話を聞こう
予想もできていなかった言葉に、理解が追いつかない咲桜。驚きを隠せないのも無理はないが、そんなに時間を使っていられないようで、光から何か変わったことはなかったかと聞かれる。その言葉で思い当たることがあった反応を見せた咲桜は、口を開く。
「レ……イ……?とは、どのれい……ですか……?」
恐る恐る聞いてみると、光はさらっと答えた。
「幽霊の、霊」
どこから出したのか、『霊』の一文字が書かれたパネルを取り出していた。
「ゆう……れい……ああ、だから霊……」
一人でぶつぶつ言いながら、納得したようにうんうんと頷くと。
「って、えぇぇぇぇ‼︎」
と叫び出す。大体の生徒は帰ったが、全員ではない。近くにいる少人数の人たちはその声にチラチラとこちらを見てぶつぶつと呟いていた。何を言っているかまでは、さすがに聞こえないが。
光はそのすぐ目の前にいたので、その声に思わず耳を両手で覆う。
(黙ったり、叫んだり、忙しい子だなぁ)
咲桜もあまりに非現実的なので、頭を目もぐるしている。
そんな中、光が言いづらそうに咲桜に声をかける。
「そこでなんだけど、明智さん。最近、何か変わったこと、なかった?」
「っは!え?……変わったこと、ですか?」
やっと頭の中から戻ってきたのか、反応し聞き返す。
「うん、なんでもいいんだ。特にないならそれが一番いいんだけど」
咲桜はうーむと考え出したのか、首を右へ左へ傾げながら考える。
「あ」
何か思い当たることがあったのか、そう小さく漏らした。
「あの、関係あるかはわからないですけど、変わったことはありましたよ」
「聞いてもいい?」
光の言葉にこくりと頷くと、語り始めた。
「最近……夢を見るんです」
「夢?」
「はい……暗い場所に、一人でいるんです。一人のはずなのに、誰かの泣き声が聞こえて、いくら歩いても、そこには辿り着けない。それが何日も続くんです。でも、一度だけ違ったんです。今まで誰も見つけられなかったのに、その日だけは誰かいて、見つけて会話したんですが……その……」
その時のことを思い出しているのか、少し顔色が悪くなっていく。少し震え出しながら、咲桜は続きを話した。
「……顔が……なかったんです。まるでそこだけ切り抜かれたみたいになくて、それで、何が欲しいのかはわからないですけど、『私にちょうだい』って言いながら襲い掛かられる夢……です」
一通り話し終えた咲桜は、ふぅー息を吐く。その様子を見て、光は咲桜に声をかける。
「ごめん……嫌なこと思い出させちゃったね」
その申し訳なさそうな顔と声色で言われた咲桜は即座に否定する。
「い、いえ。私が言ったことですし、少しでもお役に立てるなら、これくらい平気です!夢ですし」
そんな中、二人の会話を聞いていた力声は、周りを視線だけ動かして見ていた。
そこで何かに気付いたのか、光に囁くような小さな声で何やら話し始める。
「え」
それを聞いた光は思わず声を漏らすと、咲桜の方を見た。
咲桜はその様子に首を傾げる。すると突然、ずっと話していなかった力声が咲桜に向かって声をかける。
「明智さん、この後何か予定ある?」
そう聞かれた咲桜は、数秒考えたのち答える。
「……いえ、特には」
それを聞いた力声は自分の後ろの道を指差して言った。
「なら、少し歩きながら話そうか」
毎度短めですいません!多分次の話はこれよりもう少し長いと思います。面倒だと思いますが、お付き合いください。