限られる時間
突然現れた少年二人。その一人から告げられたことに、考え込む置多田。
一方、小島はそんな置多田にある予感を感じていた。
『決断は任せるよ』
その言葉を思い返して、置多田はしばらく黙り込んでいた。
正直、あの言葉。決断させる気がないように思える。
最初から、そうするだろうと、見透かしているような。
小島は夕飯後、食器を洗っているところだった。
今日何があったか。はっきり覚えてない。覚えてるわけがなかった。ただでさえ意識は内側にあって、表に出ているのは、あの時は置多田だった。
意識を保つのに精一杯だったが、これだけはわかる。
——多分あいつは、オレの前から消える——
「じゃあ今日はこの辺でー」
自分を捉えるカメラに向かって手を振ると、配信を終了した。
笑顔が嘘のように消え、どっと疲れが滲み出た様子で片付けを始める。そんな様子に、置多田はすかさず声をかけた。
(……なあ、大丈夫か?)
「……なにが?」
機材を片す手を止めず、それに答える。
(何がって、明らかに疲れ出てきとるやろ。最近ほぼ毎日やっとるし、寝る時間削ってまで……しばらく休んだ方が——)
「いいって、気のせい気のせい。オレ、別に疲れてないし、やりたくてやってるだけだし」
先の言葉を遮るように自分の言葉を重ねた。
(け、けどな…………気づいてるかも知れへんけど、さっきの配信、お前なんか変やったで?)
その言葉に一瞬手が止まったが、何事もなかったように、再び手を動かして口を開く。
「……そ、かな……全然気づかなかった、なんか変だった?」
(気づかんかったって、そらあ——)
「いっ……!」
突然放たれた小さな声に、置多田は言いかけた言葉を無理矢理止めた。
置多田が放った言葉ではない。なら当然、小島が放った言葉であることはすぐに理解できた。
何が起こったのかと思ったが、それはすぐにわかった。
(どないしたん!?)
慌てて声をかけると、親指に小さな裂け目ができ、そこから少しずつ大きくしていく赤黒い液体が漏れ出る様子を捉える。
(何したん!?)
ただ呆然と指を見つめる小島は、少し遅れて言葉を返す。
「ちょっと、切った……」
何で切ったのかは、暗くてよく見えないが、何かしらの機材の角か何かに触れてしまったのだろう。
(そら見りゃわかる!ショーじ、お前やっぱ変やで?)
「ちょっと滑っただけだって」
(ちゃう、どっかボーッとしてんねん。無理せんで——)
「誰のせいだと思ってんだよ……」
ぼそっと何かを呟いた小島だが、置多田にはそれがうまく聞き取れず、聞き返そうとした。
(は……何言うて……)
「手、洗う」
聞こえなかったのだろうか、そう言い残して、洗面台へ向かった。
これ以上追求することは、今は良くないと思い、置多田はそれ以上特別何か言ってくることはなかった。
そして、その三日後に、事は起きてしまったのだ。
——お互いの、決断の時が——
遅れてしまい申し訳ありません!
短めですが、ぜひ読んでいただけたら嬉しいです。
そろそろこの話もクライマックスに入りますので、何卒お付き合いいただきたいです。