彼女は砕かれる
光たちの元へやっと辿り着いた力声。すでに戦闘が始まっており、すぐさま参戦するが、撃ち込んだ弾は霊の強力な髪によって塞がれてしまう。
それにどうするか、皆頭を悩ませるが、光は一つだけその方法があると言う。その方法とは——?
力声はここへ辿り着くまでに、かなり時間がかかったと思う。
なぜなら、進む道全てが綺麗に塞がれていた。なんて意地悪なのだろうか。
そしてやっと辿り着いたと思えば、戦ってる風な感じな状況、絶望したような雰囲気の霊。そしてその状況になぜか皆固まっている。
考えれば考えるほど訳がわからなくなってくる。
力声の声に誰も反応を示さないので、とりあえずこれはチャンスなのでは?と思い、霊の壁を破壊しようと動く。
近づいた霊の胸に銃弾を撃ち込んだ。
これは完全に入った。
だが、霊が倒れる気配はない。なぜだ?
その理由はすぐに分かった。それは——
「髪か……」
なんと、壁ごと硬くなった髪で守るように覆われていたのだ。
「お前、髪の使い方間違ってんだろ」
思わずそう口にしてしまう。だが、そんな言葉も無視して女性は口を開いた。
「私の顔を……見たわね……?」
「顔?うわ」
と力声は声を上げた。霊の顔をようやく目にしたのだから。
「ごめん、気づいてなかった」
と続けて口にした。
片手が回復したのか、その腕をブンっと振る。力声はそれを難なく避けると、その先は光の元だった。
「お前、遅い」
来て早々言われたのはその言葉。なんだかちょっと悲しい。
「いや聞いてよ、道が塞がってたんだよ綺麗に!」
「どうでもいい」
「聞く耳持ってよ……」
と弱々しく口にしたのち、仕切り直すように言った。
「んで、どうするよ。あいつの壁……髪が巻き付いてて簡単には壊させてくれないぜ」
「うわーマジかー」
と光は頭を悩ませる。だが、すぐに「あ」と声を漏らす。
「いやある。壊す方法」
「え、それって——」
とここまで言うと、光はある場所に顔を向ける。その場所を力声も同じように顔を動かすと、そこには浮いた銃の姿があった。
「…………オイら?」
とその小さな手で自分を指差す。それに二人は静かに頷いた。
「ラムならあの髪の毛に全然効く」
「お前の弾さえ入りゃ終了だ」
そう言って、力声はラムを手に持つと銃弾の数を確認しながら、光に言った。
「光急ぐぞ。これ以上強くなられても困る。俺が距離詰めて撃ち込むから、お前はその子頼むな」
「わかった」
するとものすごい速さで近づいていく。霊もラストスパートとというように爪を振る。
いくつもの斬撃が一気に襲い掛かるも、素早く避ける。
その流れ弾を光は必死にさばく。
力声はラムの銃と元々使ってた銃を両手に備えると、同時に弾を発射する。
その弾は女性の腕に的中し、その体から離す。
腕を失った霊に思いっきり蹴りを入れて、押し倒すように、床に密着させた。
霊はそれに必死に体を動かしもがく。
力声はその無防備な姿に躊躇なく銃口を向けて言った。
「別に俺は悪くないと思う、それ」
パリン!
それだけ言うと、銃声と共に、霊の壁が壊された。
光は持っていた瓶に霊をしっかりしまうと、専用のポケットに収めた。
「終わった……」
ふぅーと息を吐きながら言った。
「お疲れさん」
力声が肩を叩きながらそう声かける。
その横で、ラムはしっかりラムネを貪っていた。
そして咲桜はというと、いまだにぽかんっとした状態だった。
二人もその様子にどう説明したものかと、少々困っていた。
「あの、明智さん」
とりあえず光が声をかけにいった。
「は、はい!」
慌ててその声に応える。
「怪我とか、ない?」
突然聞かれたので、目をぱちくりさせると、自分の体をペタペタと触り始める。一通り調べ終わったのか、咲桜はそれに答えた。
「はい!なさそうです」
「そっか、よかった」
会話が終わってしまうと、しばらく沈黙の時間が訪れる。
しかしその気まずい時間を力声が破る。
「あのさ、明智さん」
「はい!」
あまり話したことがない相手なので、戸惑った様子だ。
「今回のことは、誰にも話さないようにお願いしたいんだけど……」
「……あ、はい!それは、もちろん……です」
どこからも緊張がとれるような声で言った。
「そっか、ありがとう」
と、一通り会話が完結したところで、光が咲桜に一つ問いかける。
「そういえば明智さん、俺一つ聞きたいことがあるんだけど」
「はい、なんでしょう!」
ピシッと背筋を伸ばして言う。
「明智さんってさ、霊……見えてるよね?」
「え?」
思いがけないことを聞かれたので、咲桜も力声も驚いた反応をする。
「だってさ、向こうでラムネ貪ってるやつ、見えるよね?」
ひょこっと覗くように見ると、そこには幸せそうにラムネを噛み締める可愛らしい姿があった。
「銃の方は見えててもおかしくはないけど、あそこから飛び出してるやつの姿も見えるでしょ?」
光はラムを指差しながらそう続ける。
「はい!とっても可愛いです」
と感想を言ってきた。その答えに力声も口を開いた。
「あそっか、もう霊はこの子から離れたから、見えなくなってるはずなんだ!」
「そう、俺が明智さんと初めて会った時も、見えてたみたいだったから、元々そういう体質なのかなって……まあ聞いてみただけだから気にしないで」
と言った光は、帰る方向へ向いて言った。
「んじゃ、帰ろうか」
と言って歩き出すと、咲桜は突然声を上げた。
「あの!」
そう言って光の腕を掴んだ。それに光は驚きながらも無言で振り向く。
「あの……今日のことは夢、ですけど……先輩のことは、夢にしなくていいですか⁉︎」
「え……?」
言ったことがわからないと思ったのか、もう一度咲桜が言う。
「明日また、こうやって話してもいいですか?」
と、真剣に見つめられたので少し困ったような顔をする。
明日というのは、多分学校でということだろうか。
あーと唸りながら、頬をかいて言った。
「ああ……うーんと…………都合が悪いこと以外なら……」
光は曖昧ながらもそう返答した。
「ここまでで結構です。ありがとうございました」
と一言お礼を言うと、咲桜は家へと帰って行った。
後ろ姿を見送ると、二人は反対向きへと足を進めた。
「随分と好かれたな」
力声が突然そう言ってきたので、光は力声をチラッとみながら答えた。
「別に、好かれたっていうより、ただの興味じゃないか?」
「興味?」
「こういう変わった感じと、出会ったこと。なかなかいないだろ、霊がどうのこうのって」
「そうかなぁ」
「そうだよ、まぁ嫌われるよりはマシだけど」
「それもそうだな」
一通り完結した後、光は改めて聞いてきた。
「それでさ、俺気になることがあって」
「ほん?」
「あの霊って、なんで顔がなかったんだ?」
「ほう」
力声に説明するように、光は一言添える。
「だって、今まで会った霊に、そんなやついなかったからさ、気になって」
「あーそういうこと」
納得したような声を上げると、続けて光の質問に答えた。
「前に言ったよな?霊がここに居続けるためには、代償が必要だって」
「ああ」
「それと一緒だよ。あいつのここに居続けるための代償が、あの顔だったってだけ」
「あれが?」
光はあの霊の顔を思い返すと、少しゾッとしながら言った。
「代償って、そこにとどまるって決めれば、勝手に取られるのか?」
「いや、それは自分で決められるぞ。だからあの霊は、望んであの代償を払った。何年もここにいるって言ってたから、少しずつ支払ったんだろうな。目、鼻、それにたまたま触れた腹も穴が空いてたから、それも代償として払ったんだと思う。それだけその人に会いたかったんだろうな」
長々と語った力声の話を聞いた光は、ふと考えたことを言う。
「そういえばあの人が会いたかった人って……」
「ああ、もう亡くなってるよ」
「え⁉︎」
さらっとすごいことを言われたので、思わず立ち止まって声を上げる。
「亡く、なってるって……」
「あの人が探してたの、多分恋人か何かだと思う。大切な人なのは間違いないし、その人は、二年前にあった事故で亡くなったんだ。だから、あの霊がいくら探しても、見つからない」
「そう、だったんだ……」
再び歩き出した二人は、しばらく沈黙状態に陥る。
「それ、伝えなくていいのか……?」
光が改めて口を開く。
「あの状態で伝えたら、悪霊突き抜けて怨霊になるぞ?正直言うと、あの霊は半分悪霊状態だったようなもんだし」
「え⁉︎そうなの⁉︎」
また新たな事実に声を上げる光。その様子の光に力声は当然のように言う。
「明らかに変な髪使ってたろ。普通硬くなったり、うねったりせんから」
「そっか、そういうのって悪霊か『力』を持ったタイプくらいか」
「よく覚えてるようでなにより」
うんうんと一人で満足そうに言う。
「いつか力声より詳しくなったりしてな」
お返しとばかりに、からかうようにそう言った。
「なっ……そこは譲らん!」
などといつも通りの二人の会話が、やっと戦いの終わりを告げた気がした。
ついにこの話を終わらせることができました。長々とこの話を読んでくださり、ありがとうございます!
ちなみに疑問に思ってる人がいるかもしれないしいないかもしれないですが、霊が光と咲桜を狙っていたのは、嫉妬心からです。愛って時には怖いものですね。
さて、次回の予告をしておくと、またまた日常回のようなものかもしれないです。ちょっとは絡んでます、多分。ということで、次回もよろしくお願いします!