オレの未来
なんとか解決し、報告も済ませた光と力声。
二人で帰り道を歩きながら、霊と取り憑かれていた人間のことについて少し語る。
一方、その人間は——?
晶子と共に、今日の案件を報告すると、すっかり日は落ちていた。
いつも通りのように、力声と二人で途中まで帰り道を歩く。
「あの後、どうなったかな」
光がふとそう言うと、力声がこちらを向いた。
「あの後って、どの?」
「あの二人だよ」
「あの?二人……」
力声が、むむーと考えると、すぐにああ!と思い出す。
「二人ね!」
思い出した力声は続けて言った。
「どうもこうもないんじゃないか?二人で何かしら話し合えたなら、それでいいだろ。俺たちの知ったこっちゃない。つーかわからない」
力声が両手を頭の後ろに回してそう言った。
「そうだけどさー」
光は前に向き直り、少し下に俯きながら呟いた。
「あの時……」
光はあの時を思い出す。
霊の場所へ向かうため、あの場から出ようとしたあの時。
あの人はまだ言い足りない、まだ何か残している顔をしていた。
光がどうこう首を突っ込めるわけでもなく、その場を去ったが、ちゃんと伝えられているだろうか。
「あの人……何か言いたげだったからさ、ちゃんと言えてたらなって……」
「ふーん」
あの人ねぇ……
力声には光の言うあの人というのが、小島であることは、容易に理解できた。
まあ、突然の別れで、全部ここで伝えろなんて、難易度の高いことだ。
今回はなんというか、後味が悪い。
何か悪いことを犯したわけでもない。
ただ純粋な仲を引き裂いたようで……いや、実際そう言えるのだ。
でも、これが仕事なのだ。何か起こってからでは、取り返しが効かない。
『仕事』この言葉で片付けられてしまうのが、たまに恐ろしく感じる。
何をしていいわけではない。だが、これくらいは当然だ。
「だといいな」
力声は光の言葉にそれだけ返した。
いつまで、へたり込んでいただろうか。
もうすっかり外は暗かった。
小島は、ふらふらと家へ戻った。
いつのまにか家に着いていて、ほとんどの記憶が曖昧だった。
ただ一つ感じるのは、この部屋の静けさ。
最近まで、脳内で嫌というほど、流れた続けた声が、今ではとてつもなく欲しくなる。
なんで、こんなに静かなんだろう。
わかりきった疑問を頭に浮かべた。
靴を揃えることもなく脱ぎ捨て、壁に手をつきながら机まで歩く。
「…………」
机が見えてくる。そこにはテレビのリモコン、ティッシュ。本当にスカスカな机。そして、ただ一つ、謎に存在感のあるものを見つけた。
生姜のポテトチップス。
ああ、そういえば、結局食べきれてなかったんだっけ。
吸い寄せられるように手が伸びる。
カサっと音を立て、手に取ると、まだ全然残っていた。中を開くと、ブワッと一気に生姜の香りが広がる。
「………っ」
このきつい匂い。本当に無理だった。だってめっちゃ匂いが強いんだもの。
中に手を突っ込み、適当に一枚取る。
結構大きいのを取ってしまった。
前ならすぐさま袋に戻したが、今日はなぜかそんなふうにならなかった。
サクッ!
ほんの一瞬の音なのに、数秒ほど耳に残る。
「うっ…………すっげー生姜……」
そんな声を漏らしながら、なんとか一枚食べ切る。
ここでギブアップといきたかったが、なぜか手は袋へと手を突っ込んでいた。
また一枚取ると、今度はそれをじっくり見つめた。
(全然食ってへんやんないか!ほれ、おいが食わせたる!)
「!」
肩がビクンっと跳ねた。でもそこには誰もいなくて、もちろん、自分の中にもいない。
幻聴。わかりきっていた。
なぜ今になって、こんな馬鹿げた現象が起こるのか。もう自分が嫌になる。
手に取った一枚から、ほんの少しの生姜味の粉がハラリと落ちる。
手が震えていたからだ。
ポツっ……
今度は何か。それは、袋に何かが当たった音だった。
音が鳴るなにか。
「っ………くっ……」
ああ、これは——
——涙だ——
今、自分は泣いている。
会社であれだけのことを受けても、泣くことなく、むしろ笑っていた自分が。夢が叶わないと知りながら足掻き続ける姿を、才能がないと、文字にして書かれ、それをずっと見ていた自分が。
今、泣いている。
こんなポテトチップス一枚で、オレは、ポテトチップスに泣かされた。
笑いたい。笑えない。どうしても溢れる温かい水滴が、頰を伝う。止めようと思えば思うほど、嫌がらせのように溢れ出てくる。
「ど……して……」
誰もいない静かな部屋で、自分はいつの間にか口を開いていた。
「オレだけ……オレだけ……こんな思いしてっ……」
胸が痛い。喉が苦しい。息を上手く吸えない。
ハァハァとまるで運動をした後かのように、呼吸は乱れる。
「つらい……つらいよ……!どうすれば……こんな気持ちから解放される……?」
一体誰に問いているのだろう。明確に示していない。誰かが答えてくれるのではと、どこか思っているのかもしれない。
当然、誰も答えてくれるはずもない。答えは自分で出すしかない。現実が辛い。
その日は、ただ泣き続けた。泣きたかったわけじゃない。でも、自分が疲れて眠りにつくまで、それは止まることはなかった。
そしてオレは夢を見た。
まるで、早く答えを出せと、急かされているようだった。
「ここは……?」
呟いた後、すぐにそこは見覚えがあるところだと、気づいた。
そしてここには最近来た。なんなら、ほんの数時間前だ。
「あの……倉庫」
頭に刻み込まれているあの場所の風景を、思い返す。
足を一歩前に出してみた。
コツ……
靴の音が倉庫内に響き渡る。
「はぁ」
ため息が出た。だって——
「なんで今、こんな夢見るかな」
最悪なタイミング。そしてこれを夢だと、なんとなく察することができた。
「おまえがここにいるはずないのに」
小さく笑いながら、目の前にいる何かに言葉をかけた。
「——置多田——」
置多田と呼ばれた霊は、こちらを向いて、優しく笑った。
頑張っております。とにかく頑張ってます。語彙力なくてすみません!今後もこの作品をよろしくお願いいたします!