまいと。
——俺自身を否定させない——と。
その長い長い攻防戦にそろそろ終いが来る。
「なるほど……。だからこそ、ここに来る必要があると?」
それを聞くと、光は彼に向かって、悪役かのように微笑む。
「分かってくれました?」
そう返すと、やっと折れたかのように彼は息を吐いた。
「はぁーー」
顔を上に上げながら、眉間を人差し指と親指でつまむ。
「全く……君には敵わないよ」
そう言うと、彼は改めて光を見て言った。
「分かった。君をこの霊専門特殊対策課——spiritへの加入を認める——」
その言葉を聞くと、光はそれに答える。
「はい!」
その短い一言を聞くと彼は優しく微笑んだ。
「あっ、ところで聞き忘れてたんですけど……」
「ん?なんだい?今完全に終わる流れだったよね?」
そんな事は、気にせず光は、聞いた。
「あなたの名前は、なんと言うかお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ!そう言えば言っていなかったか!」
そう言って、仕切り直すように、ゴホンと声を出す。
「私は、この組織全体をまとめてる大隊長——藤子島宅良だ。これからよろしく。光くん?」
「はい、こちらこそお世話になります」
そう言って、今度こそ、長い戦に終わりを告げた。
その後、大隊長——藤子島さんに連れられ、下の七階に案内された。ちなみに普通にエレベーターを使った。
(いや、あんのかよ!)
心の中で、思った事を叫んだ。
降りると、目の前は真っ暗で何も見えない。
「あれ……いない……」
話では、皆ここにいると言っていたのに。
とりあえず、エレベーターから足を踏み出したその時——。
パンッ!パンッ!パンッ!
何かが弾けるような音がいくつも重なり、それと同時に部屋が一気に明るくなる。
視界が真っ白になり、だんだんとはっきりしてきたその時。
「光!無事入隊!おめでとう!」
力声がそう言うと、それを合図に、次々と声がかかる。
「おめでとう!」
「おめでとうおおおお!」
「すげーよ!」
などと続々と祝いの言葉が浴びせられる。
そしてさっきの弾ける音は、皆が握ってるクラッカーだと知る。
その奥には、ちらりと見える丸テーブルに、食事や飲み物、お菓子などの数々が並べられている。それも一つや二つではなく、複数ある。一体何人分あるんだろうか。
全く状況が掴みきれてない光は、後ろにいる、藤子島に問いかけた。
「えっと……これは一体……?」
光の反応を見ると、さっきまでの雰囲気とはまるで違う大笑いをかました。
「ふはははは!実はな、入隊してくる光君のために、みんなでサプライズを企画してたんだ!」
「う、え?さ、ぷらいず?」
全く意味がわからないと言った様子で言った。それもそうだろう。なぜなら、光の入隊は、さっき決まった事なのだから。
「だ、だって!さっき入隊を認めたはずじゃ……」
そう言うと、藤子島は、ニヤリと笑って見せる。これが示す意味は——。
「遊びやがったな…………?」
そう小さな声で言うと、ガハハハと笑った。
「その反応が見れただけでも、サプライズは成功だな!」
と言って、満足気に光の元を離れ、他の隊員の元へ去って行った。
「ったく……」
そんな光の元に、力声はやってきた。
「おめでとう、光」
そう言って肩を組むと、光に向かって微笑む。そんな彼に光は。
「お前……知ってやがったな?」
横目でじろりとその顔を見つめる。光の言葉を聞いて、力声はこう答えた。
「まぁ、知らされたのは、結構直前だけどな。まさかあのおつかいが、このためだったとはね」
あのおつかい。つまり、ここへくる前の寄り道のことだろう。
「っていかさ、言っちゃ悪いだろうけど、俺一人のために、こんな豪勢にやってもらって……ちょっと悪い気がする。毎度人が入ってくるたびやってんの?」
騒ぐ大勢の人の姿を見ながら、そう聞いた。
「毎度……って事はないだろうけど……皆、本当に楽しみしてたんだよ。結構な間、うちに新しい仲間が入ってくることなんてなかったからな」
「仲間……」
なんだかその言葉に少しむず痒くなりながらも光は、改めて周りを見渡した。たくさんの人が楽しそうに、飲み食いしながら話している。
ある者は、大口を開けて笑い。ある者は、酒に酔いしれ。ある者は、祝いの言葉をかける。
そんな姿に少し頬を緩めると、ふと思う。
こんな企画がここへ来る前から計画されていたのなら最初から、入隊する事がわかってなければならない。そして光は、思った。
(俺めっちゃいい感じに、説得したのに、意味ねーじゃん!なんかめっちゃ恥ずいこと言った気がするんだけど!)
「え、じゃあ俺が藤子島さんに呼ばれたのって……」
「単なる時間稼ぎだな」
そう言われた。
あの、あの時間は、結局なんだったのだろうか。そしてあの人からして、さっきの話をネタにでもされたら——。と考えていると。
「おーそういえば、光君がものすごくかっこいいことを言ってだぞ!確かえーと……俺は——」
「わああああああああー」
そう叫び、無理矢理会話を遮る。
「お?どうした光君!そんなに私と飲みたいのか!」
そう言って酒の瓶を押し付けてくる。それを見ていた、女性——萩待晶子は、藤子島に思い切り蹴りを与える。
「そいつは、未成年だっ!酔っ払いジジイッ!」
「ぐほぉっ!」
そう声を上げながら、向こうへ飛んでいった。
「大丈夫かい?光君」
相変わらず寒そうな格好をしていて、何事もなかったかのように、そう言ってくると、光は、言いづらそうに言った。
「あ、いや……俺は平気ですけど……いいんですか……?仮にもあの人、大隊長ですよね?」
そう内緒話でもするように言うと、晶子は、そんなことかという顔をして言った。
「いいんだいいんだ。酒が入ったあいつには、あれが一番いい薬だ。むしろ感謝してほしいくらいだね」
「そ、そうなんですか……」
光は彼女がそう言うならそうなんだろうと深く考えるのはやめた。
そして——。
パチンッ!
力声が勢いよく両手を叩くと、改めて言った。
「皆!聞いてくれ!」
マイクを通した声でそう言うと、一斉に静かになる。
「こうして、今日、実に嬉しい日を迎えることができた。新しい人なんて、滅多に来ないから、皆結構、浮かれていると思うが、羽目を外しすぎないように!」
そう言って机に置いてあったグラスを取り、上に掲げた。
「——ということで、無事、光の加入が決定しました!」
すると同時に周りから盛大な拍手が主役に送られる。
「それを祝して——」
「乾杯っ!」
と声を上げると、一斉に「乾杯っ!」とたくさんの人の声が重なる。
たくさんの人に囲まれて、その中心には、所々に紙切れが付いた光が、一人、拍手を浴びせられていた。
(なんでこうなった……)
第四話、お読みいただきありがとうございます。
この作品を楽しんでいただけたなら幸いです。
やっと光が入隊を決めましたね。この後一体どうなっていくのか、私にもわかりません。頭の片隅にでも置きながら待っていてください。
以上まもるでした。