俺なりの移動手段
置多田の状態からタイムリミットが近いことを察する光と力声は、その場を後にした。
そして少し遅れて力声に追いついた光は、力声のある手段に乗ることになる。
少しばかり小島たちと話した後、力声を追って倉庫を飛び出した光は、今ちょうど追いついたところだった。
「やっと追いついた……」
「遅い」
「ごめん……てお前が速すぎんだよ」
「それは——そうだな」
「うわぁ〜なにそれうっざ」
いつもの空気が流れてしまいそうになる。
光は切り替えて、本題に入る。
「そんなことどうでもいいわ。それより、今は霊のことだろ」
力声もいつもの空気に染まりかけていたのを元に戻す。
「そうなんだけど!こういうのもあれだけど……」
なんだか、急に言いづらそうになった。なんだか気持ち悪い。
「なんだ、きもいぞ」
正直に出てしまったが、力声は気にしないことがわかっているので平気だ。
「……怒らない?」
「内容による」
「やっぱり怒るよ〜」
「わーかった。怒らない怒らない」
今は霊よりも優先すべきことはない。どうせいつものことのようにしょーもないことだろう。
「そう?じゃー言うけど……」
妙に溜めが長いが、いつものことだ。
自分たちの足音がコツコツと地面に鳴る音を聞きながら待った。すると——
「あの家の場所どこだか忘れちゃった」
キランッと星が出てきそうな具合で言ってきた。
その様子に出てきた言葉は一つ。
「今すぐお前の口をガムテで塞ぎたい」
その辛辣な言葉に片手を上げて力声は言った。
「ごめんて」
行動と言葉でそう示すと、ふと思ったこと力声に聞いた。
「でもこの間、俺のことあそこまで連れてってくれたじゃん」
そう、あそこに連れて行ったのは力声であり、光が自分一人で来たわけではない。
「あの時は地図があったし」
「ならその地図見れば良くね?」
確かに携帯で確認していた。ならそれを見れば解決するだろうが、こいつの場合——
「消しちゃった」
今度は星が二倍に増えてそうな具合で言った。
そしてそれに浮かぶ言葉は一つ。
「今すぐお前の口をVHBテープで塞ぎたい」
「ぶ、ぶい?なにそれ」
突然発された謎の言葉に困惑する力声。
それに平然とした様子で答える光。
「世界で一番強いテープ。らしい」
サラッと恐ろしいことを口された。
「え?なに、俺一生喋れない感じ?ていうかさっきよりも粘着力上がってない?」
「まーテープ自体ちょっと細いから結構ぐるぐるしないと……」
「勝手に計画立てないで?!え?てか、なに?!なんでんなの知ってんの?」
「大丈夫、お前にしかしないから」
「なんで俺限定……」
「危ないじゃん」
「俺ならいいの……?」
またまた話が脱線してしまった。
はぁーとため息を吐くと、力声を見て言った。
「まあ、いいけどさ。俺道わかるし」
「わおっ有能〜じゃあ——」
そう言うと、光の前で走っていた力声が足を止め、突然光の前で背を見せてしゃがんだ。
「うおっ!急に止まんな——にしてんの」
前に倒れそうになる体を後ろに倒した。後ろ足でしっかり体を支える。
靴紐でも結んでいるのかとも思ったが、力声はこっちを見てきた。
「ほれ」
後ろに回した手でこっちに来るように動かす。
「…………なに」
この体制で何がしたいのか、なんとなくわかるが、一応聞いておくことにした。
「見りゃわかんだろ」
「…………いや、聞いてるから、一応……答えて」
棒立ちになってしまっている自分にも、前にいる力声にも呆れている。
「これどう見ても——」
空気が急にしーん……となったところで、力声が大声を出す。
「——おんぶだろ!!」
「なんで?!」
「俺の方が速いから」
「だからなんで!」
「光が家まで道案内。俺が光を運んで移動」
なんとも酷い絵面が頭の中で再生される。
力声が俺を走って移動……周りから見たら何してんだこいつら……だよな。
まあ、それは置いとくとして。
「ああ、足が速いってことね」
「そそ、よし!来い!」
「素直に行くと思ってんのがこえーわ。まあ——」
もう無駄な時間食ってる時間がないので、光は嫌々力声の背中に寄っかかった。
「——急いでるから、これでいいよ」
急にくる重みに、力声は目をぱちっとさせて、光がしっかり体を預けたのを確認すると、立ち上がった。
「まさか本当に乗ってくれるとは」
乗ったのにも関わらず、そんなこと言ってきた力声に対して返した。
「お前が来いって言ったんだろ」
「にしても、光って意外と軽いんだなー」
その言葉に光はムッとして、使えない手の代わりに、頭を後ろに反らすと、それを前に倒して、力声の頭にゴンっとぶつけながら言った。
「無駄口叩いてないでさっさと行け!」
「いっ!てぇー」
力声もムッとした表情になりながらも、片足を前に出した。
「んじゃ、行くか!」
そう言って姿勢を低くすると、後ろ足にグッと力を入れて、飛ぶように前に出た。
ビュンッ!
光は耳元で鳴る風の音を聞くと、そのスピードに思わず目を瞑った。
慣れてきた頃に片目を少しずつ開けると、景色を見る間もなく、進んでいく。
「光!どっち?」
突然聞かれたことに、一瞬なんのことだか忘れかけていたが、道案内の役目があったことを思い出す。
光は、地図を思い浮かべ、少しずつ拡大するように、通った道を鮮明に思い出した。
「逆!」
そう言うと、力声は足をキューッと急ブレーキをかけてくるっと回ると、止まることなくそのまま反対へ駆け出した。
次の指示を待っているのだと悟ると、光はそのまま指示を出す。
「そこ、次の曲がり角を左!」
数十メートル先にある曲がり角を指差す。
あっという間に辿り着くと、左にキュッと曲がる。
「そこのずっと真っ直ぐ。最初の曲がり角スルーしてその次!」
「了解!」
力声の速さは凄まじく、通った道にゴォーッと音を立てる風が起こる。
人とすれ違うたびにさまざまな声が飛び交う。
「なにこれ?!風つよっ!」
「帽子がぁぁ!」
「ママ〜僕もおんぶ!」
「仲良しね〜」
などの多様な声が嫌でも聞こえる。
力声は気にしてないのか、聞こえていないのか、ずんずん前に進むだけだ。
「恥ずい……」
小さく漏れた言葉に、力声はそれを拾ったらしく、こちらに目を向けてきた。
「なにが?」
話す余裕あるんかい、そう思ったが、口にするのも面倒になってきた。
風の音がうるさくて、大声で指示を出していたが、それ以外のことはわざわざ声を張り上げる必要はないと思った。
代わりに、少し顔を近づけて、この辺なら聞こえるだろうという辺りで話す。
「……観客の声援」
「誰だよ観客」
「さっきからいっぱいいるだろ」
「ああ周りね」
納得のいった力声は、再び前を向いた。
しばらく曲がることはせず、真っ直ぐが続くため、一直線に進んでいく。
このような状態が数分続いて、やがて力声は気づいてしまった。
とある方法に——
「そこ真っ直ぐな!」
同じように指示を出していると、力声は走りながらあることを言い出した。
「あのさー」
「なに?!」
風の音で声が聞き取りづらく、自然と声が大きくなってしまう。
「気づいたんだけど、ナビなしでもいけるかもしれない」
突然そんなことを言い出した。自分でわからないと言ったくせに。
「意味わからん」
「だから——」
そう言ってすぐそこの路地に入った。
「え、ちょ……そこ違うって!」
「家の外見わかってんだから……」
そう言って、軽く飛ぶと細い路地の壁に足をついた。
それをトントンと右左と交互に繰り返し、上へ駆け上がっていく。
背中にいる光の体は当然ガタガタと揺れ、腕により力を込める。
一瞬だけフワッと浮いた感覚が生じる。
「えーと、あそこか!」
そんな力声の声を耳にすると、トンッという靴音とともに、地面に着いたのだと察する。
いつの間にか瞑っていた目を開けると、そこは光がいつも見ている景色とは少し違った景色が映される。
いつも下から見上げるはずの建物は、なぜか見下ろす形になっていて、なんなら今その上に乗ってる状態。
空がいつもよりも何倍も大きく見える。
まるで道とでも言うように、平然と建物の上に立っている男。
「…………なんで登った……?」
「早いから」
「お前それしか言わないな」
光はあくまで指示役ではあるが、力声の行動に、口を出さずにはいられなかった。
「なんかさ、道が複雑でさーならもう上から突っ切った方がいいじゃんか」
頭がおかしいのか、ある意味頭は良いのか、よくわからなくなってきた。
「でもこれなら人目気にしなくていいぞ」
「まあ確かに……じゃねーよ!」
「俺たちみたいにここに登ってこない限りぃぃ——」
力声の言葉がおかしくなるとともに、首が右に向けたので、光も動かしてみると、隣の建物いた人と目が合った。
力声のように建物に登ったというよりは、屋上なので人がいるのは当然である。
相手は瞬きもせずこちらを見て固まっている。
こちらも一瞬止まってしまっていた。
そしてやっと皆が動いたのは、相手が手に持っていたパックジュースを足元に落とした時だった。
ぱこん……とほぼ空なのか、軽い音がこの静かな空間を包んだ。
力声はこの一瞬で再び前を向いて——
ビュンッ!と風を切って、まるで何もなかったかのような空間を作り出した。
先程までいた謎の人物二人が一瞬にして消えてしまったことや、まずここまで登ってこれるわけあるまいという、現実からかけ離れた光景を目にした。
屋上にポツン……残された相手の男は、静かにパックジュースを拾う。
「…………もう少し仕事してくるか……」
まるで自分に何か言い聞かせるように呟き、屋上の扉のノブを捻った。
毎回すみませんから始まる気がします。
毎度遅れて申し訳ありません!もうそろそろ、この話もクライマックスです。
最後までどうぞよろしくお願いします!