眠気の終わり
あの夢のせいで、眠れない日が続く咲桜に、とうとう限界が来始める。友達の沙良叉のおかげでなんとか久々に眠りにつくことができたが、それでも咲桜の疑問は膨らみ続けていた。
そんな中、学校の校門前に誰かを待っているのか、人影を見つける。なんだか、気になって見てしまった咲桜は、その人物と目が合ってしまって——!?
よろよろと力無く廊下を歩く少女は、やっとの思いで教室に着く。今や慣れた自分の席に真っ直ぐ向かうと、吸い込まれるように椅子に座り、机にへたり込んだ。
(眠い……)
それが今の彼女の思いだった。
わかりにくいが、目には薄くクマができているようだ。髪もいつもよりセットが甘い。瞼が重く、少しでも気を緩めれば、すぐにでも夢の中へ行けそうだ。
「ちょっと咲桜大丈夫⁉︎」
咲桜と呼ばれた少女は、ゆっくりと顔を上げる。目の前には、クラスメイトの沙良叉が、心配してこちらを覗き込んでいた。
「うん……大丈ぶぅ……」
と言いながら、机に再び顔を下ろした。その際、ガンっ!という言わなくても痛いとわかる音が響く。
「咲桜⁉︎」
「だいじょぶだいじょぶぅ……」
机に突っ伏したまま、明らかに大丈夫ではない弱々しい声で言われても説得力がない。
「咲桜、明らかにだいじょぶじゃないから、保健室行こ?そこで少し寝させてもらいなって」
「だぁいじょぶ……」
もはやそれしか言えなくなってしまった咲桜を、沙良叉はなんとか咲桜を立たせて、保健室へと急いだ。
咲桜を保健室に連行した沙良叉は、心配しながらも、授業があるので教室へ戻って行った。
咲桜はベッドに寝かされると、自分でも気付かぬうちに、すぐに眠りについた。
咲桜が起きたのは、五時間目の半ばくらいの時だった。
およそ三時間ほど寝ていたらしい。さすがの咲桜もびっくりしたが、なんだかさっきよりは、スッキリした気がする。
授業に戻ろうとしたが、念のため熱を測った。測った体温計見た先生は、すぐに帰って寝なさいと言ってきた。それほど熱があったのだろうか。自分じゃあんまり感じられない。
すぐさま親に連絡を入れると、咲桜は強制的に家に帰らされた。
家に着いて、制服から寝巻きに着替えると、すぐにベッドへ入った。
母から何か食べる?と聞かれたが余り食欲もないので、頭を振る。
パタンと母が出ていくのを確認すると、咲桜は思いっきり力を抜いて眠りについた。
——次の日——
咲桜は学校へ登校した。一日くらい休めば?と言われたが、昨日たっぷり寝たので元気だ。
そこで変わったことが一つある。
昨日はなぜか『あの夢』を見なかったのだ。
夜には必ず出てきていた夢が、昨日は何も見なかった。
咲桜にとっては嬉しい限りだが、急に見なくなると不安にもなる。
まあ夢は夢だし、そういうこともあるだろう。咲桜自身は、もう二度と見たくはないが。
何はともあれ、咲桜は久々に普通の生活を送れた気がした。
なんだかここ最近、体も重かったのだが、軽くなった気もする。
学校が終わった咲桜は、帰ろうと靴を履き、校門へ向かう。
校門をくぐり、家のある方向へ曲がろうとすると、校門前に誰かが立っているのが目に留まった。
白いパーカーを着た少年。歳はそう変わらないくらいの子だ。
別に知っているというわけではない。ただ明らかにうちの生徒ではないのは、服装からしてわかる。
(誰か待ってるのかな?)
そして、咲桜の視線に気づいたのか、顔を上げた少年の目と合ってしまう。思わず目を逸らすと、下を向きながら、横を通り過ぎようとした。すると——
パシッ
何かが咲桜の腕を掴んだ。
その正体を辿ると、それは人の手だった。
「えっ」
その手から上へと視線を上げていくと、先程の少年だった。少年は特に慌てる様子などなく、当然のように腕を掴んだままだ。
「えと、何か?」
「…………」
「えーっと……」
咲桜の頭は混乱状態である。
(え、本当に何⁉︎何かした⁉︎あ、もしかしてさっき見てたの怒ってる?)
いろいろ考えを巡らせていると——
「——力声ー」
「っ!」
その声と共に、その少年も反応を示す。咲桜も、その少年の視線の先を辿ると、そこには見覚えのある姿が走ってこちらに向かってくる。
「光!」
「波河先輩!」
「「え」」
二人して同じ者の名が重なると、思わず顔を見合わせる。
「なんで光を……」
「なんで波河先輩を……」
と二人して動きがシンクロするように、お互いを指差す。と、そこで光がやっと二人の元へ辿り着く。
「ごぉめん、先生に頼まれごとされちゃって……」
終わって急いで来たのだろう、ハァハァと息を切らしている。それに、言葉も所々弱々しい。
「いや、そんな待ってないし……ていうか大丈夫か?」
一体どんな遠くから走ってきたのかというくらい疲れている。
「大丈夫……ただの……運動不足……」
「お前この間はめっちゃ走ってたのに、場所によって体力違うの?」
ふぅーとやっと治ってきたのか、いつも通りになり始める。
「いやそんなわけないだろ。終わったと思ったらまた違うこと頼まれてそんで終わったらまたの繰り返しで大変——」
とそこで言葉が切れた。すると、力声の隣に目を向ける。どうやらやっと咲桜の存在を認識したようだ。
「——って、なんで明智さんがいるわけ?」
疑問が抑え切れず、指差してしまう。
「何?知り合い?」
光の様子に力声はそう問いかけた。
「まあ、知り合いといえばまぁ……ていうか同じ学校だったらありえない話じゃないだろ」
「それもそっか」
と、一人で納得すると、咲桜はそろそろと、力声に掴まれてない方の手を上げた。
「あのーそろそろ離してもらってもいいですかね……」
「「!」」
いつも通りに会話していた二人は、ビクッとさせ、力声言う通りに離した。
「あーごめんごめん」
「ごめんね、こいつに触られて不快だったよね」
光が力声を指差しながら、咲桜に言った。
「おい、なんか俺が汚いみたいじゃん」
「え、違うのか」
「お前本気で言ってる?」
また二人のペースになりそうなところを咲桜が割って入る。
「あの!用が済んだなら私いいですか?波河先輩が来たことですし、私はこれで……」
「良くないね」
と言い、力声が再び咲桜の腕を掴んだ。
「ええ!なんでですか⁉︎」
「力声、離してやれ不快だろ」
「だからそれやめて!」
と言いながらも腕を離す。そして、ゴホンッと仕切り直すように咳を打つと、なぜダメなのかを語り始めた。
「この子は今回の件に関係あるからだ」
「今回の件って、今俺たちが調べてる例のあれか?」
その言葉に力声は頷きながら、続ける。
「そうそう、この前言ったろ?その原因である霊がこの学校の誰かにかもしれないって」
「ああ……そんなこと言ってたようななかったような?」
そんな光に呆れた顔をしながら力声が話す。
「んで、何日か光を待つついでに見張ってたわけだが——」
力声はそこまで言うと、咲桜に視線だけ送った。
「——この子から、その原因である霊の霊気を感じるんだ」
「!」
「え……」
光も予想していなかった展開に驚く。咲桜も何を言っているのかわからなかったが、思わず声が漏れてしまう。
「えガチ?」
「嘘言ってどうすんだよ……今は、霊気が薄いから、かなり隠すのが上手いか、今はその子から抜けてるかだな」
咲桜は全く話についていけない。
咲桜に関係あることなのはなんとなく分かる。でも、それを聞く勇気がない。
「それに、これは関係あるかわかんないだけど、最近光と一緒にいると、たまーに鋭い気配感じるだよねーまるで監視されてるみたいに」
光も突然そう言われ、全く気づかなかったという反応を示す。
「え!全っ然気づかなかった」
「いや、俺は多分他の人より霊気に敏感なんだと思う。だから他が気づかないような気配もなんとなく掴めちゃうっていうか……」
頬をぽりぽりかきながら力声は言う。
「すごいな、そんな才能があったのか」
「意外と見せてる気がするんだけど……」
一通り区切りがついたのか、力声は咲桜の元へ歩み寄ると言った。
「てことだから、えーと」
目を泳がせて、光に視線を送ると、その意味を瞬時に察知し力声に返す。
「明智さん」
「そう明智さん。一緒に来てもらえるかな?」
と手を差し伸べると、咲桜は両手を前に突き出すと言った。
「ちょっ……待ってください!」
待つように言葉と行動で示すと、次々と疑問が出てくる。
「あの、全く話が見えないんですが……えと、分かるとこは分かります多分。私に関係することなのは確かなんですよね?でも!本人分かってないんじゃ、行けるものも行けません!」
咲桜は大声を出したせいで、ハァハァと息を切らす。
力声はそんな咲桜の話を聞いて、光に問いかけた。
「さっきの説明でわかんなかった?」
光はその様子の力声に呆れながら言った。
「今のは俺に対しての説明であって、彼女に対しての説明ではない」
「つまり?」
「わからないな」
ガーン!と口から出そうな表情をしている。どうやら光に説明しながらも、咲桜に説明しているつもりでもあったようだ。
そんな力声に変わって、光が簡単に説明する。
「えっと、つまりは、悪い人に明智さんが狙われてるかもしれないから一緒来て欲しいってこと」
「悪い人?私何かしました⁉︎」
悪いと聞いて、自分が知らぬ間に何かしてしまったのではと思い始めてしまった。
「んーん、そういうことじゃなくて……」
光が必死に咲桜を宥めてから再び口を開く。
「言っても信じてもらえないからさ」
その言葉に咲桜はなぜか首を傾げた。
「?本当のことなんですよね?」
「う?う、うん」
「なら、信じないも何もなくないですか?」
その言葉に光はしばらくきょとんとして、突然笑い始めた。
「……っはは!そっか、そういう考えもあるのかー」
「?」
なぜ笑いにつながったのか、咲桜は首を傾げるばかりだ。
「いや、なんでもない。いいと思うよ、そういう考えも。でもさ、そういうの疑う人がいるから、俺もそういう部類なだけ。でも、ちょっと疑うことも考えてみた方がいいかもね」
笑いを収めながら言ってきた。
「は、はい」
咲桜もなんとなくで返事をするが、波河先輩の言うことだ、覚えておこう……と心に刻んでいた。
「じゃあ今回は信じていただけるみたいだから言うね」
咲桜はなぜか緊張し、ゴクリと息を呑む。
「つまりは、明智さんに——」
ドキドキと、なぜか心臓が速くなる。
「は、はい」
「——霊が取り憑いてるってこと」
「…………」
光は当然の反応だと、慌てる様子はないが、咲桜は沈黙状態になってしまった。
れい?礼?霊⁉︎どのれい?
「……へ?」
すみません!あとがきと前書き書くの忘れてました。
また改めて投稿させていただきます!