人気者にも裏が……ない?
今まででは考えられないほどの再生回数に、驚きを隠せない小島こと『ショーじ』。あまりにも不思議なことに、頭を巡らせるが……
一方、力声と光は、この前の出来事をきっかけに、小島のことを調べ始めるが……
「うわっ……これ以外にもあげてんじゃん……」
キッチンの流しに腰を寄りかからせながら、携帯を見てそう呟く。
その携帯の画面には、とある動画配信者『ショーじ』の動画がずらりと並んでいる。
(これも、これも、オレ……こんな動画出した覚えないんだけど……)
片手に持った、水の入ったペットボトルを一口飲むと、携帯に再び目を向ける。
「再生回数がえぐい……今までじゃ考えられねぇ……コメント数も多いな……」
並んだ動画をスクロールしながらぶつぶつと呟く。
(今までろくに配信できてなかったし、開かなかったから気づかなかったけど、まさかこんなことになってたとは……)
キッチンから自分の布団へ向かうべく、そこまで足を進めると、腰を下ろし、枕元の床にペットボトルを置く。
小島は、自分ではない何かを見つめるように画面を直視する。
自分ではありえない言葉遣い。振る舞い。トーク力や場の流し方。自分には足りなかったところが補わられていて、なんとも言えない。
しかも投稿された日付を見ると、少なくとも数ヶ月前から投稿されていたようだ。
(なんでまたこんな……誰かのイタズラ?でもちゃんとオレのチャンネルから投稿されてるし……ああ!仕事以外でも頭使うのかよ)
モヤモヤした気持ちを必死に抑え込む。
でも、前にあげた動画はダメで、最近あげられたこの動画は高評価で、なんなら少し有名になり始めているらしい。
これで、喜んでいる人がいるなら、細かいことは気にしなくていいんじゃないか。そう思えてくる。
布団にボフンと横になり、枕に顔を埋めた。
明日もまた仕事だ。こんなこと考えている場合じゃなくなる。
明日のために、今日は寝よう。
そっと目を閉じて、眠りにつくのは、そう遅くはなかった。
「小島踏只。二十七歳。男性。二十三で今の会社に就職、学生時代も特に変わりなし。そして……」
「今流行りの動画配信者『ショーじ』の正体……か……」
「……なんでわざわざそんなこと読み上げるんだ?」
手にした資料を椅子に腰掛けながら、だらしない姿勢で読み上げる力声に、その隣に座っていた光は言った。
「この方がやった感あるだろ?」
資料から光に視線を移した力声はそう答える。
ここはSpiritにある資料室。そこにあるパソコンやずらりと並んだファイル等で調べ物をしている最中であった。
「感じゃなくてやれ」
「えーだってぇぇ!多いもん長いもん終わらないもん!」
「力声が調べるって言ったんだろ」
もんもん騒ぎ始める力声に、いつの間にか席を立ってファイルの棚を見上げていた光が言う。
「……じゃあやめていい……?」
きゅるんとした今まで見たことのない瞳を向けてきた。
「そんな目してもダメ!あと普通にキモイからやめろ」
「ひーどーいー!!」
騒がしい男を横目に、光はファイルに目を通した。
しばらくして、会話が途絶えていた二人は、光の言葉を始めに語り始める。
「やっぱり、大したことは得られないな。直接見た方が、情報は得られる」
パタンとファイルを閉じて、はぁ……と少々疲れ気味に息を吐く。
「まあ、資料と実際に見るとじゃ、差があるしな」
脱力し切った体で、こちらを見ている。そしてなぜか、頭にファイルが被さっていた。
「それにしても、すごい量だよな……このパソコンも。どこからこんな情報得てんだ……?」
周りを見渡しながら光は声を漏らした。
「ああ、それはな、そういう役割があるんだよ」
むくりと体を起こして言うと、頭に乗っていたファイルが落ちてきて、「いてっ」と小さな声で付け足された。
「役割?」
そう聞き返しながら、他のファイルをかたすついでに、光は力声からそのファイルを受け取り、棚に入れ始める。
「そう、役割。情報を集める専門?みたいな。それで日に日に更新されてくの。すげぇだろ」
「お前じゃないのに、なんでそんな自慢げなんだよ……」
最後の一冊をスッと入れ終わると、そこで、光は思い出したように短く声を上げ、力声に再び話しかけた。
「そういえばさ力声。この前俺に、その男の人の……ショーじ?の動画送ってきただろ。あれはなんだったんだ?」
力声は一瞬何を言ってるんだと言う顔をしたが、すぐに思い出したようで、ポンッと手を叩く。
「ああ!あれね、普通に間違えた。ほんとはこれを見せたかったんだよ」
そう言って、自分のズボンのポケットから携帯を取り出すと、素早く操作して画面を見せてきた。
同じく『ショーじ』の動画。前に送られたものと同じに見えるが、少し違う。人物は同じだが、口調が違う。標準語ではなく、関西弁へと変化している。
「……これが……どうした?」
まじまじと動画を見ても、何が言いたいのか分からず、聞いてしまう。
「この『ショーじ』って男が誰なのか、知りたかったんだよ。でも、もうわかったからいい」
「そのショーじってやつと、霊になんの関係があるんだ?」
「このショーじって配信者、たまーに生配信があるんだけど、最近はそれが多くてな。霊気の反応があった時間帯とその配信時間が、不自然なほどにぴったり一致するんだ。たまたまってこともあるだろうから、一応で目をつけてたけど、繋がったな」
「これからどうする?一応目的は絞れたけど、いきなり乗り込むわけにもいかないし」
うーむと考えるように唸る光を横目に、力声が言った。
「ま、特別何かしてるわけではなさそうだし、今のところ状況を見て、だな。とりあえず、視察だ視察」
そう言って椅子から飛び上がるように、立ち上がった力声を見て、光もすぐ後に立ち上がった。
「適当かよ……」
いつも通りだが、呆れながら力声の背中を追った。
なんか短くてすみません。ここで切った方がいい感じだと思いまして……
少しずつ話を進めていくので、今後もよろしくお願いします!