夢の中の再会
夢だとわかった。目の前で優しく微笑む置多田に、なぜか気持ちが晴れやかな自分がいた。
ちゃんと伝えよう。オレの決意を。
優しく笑った置多田を前に、小島は泣くことはしなかった。
夢だとわかっているのもあったが、置多田への未練たらたらな自分を笑ってしまいそうになったのだ。
すると、それを見透かしたかのように声をかけてきた。
「なんや?そんなにおいに会いたかったん?」
心の中から聞こえるのではない。正面からはっきり聞こえる声に、手が震えた。
一瞬何かこぼれそうになる口をキュッと結んだ。
そして改めて口を開く。
「ば〜か。そんなわけないだろ。気色悪いこと言うな」
心にもないことを言う。本当は会いたかった。まだ話し足りなかった。でもそれを言わなかった。
カッコ悪い姿は、たくさん見せたのだ。これ以上は見せたくない。
置多田は、眉を下げて、しょぼーんとした顔を見せた。
「気色悪いて……おいは会いたかったんに……」
「うわっきっも」
「ひどいーっ!」
「はははっ」
口から笑い声が漏れる。
ああ、すごい。
全て思い通りに行く。
あの時嫌でも止められなかった涙は、今は出る気配がない。
あの時言えなかった軽い冗談もここでは言える。
きっと夢だからだろう。
「そういや、オレお前に会ってから変わったことがあるんだ」
表情を崩さず、いたずらっぽい笑みを浮かべて言う。
「変わったこと?」
当然何もわからないので首を傾げる。
「顔色良くなりましたねって」
「ほんまかそれ!」
「ああ、相変わらず上司には蹴られてばっかだけど」
さすがのこれにも、置多田は軽いことは言えないようで、会話が止まってしまった。
「…………あ、ショーじ……あんな、その——」
「——あんな会社辞めちまえって?」
「っ!」
ギクっ!
それがまんま顔に書いてある。
ほんっとわかりやすい顔をするものだ。
「これでも、一応、退職願は出したんだ」
「そ、そうなんか?」
「ああ、目の前でビリビリにされたけどな」
やれやれといった様子で肩を落とす。
「あ……そ、そか……」
何か言葉をかけようと出たのはそれだけだった。
どうしようどうしようと、あたふたしている姿を見て、再び口を開いた。
「でもさ、オレ思うんだ。あれだけ毎日蹴られても、オレはまだなんとか生きてる。正直、それに耐えられるんだったら、辞めることくらいどうてことないんじゃないかって」
顎に手を当て、考え込むように言った。
「目の前でビリビリにされたって、承諾してもらえなくたって、行かなきゃいい話だ」
「せ、せやけど……」
小島は少しずつ顔を上げる。
「仕事はまた探せばいい。簡単じゃないだろうけど、この歳ならまだセーフラインだろ。それになかったとしても、スーパーのレジ打ちでもなんでもして、なんとかやってくさ」
全てにおいて、あやふやすぎる計画。
失敗することが目に見えるだろう。
だが、確証を得て行動するんじゃ、遅いんだ。
「オレさ、小さい頃、タイムマシンほし〜って思ってたんだよね」
「は?」
話の急ガーブに間抜けな声を出す置多田に対して、小島は続けた。
「未来の自分を見てみたくて、サンタさんに頼んだんだけど、当然くるわけもなくて、それっぽい模型がきたよ。今思えば、さすがのサンタもそれは無理だよな」
微かに笑いを含ませて言った。
「たいむましん?」
何が何やら置多田の頭が混乱してきている。
「ああごめん。べつにタイムマシンが重要じゃないんだ。オレが言いたいのは、未来の自分にってとこ」
「?」
いまいち話が見えてこないので、首を傾げる。
「つまりはさ、オレ、置多田に会えて、よかったってこと」
「??」
すごく嬉しい言葉をもらったのだが、話の流れからなぜそうなったのか、頭がぐるぐるとしている。
「最初に置多田がいるって知ったの、オレの財布スラれた時じゃん?」
「財布……ああ」
思い出したようにポンっと手を打つ。
「もしもあの時、スラれるって未来見えてたら、まあ、確実に回避しようとするじゃん?そしたら、お前も出てこなかったわけで。だから、あの時は、未来が見えてなくてよかったなって」
小島は手を開いたまま片手を前に出して、開いた指の隙間から置多田を見た。
「考えるんだ。もしもこれから起こることがわかるとしたらって。わかっていれば、あんな会社にも入らなかっただろうし、こんな色のない人生にならなかったろって。いつも遅すぎるだろって時に考える。正直、子どもの頃に未来の自分見てたらさ、幻滅どころじゃないと思う」
苦笑いを浮かべながら続けた。
「でもさ、先が見えなかったから、夢を諦めなかった。そして今、それをやっと楽しく感じてきたんだ……お前のおかげで」
そして小島は腕を下げると、ニカっと笑った顔を置多田に見せた。
「お前に会えてよかったよ」
「…………!」
目が少しずつ開いていくのを見た。
いつも自分の中にいたあいつが、こんなにも反応を示している。今まで見えていなかった姿が見える。
置多田が顔を俯かせた。
大きく息を吸う音が聞こえる。
「お前に一つ、頼みがある」
「頼み?」
「——もう、オレのとこには来なくていいよ」
「…………え」
「どーせお前のことだから、わざわざ出てきてくれたんだろ?悪いけど、お前が思ってるほど、ひどくねーよ」
「…………」
「おっまえすぐ顔に出るよな」
「いや、なんか……やけにペラペラ話してくれんなーって」
「そうだっけ?」
「そうや!心ん中では言うてはるけど、実際口にせーへんよ」
「まじか」
「まじや」
「ふはっ!まあそういうことでいいけどさ」
ふぅと息を整えると、静かに言った。
「じゃあ、最後に……答え合わせをしようか」
気づけば、前の投稿から一か月近く経っていました。最近投稿が少なくてすみません!話を忘れてしまっている方もいるのではないでしょうか。この話も次で終わる予定でいます。今後もspiritをよろしくお願いします!




