下見(仮)
光と力声は昨日行けなかった場所へと足を運ぶことになった。事情を力声から聞きながら着くと、そこは一つのアパートだった。
学校終わり、光は昨日行けなかった場所へ力声と共に向かっていた。
「昨日はごめんな、行けなくて」
「いいや、俺が言ってなかったのもあるし、いいよ」
「それで、なんでここに向かってるんだ?」
光が昨日送られた地図の画面を指差して力声に問う。
「ああそれな。実はまだ確定じゃないんだけどさ、そこに霊が取り憑いてる人間がそこにいるらしくて、確認にな。一昨日の夜中に少しだけ反応があったんだよ。それで光にも付き合ってもらおう思っただけ。そんで見に行ってみたんだけど、なんの収穫も得られなくてさ。まあ、意見は多いほうがいいし、とりあえず見るだけ見てこようぜ」
「ふぅーん」
長々とした力声の説明にそう返事し、二人はその場所へと足を進めた。
しばらく歩くと、一つのアパートへと辿り着く。外装はあまり綺麗とは言えないが、そこまでボロボロではない。
するとそこで足を止めたので、どうやらここが例の場所らしい。
「えっと……ここだな」
携帯を確認し、そのアパートを見つめると力声がそう言う。
「ここが……」
光はそのアパートを見つめて呟く。
「どうだ、何か感じるか?」
「感じるって言われても……」
力声に突然聞かれたので、曖昧にそう答える。
感じると言われても、特に何かを感じるっていう感覚はない。まじまじとそのアパートを見つめていると——
「ここに何か用ですが?」
「「うわぁっ!」」
光と力声は突然聞こえた謎の声に驚き、同時に声を上げた。
仕事の帰りだろうか。スーツを着て、メガネをかけたなんとも暗そうな雰囲気を漂わせる男。メガネ越しでも顔色があまりよろしくないのが、なんとなくわかる。
謎の声の正体と思われる男が慌てて謝る。
「ああっ!すいません、驚かせるつもりは……きゅ、急にこんな男に話しかけられたらそうなりますよね、配慮が足りず申し訳ない!」
とご丁寧に謝ってくる男に、光はすかさず謝り返す。
「い、いえ!こちらこそ道を塞いでいたようですみません!邪魔でしたよね。ほらおまえも」
と小声で力声を巻き込み、無理矢理頭を下げさせる。
「すいません」
それに合わせて力声がそう声を上げる。
そんな二人を見て、男は改めて話題を逸らす。
「そ、そんな謝ることは……そ、それより!ここになにか用かい?誰か探してるなら呼んでこようか?」
「いえいえそんな!別に誰か探してるわけじゃないので……」
「そ、そうかい……?そうでもなきゃなかなか立ち寄らないと思うけど……」
そんな男を見て、少し怪しまれていると思ったのか、何か良い言い訳はないかと考えを巡らせる。
「……ひ、一人暮らし!を考えていて……それでいろいろと物件巡りを……」
光は咄嗟に思いついたことを男に喋る。合わせるように軽く肘をつかれた力声は、うんうんと顔を縦に振る。
思わぬことにきょとんとした男はフッと軽く笑うと、こう口にした。
「一人暮らしか……わざわざ足を運ぶなんてえらいね。今時ネットでいくらでも物件が見れる時代なのに」
「あはは……」
頰に一筋の汗を流しながら、軽く笑って見せる。
「でもね、ここはやめといたほうがいいよ?家賃は確かに他と比べて安いけど、たまに電気の通りが悪いのかよく停電するし、夏なんかエアコンの調子が悪くなる時もあるからね」
本当に一人暮らしを考えている少年と思っているようで、この家のことをよく教えてくれる。
「まあ、それでも住みたいって思うなら、二十一号室はやめといたほうがいい」
「なんでですか?」
その言葉に思わずそう問いかけてしまったが、まあいいだろう。
「出るんだよ」
「出る?って、何が……」
スゥーと息を吸った男が答える。
「幽霊さ」
「「!」」
二人はその言葉に反応し、顔を見合わせる。
「そこの部屋だけは、昔自殺があった部屋らしくてね。まあ、いわゆる事故物件てやつさ。ふざけてそこに住み着いたやつも、そこの部屋に住んだ途端、体調に変化が出てきて、段々悪化してその部屋を出たっていう話もあったって。まあ、実際に見たわけじゃないし、あったとしてもたまたまだと思うけどね」
冗談というような様子で話終わると、その話を黙って聞いていた二人を見た。その様子に怖がらせてしまったかと思った男は再び謝る。
「怖がらせてしまっかな!?ごめんね!えーと……ああっそうだ!はいこれ!」
どこかに寄ったのだろうか、手に持っていたビニール袋をガサゴソと漁ると、中から可愛らしい包み紙に包まれた二粒の飴を差し出す。手に乗せらせた光は飴を見つめていると、男は素早く話を切り上げた。
「じゃ、じゃあオレはこれで、長々と引き留めてごめんね!それ、よかったら二人で食べて、いらなかったら捨ててもいいからー!」
そう言いながら男はその場走り去ると、アパートの二階へと階段を駆け上がり、手前の部屋に勢いよく入って行った。
(あれ?)
光は後ろ姿を見つめているとふとそんな言葉が出てくる。
それを見つめて、ポツンとその場に取り残される二人。
とりあえず渡された飴の一粒を力声に差し出した。
「はい」
「ああ、どうもどうも」
受け取った力声がお礼を言うと、光がアパートを見つめて話始める。
「それにしても、忙しい人だったな。それにすごい親切」
「ああそうだな……ってそんなこと言ってる場合じゃない。それより——」
力声の言葉を先読みして、光がその先を答えた。
「幽霊……だよな」
「ああ、事故物件ってやつ。あれが正体か?」
「でも、誰かに取り憑いてるって言ってなかったか?」
「反応はそのはずだったけど、なんか妙だな……」
「妙?」
顎に手を当てて考える力声に光がそう聞く。
「霊がいるなら、少なからず霊気は感じるはずだ。なのにこれっぽっちも感じない。感じなさすぎる」
「ここにいないって可能性は?」
「ゼロ……ではないけど、反応があったなら霊がいた痕跡が残ってるはずだ。それも一昨日なら完全になくなるってことはないだろうし……」
「お前でも何も感じ取れないのか……」
いろいろと考えを巡らせている力声の姿を見て、そんなことを呟く。
「感じる……ねぇ……」
ポツリと光は声に出すと、あることが脳によぎりハッとする。
「あーー!!」
思わずそんな声を出し、突然のことに力声もそれには驚いた。
「ど、どした急に!?」
「思い出したんだよ!」
ハッとした表情がまだ張り付いたまま、力声にそう答える。
「何を!」
「さっきの親切な人!」
「さっきの?……ああ、あの人か、それがどうした?」
「あの人、この前見かけたんだよ!顔ははっきり見えなかったから確かではないけど、なんか見覚えがある」
少々早口になりながら光は力声に向かって話す。
「へー……で?それがどうしたんだよ」
まだまだ話が見えないといった様子で尋ねる。
「俺、その人とすれ違ったんだけど、その時に、なんて言うんだろう……なんかゾワッとする感じがしたんだ。なんか覚えがあるような感覚が……それが霊気だったのかはわからないけど」
一通り話を聞き終えると、再び力声は考え始める。
「……んー……つまりは、あの人が霊に取り憑かれてるって可能性があるってことか……でもあの距離で話したのに何も感じられなかった。だとすると……」
ぶつぶつそう言いながらかなり考えている。そんな力声を見つめていると、やがて、考えるのに疲れたのか声を上げる。
「うがあぁぁぁ!!考えるのめんどくせぇぇぇ!」
頭をもしゃもしゃと自分の手で荒らしながら、やがて脱力したように腕をだらんと下げた。
「光!もうその線でいく。あの男のこと、調べるぞ」
そう言った力声に目を丸くしながら光は力声に言った。
「え、いいのかそれで」
「いいも悪いもあるか!これではっきりするなら、別にいいだろ」
なんだかヤケを起こしているような様子で言う。
「それ、力声がそのモヤモヤを解消したいだけだろ……」
半分呆れながらぼそっと口にすると、聞こえていたのかギロっと光を見つめる。
「なんか言ったか?」
「いや?なんでも……」
そんな力声にわざとらしく視線を逸らしながら、そう答えた。
毎度ありがとうございます。今回は主人公ターン?です。次回もどうぞよろしくお願いします!