返事《こたえ》を聞かせて
光が学校の校門から出ると、なぜかお馴染みなってきた力声の待ち伏せが待ち構えていた。
何かしらの用があることが察せられるが、それはとあるお返事が来たとのことだった。
仕事帰り。今日は特に疲れてしまったので、風呂はサッとシャワーで済ませ、ご飯も、買い込んでおいたインスタントで済ませた。
ペラペラな布団に身を沈める。
すぐに寝入ってしまったので、この日のことは、ほぼ何も覚えていないに等しい。
だが、眠りに入る直前、スッと体が軽くなる感覚があった。まるで、何かが抜けていったような、そんな感覚が。
ああ、そうか。これは——
ざわざわと一斉に、校門に向かって多くの生徒たちが歩く。
その中に一人、波河光はゆったりと歩いていた。人を避けながら、ポケットに手を入れて、携帯を抜こうと腕を持ち上げたところで、ピタッと足を止めた。
校門をくぐってすぐ横に目を向けると、そこには見覚えありまくりの人物が立っていた。
抜きかけた携帯をスッと戻すと、うんざりしたような顔をして、その人物の横顔に声をかけた。
「はぁ……いい加減連絡することを覚えろよ……力声」
その人物の名を呼ぶと、その声でこちらを向いた力声が「おお」と声を上げた。
「お疲れさん」
いつも通りの明るい口調でそう言ってくる。
「お疲れさん、じゃねーよ。お前もうここの常連じゃねーか。生徒でもないのに……」
やれやれと言った様子で力声に言う。
そんな光の様子を見て、少々考えるような仕草をすると、力声が口を開く。
「……生徒ならいいのか?」
そんな恐ろしい事を口にするので、すぐさま制止させる。
「やめてくれ。それだけはマジで……」
額に手を当てながら、手を前にして力声を止める。
意外と真面目に言ってきたので、余計恐ろしい。というか、力声ならやりかねない感じがあるので、本人の口から聞くだけで寒気がする。
「なんで?」
きょとんとした反応をして首を傾げる力声。
「なんでもだよ」
曖昧に話を切り上げ、別の話題に変えた。
「それより、ここに来たってことは、俺に用だろ?どうした」
「え?ああ、そうだった……」
力声は考えていたことを一旦切り替えて、本題へ戻る。
「お返事、来たぞ」
「返事?」
当然首を傾げると、光は数秒でそれがなんなのか察した。
「……ああ!って……もう来たのか!?まだ三日くらいだぞ?」
予想よりも早かったので、少々驚いた。
「まあ、時間がないってこともあるんじゃないか?そもそも、あれを言った時点で、答えはなんとなくまとまってたっぽいし」
力声は驚いた光を前にして言った。
はあ……と落ち着いたように息を吐いて、光は口を開いた。
「それで……どうするんだ?あの霊は何もやってないし、憑いてた人も嫌々って感じでもなかったし……」
「ああ、それは、ちゃんと居るべき場所へ行かせるよ」
「居るべき場所?」
光がそう呟くと、力声は向こうを指差して言った。
「とにかく、行くぞ!」
「行くってどこ」
そう質問したが、力声はずんずんと前へ進むだけだった。
力声に手を引かれるがまま、着いたのは、小島の家……ではなく、そこから少し距離を置いたスーパーの近くだった。相手が指定した場所らしい。
人通りが多いので、少し迷ったが、その近くの空き倉庫でならと、承諾した。
そこへ着くと、もう相手は到着していた。
淡いオレンジの光を放ち、薄ぼんやりと人影が浮かぶ。
力声はその姿を見ると、少し歩調を速めて言った。
「すまん、待たせたか?」
目の前の人影は静かに首を振った。
「いや、そんな待っとらんで。時間ぴったりやわ」
明るく聞こえるが、内心はそうではないことが、聞かなくてもわかる。
「いいのか?本当に」
力声がそう聞くと、笑って答える。
「何言うてんのーそっちがそうさせたんやで?」
「まあ、そうだけど」
「認めるんかいなー」
楽しそうに笑顔を浮かべた後、はぁーと息を吐いた。
「正直言うと、まだまだここにいたい……せやけど、おいのわがままであいつに迷惑かけたない……どっちを取っても、おいにとって悪いことばっかしやねん……」
今にも泣きそうな顔を必死に抑える。熱くなる目に力を入れて、拳に力を入れて……少しでも気を抜いたら全部崩れてしまいそうだ。
「……もう死んだ命や言うのに、いつまでダラダラしとんのやな……あんなに楽しかったんは、久々で、盛り上がってしもたんやろな……」
二人はただ無言で聞くしかできなかった。
今何か言ったところで、何を言われるのか、大体想像ができたから。
「長々とすまんな!さ、おまえさん方のすきにせい!」
両手をバッと広げてニカっと笑った。
力声は俯いていた顔を上げて言った。
「最後に……一つ聞きたい」
「なんや?」
「人間に取り憑く以外で、何か……したいこととか、ないのか?」
これは人間に取り憑いていたということの問題。それ以外、犯罪や悪事を働かなければ、うちではできる限りのサポートをして、願いを叶えてやれる。
何か心残りがありそうなのは、光から見てもわかる。
それを見越しての質問だったのだろう。
「したいことか……」
眉間に皺を寄せて考えている。十秒ほど経った後、ようやく口を開く。
「したいことは…………ないで」
「!ない、のか……?」
「せや!やることは、やらせてもろたしな。悔いをはない!」
腰手を当てて自信満々に言ってくる。
「そ、か……」
ニコニコの笑顔を向けられ、力声は呆然とした。
「仕切り直しや!なんでもしぃ」
また両手を勢いよく広げる。
「どうした?やらへんのかいな……」
「えっと——」
バンッ!
重い扉が勢いよく開いた。その音が倉庫中に響き、誰しもを注目させた。
「——置多田!」
最近中々出せなくてすみません!
ここをお借りして申し訳ありませんが、もう一つのFake Real Gameという作品の更新も遅れており本当に申し訳ありません!早ければ今週、遅ければ来週になるかも知れません。そちらを読んでくださってら方はご理解いただきたく、お願いします。