彼女は望む
三人は場所を移すため、歩きながら世間話を弾ませる。
何かしらの変化があるのかとも思ったが、何も起こらず、ただ話しながら歩いている状況に光は力声に問う。
そんな三人に、ある者が迫ってきていた。
力声の言葉で、三人はどこへ行くかも決めることなく、道が続く限り歩き続けていた。
「へーだから光と……不思議な縁もあるもんだな……」
三人は歩きながら、光と咲桜の繋がりについて話していた。
なぜそんな話なったのかはわからないが、いつのまにかそんな話になっていた。
そんな状況に光は咲桜にバレないよう、力声に密かに話しかける。
「おい、さっきからずっとこんな感じだけど、大丈夫なのか?」
「今のところは……逆に、下手に動けばこっちも何かされかねないし……それにこんなとこで暴れられでもしたら、俺らだけの問題じゃ済まなくなるぞ」
「それもそうだよな……」
実を言うと、今誰かにつけられているらしい。
遡ること学校の校門前。
力声は何かに気づき、そのことを光に伝えたあの時だ。力声は少しでも距離を取ろうとここまで連れ出したわけだが……かれこれ歩いて三十分になろうとしている。
咲桜もそろそろ不思議に思ったらしく、声を上げる。
「これ、どこへ向かってるんでしょうか?」
この質問にすぐには答えられない。なぜなら向かってる場所など具体的なのは決まっていない。
「んー」
力声は少し考えた後、咲桜の質問に答えることにする。
「なるべく人がいない場所……かな」
それを聞いた咲桜は思った。
「…………なぜ?」
思ったことを口に出してしまう。
「まあまあ細かいことは気にせず」
「言われなくても気にしちゃいますよね」
などと言っていると、人通りが少なくなっているのを感じた。
もう帰りの時間で、皆家へ帰る。
ここは会社などの企業が建ち並ぶ場所。言えば、光たちは帰るのとは真逆に進んでいる。
自然と小さな路地へ入り、咲桜や光も力声にならって入る。
そこでようやく止まると、力声が光に語りかける。
「光これ」
そう言って渡してきたのは、銃だった。
もちろん咲桜には見えない位置で。
「え、なんで」
「あ、それはいつも使ってる光専用のやつじゃないから、そこだけ伝えとくな」
「いやだからなんで⁉︎」
「シッ!」
静かにするように、力声が人差し指を口の前で立てると、慌てて口をつぐむ。
しばらくして、人差し指を立てたまま、力声は小さな声で言った。
「光、あとこれ渡しとく」
そう言われて差し出された力声の手を見ると、いつもの霊を閉じ込める瓶が握られている。力声は光が黙って手に取るのと同時に続ける。
「そろそろあっちも限界迎えてるみたいだ。なるべくこっちで頑張るけど、もし向こうに行ったらそれ使ってくれ。最低限のものは、ラムに持たせてあるから、何かあったらそいつ頼れ」
話がどんどん進んでいっているが、光は話の流れでなんとなく今の状況がわかった。
「……わかった」
力強く頷くと、力声も光に頷き返す。
「じゃあ、こっから別行動だ。その子頼む」
そう言うと同時に、力声は路地を出る。
光もそれを見て、咲桜の手を取って、力声とは逆方向へ走り出した。
その状況に咲桜は飲み込めず、混乱する。
「え、なんですか!なんですか⁉︎」
光は走りながら咲桜に言う。
「ごめん明智さん、多分これから危ないことに付き合わせるけど、夢だと思って!」
「ゆ、夢⁉︎」
そう言い合いながら、二人はどんどん前に進んで行った。
「なん……で邪魔するの」
力声の目の前に立つ女性は、弱々しい声で言った。丈の長い、白いシャツをまるでワンピースのように身に纏っている。靴は履いていなく、裸足状態。顔はその長い髪の毛で隠されていて見えない。
「私はただ……彼に会いたいだけなのに‼︎」
ギュッと拳を握りしめて、力強く言う。
「その彼って、あいつじゃないだろ。関係ない」
力声はズバッと女性に向けて言う。
「私があの子を見つけたのよ……あなたこそ出しゃばらないで!」
振り払うかのように腕を振って言う。
「残念ながら出しゃばらなきゃいけないんだ。あなたはやりすぎた。その願いのせいで、いくつもの人たちを犠牲にした。今や精神状態が乱れまくって、回復の兆しが見えない人だっている。重罪なんだ」
その言葉にさらに苛立ちを覚えたのか、自分の頭を掻きむしる。
「罪……?何が?私の何が罪に当たるのよ……!精神?そんなので壊れるなら、そこまでだったってことよ。足りないのよ!愛が!」
その言葉を合図に、女性はこちらに向かって走る。そして、片腕を大きく振りかざすと、力声の顔に向かって落ちる。
キンッ!
と硬い音を出す。横目で見ると、先程とは段違いの爪の長さをしている。それがこと硬い音の正体のようだ。
(早く壁を破壊しないと……)
グッと右手に持ったナイフに力を込めるが、その研ぎ澄まされたように鋭い爪はびくともしない。
それに……女性でありながら、力がありえないほど強い。少しでも力を緩めれば、押し負けてしまいそうだ。
「そんなもので私は止まらないわ!」
彼女の望みは相当なものらしい。力がどんどん増している気がする。
「ならこれはどうよっ!」
力声は前方に力を込めて押しながら、風を起こす。それによって体の軽い女性は後方に飛び、距離ができた力声は左手で直径二、三センチほどの小さな球体を投げる。
その球体は風に乗り、女性に当たる寸前で火花と煙をぶち撒けながら弾ける。
投げたのは小型の爆弾のようなものだった。
「わお」
力声はその爆発を見て思わず声を上げる。思った以上の威力だったのだ。
「これはもう少し改良が必要だな」
と呟く。爆発に巻き込まれた女性は煙の中からようやく姿をあらわにする。その姿が見えてきた力声は思わず息を詰まらせた。
「っ!」
「フゥゥ……」
とゆっくり息を吐きながら、肩を上下させている。
だがそれよりも、あの爆発に巻き込まれた体が、みるみる修復されていく。皮膚はもちろん、破れた服さえも元の形に戻っていく。かなりの修復能力だ。与えた傷は全体的見ると浅いが、いくら霊といっても、基本的な霊は短時間で治そうとすると、自然と回復する倍の霊気を用するが、彼女はそれを気にしないと言った早さで回復している。
そして、煙を振り払うように腕をブンッと振ると、力声の方へ近づいてくる。
すぐさまナイフを構えたが、見向きもせず横を通り過ぎた。
「っ……」
後ろを振り向くと、もうその女性の姿はない。
「っあいつ……」
そう口にすると、ナイフを仕舞って、すぐにそいつを追った。
「ハァ……ハァ……」
歩く間もなく走り続けて、二人して息を切らして始めていた。
「あ……の……」
咲桜は光に手を引かれながら声を上げると、光はハッとして足を止めた。
「ごめんっ……大丈夫?」
光が咲桜の顔を覗き込みながら言ってきた。
「は、はい、ちょっと……こんなに走ったの、久しぶりで……」
光も息を整えながら、ふと思う。
(あ、急に止まるの良くないんだっけ……)
確か走った後に急に止まると良くないって、よく体育の先生が言っていた気がする。
「ちょっと、歩くよ」
そう言ってゆっくりと前へ進む。咲桜も光の手を握りながら、しっかりついてくる。
少し落ち着いてきたのか、咲桜は光に話しかけてきた。
「あの、波河先輩」
「んー?」
「先輩って、彼女いますか?」
「ゲホッゲホッホ」
突然のことに、光は思わずむせてしまった。
「せ、先輩⁉︎」
大丈夫じゃなさそうな咳に咲桜も心配し、背中を軽くさする。
「だ、大丈夫、ですか?」
光も咳が落ち着き、ふぅーと息を吐くと言った。
「ごめん、だいじょっゴホ!うん大丈夫」
「大丈夫ではない気がしますが……」
「むせただけだから」
咲桜は背中から手を離したが、心配そうに見ている。
「聞いちゃダメなことだったでしょうか……?」
「いや、ダメってことはないけど、予想外のことだったからちょっとびっくりして……」
「そ、そう……ですか?」
光はまだ少しゴホッと咳が残りながらも、答える。
「ていうか、俺の彼女いるいないを聞いたところで、面白いことなんて一つもないけど……」
「別に面白いことを期待してるわけじゃ——」
と言いかけたところで、ものすごい音が二人を襲う。まるで何かが崩れ落ちる音のような。
「すごい音でしたね……」
「本当だね……危ないし、急ごう!」
そう言って、再び手を引いてできるだけ速く歩いた。
やっと本来の感じに戻ってきたって感じがしますね。
毎度付き合わせてしまってすみません!
ここからが本番という感じです。
よろしくお願いします!