レイの夢
珍しくあくびをする咲桜を不思議がる沙良叉。実は最近よく眠れていないのだという。それはとある夢のせいで、何度も起きてしまう咲桜。
そして今夜も、その夢を見る。
——ああ、いない——
どうして……
あなただけ……あなただけなの……?
私だけ、こんなにも苦しんでいるのに……
幸せになるなんて、許せない……
——幸せなのは、私だけでいい——
「ふぁーあ」
咲桜の口から珍しく大きなあくびが出る。
「何、寝不足?」
物珍しそうに見てくるのは沙良叉だ。
今ちょうど二時間目が終わったところで、次の時間の準備をしているところだった。
「寝不足……ではないと思うけど、最近あんまり寝た気がしなくて」
そう言いながら、軽く目を擦る。
「それ絶対寝不足だって!」
「そうかなぁ」
「そうだよぉ」
そんな心配をされながらも、咲桜はほんの少しの眠気と闘いながら一日を過ごした。
——その夜——
「んー……」
咲桜は自分のベッドの上で小さく声を上げていた。
——……んで——
まただ。またあの声だ。
どこから……?
咲桜は真っ暗な闇の中に一人いた。
どこを見渡しても、続くのは真っ暗な景色のみ。
そして唯一聞こえるのは啜り泣くような声。
咲桜はその声が聞こえる方向へと真っ直ぐと一歩一歩踏み出す。
咲桜はこうやって歩き続けることを何度繰り返しただろうか。
何かをしたいわけではない。何かを考えているわけでもない。ただそこに何かありそうで、やみくもに前に進んでいるだけ。
——っ……ぐっ……う——
ずっと泣いてる……この泣き声以外聞いたことがない。嬉しい声も楽しそうな声も怒ったような声も。
今日もずっと同じ声と景色か。そう思ったその時。
「っあ」
咲桜は思わず声を上げた。目の前には、小さく白いものがぼんやりと見えた。これは今までにない出来事だ。
歩いていた足が自然と早足になり、駆け足になっていく。急に走り出したことにより、バランスを崩しそうになるが、なんとか堪えて前に進む。
目に見える景色が、だんだんとはっきりしてくる。最初はぼんやりと光る白くて丸いもののように見えたが、今は違う。それは思っていたよりも大きかった。よく見ると、人がしゃがんでいる姿のようにも見える。
距離がだんだんと近くなり、やがて後ろ姿を捉えるところまでいき、足を止めた。
子どもかと思ったが違う。確かに細い体をしているが、子どもにしては大きい。まるで、大人の女性だ。
「あのー」
「うっ……っ……」
思いきって声をかけてみたが、泣き止む気配はない。
「あの、大丈夫——」
「なん……で」
最後まで言い切る前に、目の前の女性はそう言い放った。相変わらず後ろを向いたままだが、少しずつ泣き止んできたようだ。
その声は咲桜にもはっきり聞こえ、会話を試みてみる。
「なんで……とは」
「……私、私ばっかりこんな目に……もうこんな思いをするのは嫌なの‼︎」
今までにない大声で泣き叫ぶ。
「私以外は、とても幸せそうよ……きっとそうよ……みんな私から幸せを奪っていくの!」
心からの叫び。いや助けを求めているのかもしれない。
咲桜は女性にそっと寄り添うように、背中をさする。
「辛かったんですね……私で良ければなんでも話聞きますよ。できることは少ないと思いますけど、できる限りでお役に立てることなら……」
ぐすっ……ぐすっ……と所々弱々しく、震えていた女性はピタッと止まった。
「ほん、とに?」
まるで彼女以外の時間が止まったような静けさ。
「なんでも……?なら——」
「え——」
急に女性が立ち上がったと思うと、こちらを振り向く。
それは咲桜にとって衝撃的な光景だった。それを見た瞬間——
「——それ、私にちょうだい……‼︎」
先ほどまでとは違う、恐ろしい声と共に女性は咲桜に迫った。
「っは……!」
とそこで咲桜は、夢の中から目を覚ました。見えるのは、いつもの自分の部屋の天井。横を見れば、見慣れた自分の机と椅子。
「ハァ……ハァ……」
咲桜は一旦上体を起こすと、少々息切れを起こしていた。額には汗が滲み、冷えるという夜でも、今の咲桜には暑いとも感じた。
必死に呼吸を整えようと、胸に手を当て深く呼吸する。
「ふぅーー」
それを数度繰り返すと、徐々にいつも通りになってきた。
だが、まだ心臓はそうはいかなかった。
鼓動は徐々に速くなっていくのを全身で感じる。今なら音さえも聞くことができそうなくらいだ。
この頃、同じような夢を見る。
それは、暗闇の中に一人。唯一聞こえるのは、誰かの泣き声。
いくら歩いても、景色も何も変わらなかった。
でも、今日は違う。ちゃんと正体があった。人がいた。会話もした。
そうだ、あの女性。さっき見たばかりなのに、脳内に焼きついてしまった。あの美しい声とは裏腹にあの姿。
そう、あの女性には——
——顔がなかったのだ——
顔がないというと、のっぺらぼうのような姿を思い浮かべるだろうが違う。
まるで顔だけぽっかり穴が空いたように黒く、油断したら、飲み込まれてしまいそうだった。
咲桜はその想像を振り払うように頭を振ると、布団を頭まで被った。
最近短い続きですみません!
更新頻度もそんな多くなくてすみません!
あと一つ言っておきます。今のシリーズ、私は勝手に恋するおとめシリーズと呼んでいますが、それが終わったらしばらく更新ができなくなるかもしれません!
できるだけ途絶えないようにしますが、もし何かあれば、ご意見等お待ちしております。
ではまた次回!