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Spirit  作者: まもる
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変わった子

ある意味やらかしてしまった咲桜は、彼と約束?をして、昼休みに会うことを決める。唯一知った波河という名前と二年生ということを頼りに二年の階に向かって、彼を探す。

「いやー急だったからびっくりしたよー」

「本当ごめん……」

 青海原高校は只今昼休み。お腹を空かせた生徒たちは、購買へ向かったり、持参した弁当を食べるところだろう。

 そんな中、そのような会話をしていたのは、沙良叉と咲桜であった。二人はそれぞれ持参した弁当へ箸を進めていた。

「まさか、授業ギリギリ、ていうか遅刻してまで引き留めるんだもん」

「本当ごめんって」

 二人が話していたのは、今日起こった出来事についてだった。

 咲桜はその時のことを振り返りながら話を進めていた。

『えと…………この前はありがとうございました‼︎』

『…………へ?』

 腕を掴んで身動きが取れない彼は、間抜けな声を上げ、始業のチャイムが鳴る。

 チャイムが鳴ったにも関わらず、二人はもちろん、沙良叉もその場にいた周りの生徒たちも固まって動かない。

 そんな中咲桜の心の中では、大変賑やかなことになっていた。

(うわーやってしまった……ていうか何⁉︎会って一言目がありがとうございましたって!ほら見てよこの表情……すごい困ってる、なんなら引いてる⁉︎ど、どうしよう……とにかく、何か言わなきゃ……)

 咲桜は頭の中をグルグルさせ、せっかく会えたが今すぐこの場を離れたいという思いを必死に隠しながら口をパクパクさせる。

『あ、の——』

『咲桜ー』

 沈黙を打ち破ったのは、咲桜でも彼でもなく、沙良叉だった。

 沙良叉は自分の持った教科書やノートを咲桜に見せて言った。

『授業!遅刻遅刻!』

 そう言われ、やっとの思いで頭を整理して、床に散らばった自分の教科書類に視線を向ける。

 それを拾おうとし、今まで自分が彼の腕をずっと握っていたのにようやく気づくと、パッと離す。

 そそくさと落ちた教科書やノートをまとめると、両手で包むように持ち上げた。

『あの……急にごめんなさい……』

 ぺこりと頭を下げて咲桜はそう口にする。

『え?あ、だいじょぶ……です?』

 まるでやっと氷が溶かされたように声を出す。なぜか疑問形だが。

『では、時間を取らせてすみませんでした』

 そう言って立ち去ろうとした咲桜にすぐ声が投げかけられる。

『あの、何かあるなら話……聞きましょう、か?』

『え』

 突然の言葉に咲桜も戸惑うが、彼は急いで訂正する。

『あ、今じゃなくて時間ある時に。昼休みとかでも——』

『行きます!』

 と即答し、なんやかんやあって今に至る。

 現在は昼休み。

 約束?した時間である。咲桜はいつもより早く食事を済ませると、急いで教室を出た。

「え、ちょっと早くない⁉︎咲桜ー!」

 まだ食べ終わっていない沙良叉のそんな言葉を聞きながら、急いで二年生の階へ向かった。

 彼は上履き色からして二年生。

 名前は波河なみかわ先輩というらしい。クラスは聞きそびれてしまったので、回ってみるしかない。

 まず手前のクラスから。見た感じいなさそうではあるが、一応聞いてみる。

「あのー」

 偶然入口にいた女子生徒に話しかけてみる。

「はい?ってうわっ……」

 うわっ……と言われた。やはり一年が上級生の階に、しかもまだ入学したばかりだとも言える状況だということもあり、目立つのだろう。

 と、思わず口元を押さえていた女子生徒は、さっきの言葉を訂正するように再び口を開いた。

「あ、いや違うの……すっごく可愛いなぁって思って、嫌な気持ちにさせたならごめんね」

「あ、いえ……」

 なんだそういうことか。まぁ悪い意味で捉えられていないなら良いが。

「えっと、一年生……だよね?このクラスに何か用かな?」

 あ、そうだ。話すために来たのではなかった。

「あ、そうでした!えっと……このクラスに波河さんっていう人はいますか?」

「波河?えーと」

 考えるようにうーんと唸ると、周りを見渡す。

「……うーんと、多分なんだけどこのクラスに波河って子はいないかも……まだクラス替えしたばっかで確証はないけど……」

 なるほど。まあほとんどの席には人が座っているし、その中にいないのだから多分ここではないだろう。この後見つからなかったら、またここに来て確かめれば良い。

「そうですか、ありがとうございます」

 ぺこりと礼をすると、相手の女子生徒は申し訳なさそうに両手を合わせて謝る素振りを見せる。

「ごめんね、わざわざ聞きに来てくれたのに力になれなくて」

 そう言われた咲桜はすぐさま否定するように、両手と顔を振る。

「いえいえそんな!お昼を邪魔してすみませんでした。ありがとうございました」

 咲桜はその生徒に手を振られながら、次のクラスへ足を運んだ。

 そして次のクラス、その次と聞いたが、空振りが続き、やがて一番奥の、つまり最後のクラスになった。

 ひょこっと顔だけ覗かせると、そこにはあの特徴的な刺繍がされた青い上着を羽織った生徒が、優しげな雰囲気を漂わせる生徒とその真逆のような元気オーラを発している生徒とお昼を食べていた。

「お前ほんと自分のクラス戻れ」

「だからそんな冷たいこと言うなって!」

「光はハジメに飽きたんだって」

「そ、そんな……!」

 楽しそうに話を弾ませる三人。

(楽しそう……)

 この空間を邪魔してはいけないと思い、クラスはわかったので、また今度にしようと教室を後にする。

 さっきの困惑に満ちた表情とは違う。心の底から楽しそうだ。

 いや急に知らない人に声かけられればそうなるけども。

 咲桜は胸がモヤモヤしてなんとも言えないが、その胸の感覚は気持ちが悪かった。

「?」

 自分の胸を軽くさすりながら、自分の教室へ戻ろうと階段を降りようと足を進めた。その時——

「——明智さん?」

 その声に途中まで足をキュッと止める。

 ただ自分の名前を呼ばれ振り向くと、そこには彼——波河先輩——が立っていた。

 少々息を切らしているようだった。

 一番奥のクラスで、おそらく早歩きか走って来たのだろうか。

 彼の姿をその赤茶色の瞳に映すと、キラリと輝く。

「え……」

 その状況に咲桜が漏らしたのはその一言であった。

「ごめん、気づけなくて」

 そう言いながら咲桜の方まで階段を降りた。

 それに咲桜は率直な疑問を投げかける。

「え……友達とお昼食べてたんじゃ……」

 そう、咲桜がさっき見た限りでは、まずこの短い時間で食べ切れることはない量が残っていたはず。それに友達は……?

「あーえっとね……ちょっと抜けて来た。今日はちょっと量が多くて少し運動がてら……」

 片手を頭の後ろに当てて、視線を逸らしながら言う。

 本当なのか嘘なのか、この人のことを全く知らない咲桜にとってはどっちなのかわからないが、気づいて来てくれたのはわかる。

「それにさ、話聞くって言ったの俺だし」

「わざわざですか……?」

「え、ごめん。迷惑だった?」

 彼はあわあわし始めると、咲桜も釣られるようにあわあわし始める。

「いえいえ全く!というかよく名前わかりましたね。言いましたっけ?」

 とりあえず話を逸らして見た咲桜に、波河は素直に答える。

「あ、いや……この学校じゃ結構有名だからさ、明智さん……ほら、その……学校の三大青女さんだいせいじょ

「ああ……」

 そういえばそんなものもあった気がする。

 学校の三大青女とは、この青海原高校を代表する女子生徒のことらしい。それぞれの学年から一人ずつ。つまり三年、二年、一年とあるわけだが、いつの間にかそんなものに入らされていた。

 ちなみに青女とは、青海原高校の青と女子生徒を合わせて、青女らしい。

 そんな三大珍味のように言われても……と思うがそんなこと気にしてる場合ではない。

 咲桜の様子に違和感を感じたのか、波河は言った。

「なんか、ごめんね?」

「いえ……」

 何に関して謝られているのかいまいちわからなかったがとりあえず答えておいた。

 そんな有名人?と一緒にいるのも目立つので、とりあえず場所を移すことになった。人気がなさそうな場所へと移ると会話を始める。

「じゃあ、えっと……改めて波河です。波河光なみかわこう……よろし、く?」

 なんで疑問形……思わず笑いそうになってしまったがそれをどうにか堪えて咲桜もそれにならう。

「あ、明智咲桜あけちさくらです。よろしくお願いします」

 咲桜は光に差し出された手を握ると、軽く礼をした。

「そういえば、結構早かったけど、ちゃんとお昼食べれた?」

 突然そう聞かれ、きょとんっとしたが、咲桜は素直に答える。

「あ、はい!」

「そっか、よかった」

 あ、笑った。

 笑ったといっても軽く微笑んだだけなのだが。

 こう言ってはなんだが、外見だけ見ると、とても大人しそうでクールな感じだ。だからこういうちょっとした変化を取るのも少し楽しいと思ってしまった。

「それで、聞きたいこと?があったんだよね?」

「はい!そうです」

 そうそう、目的を忘れてはいけない。これはあくまで伝えるための場。

「こう言ってはあれだけど、多分人違いだと——」

「それは違います!」

 咲桜が急に身を乗り出してきたので、光もギョッとする。

「私、ずっとあなたにお礼が言いたかったんです!」

「お、お礼……?」

 わからないと顔に書いてありそうな顔と声で呟く。それもそうだ、全く身に覚えがないのだから。それに、学校の三大青女と言われるほどだ。そんな人と会っていたならば、少なからず覚えているはずだ。

「この前……というか、私がまだこの学校に入る前なので、約二ヶ月ちょっと前ってところですかね。道に迷ったところを助けていただいて……」

「道……」

 目を瞑って必死に思い起こす。

(道……道……)

 全然思い出せない。そんなことあったっけ?というか、最近は霊に関してのことの方が濃いから他のことは正直ぼやぼやとしか覚えてないような気もする。

「それに……変な人からも守ってくれたみたいですし」

(変な人?守った?)

 さらに新しいワードに頭を悩ませる光。そもそも二ヶ月以上前の話と聞く。そんな前の話覚えてるわけが——

「あ」

 光は瞑っていた目を開けて、そう一言漏らした。だが再び目を閉じると、しばらくうーんと唸る。だがすぐに。

「あ、ああ!」

 思わず咲桜のことを指差してしまい、慌てて下ろす。

「っ!思い出していただけました⁉︎」

「ああ、あの時の!」

「は、はい!」

 咲桜はやっととばかりに表情を明るくさせると、光は言った。

「スーパーの人!」

 そう言った途端、咲桜はガクッとバランスを崩す。まるで漫画やドラマなどにありそうな見事なリアクションだ。

「スーパー……ですか?」

 全く違うが、恐る恐る聞いてみる。

「そうそう、あの時小麦粉はどこかって聞かれて——」

 とそこまで喋った光だったが止める。そして顎に手を当てて、考えるポーズを取るとしばらくして言った。

「…………ごめんやっぱ違うわ」

(ですよねー)

 当然ながら咲桜はそう思った。正直ここまで鈍い人だとは思ってなかった。いや、咲桜自身がおかしいのかもしれない。そもそも二ヶ月も前のことを、そして一度会っただけの人を覚えてる人は少ないのではないか、と思い始めてきた。

「あ」

 そして再び声を上げた光は今度こそといった様子で言ってきた。

「もしかしてなんだけど、コンビニの子?行き方聞いてきた」

 コンビニの子。合ってはいると思うがそんな覚え方だったとは。まあ思い出してくれただけでもありがたいが。

「あ、はい……多分そうです、コンビニの子です」

「そっかーあの時は髪下ろしてたし、辺りも暗かったから気づかなかった」

 確かにその時は夜だったっけ。それは顔もまともに覚えてないだろうし、思い出すのに時間がかかるはずだ。いや、むしろすごいことなのでは?もういろいろ考え始めてしまった咲桜に光は話しかける。

「え、じゃあそれをわざわざ言いに?」

「は、はい……」

 その答えにいろいろと困惑する光を見て咲桜は言った。

「迷惑……だったでしょうか……?」

 キョロキョロと視線を動かし、言いづらそうな様子の咲桜を目の当たりにしながら光は両手を振って答えた。

「いやいやいや!迷惑だなんて。嬉しいよ、ありがとう」

 そう言われてホッとした反面思った。

(ありがとうって言いたいのは私の方なのに……)

 光はそんな咲桜を見て、不満な様子なんだと思ったのか、もう一つ言葉をかけた。

「それに、すごいと思うよ。そうやってちょっとしたことでも感謝を伝えられるの。なかなかできることじゃないと思う」

「え、すごいん……ですかね?」

 いまいちピンとこないが、そんなことは始めて言われた。だって何かされたら感謝の意を伝えるのは当たり前のことだと思っているから。

「うん、普通に尊敬する」

 なんだか感謝を伝える側が、ここまで褒められるとは思ってなかったので、むず痒くなってくる。

「そ、そう……ですか。貴重なご意見、ありがとうございます……」

「?う、うん……えと、こちらこそ?」

 謎の会話に少々気まずい沈黙が流れるも二人は特に話すこともなく、予鈴が鳴り響く。

「「あ」」

 二人はそれでようやく声を上げると、咲桜が動いた。

「あ、じゃあえっと、私次移動なので先行きますね!」

「え?あ、うん」

「それじゃあ!」

 と言って、廊下へ出ようと扉を開けると、急いでいるのか開けきれていない状態で進む。

 ドンっ!

「あいたっ!」

 実に痛そうな音を立てて、勢いよく扉にぶつかった。

「だ、大丈——」

「大丈夫です!ありがとうございます」

 ぶ、と言い終わらないうちにその言葉が返って来て、今度はぶつからずに外に出ることができた。

 そこに一人残された光はぽつりと呟いた。

「変わった子だったなあ……」

 良い意味で……と心の中で付け足した。

(俺も教室戻ろ)

 そして扉に手をかけた時、ある言葉がふとよぎった。

『それに……変な人からも守ってくれたみたいですし』

(あれ……?もしあの時の子なら、あれは——)

 とそこまで考えてしばらく数秒立ち尽くした。

(やっぱやめよ)

 授業に遅れても、考えたってキリがないので、廊下に出る。

 咲桜の少し後に出た光は、教室に戻るとあることに気づいた。

 ——まだお昼を食べ終えてないことに——

 ぐうぅぅぅ

 と自分にだけ聞こえるような音量で自分の腹からその音が漏れ出た。

 

 

「なあ力声」

「ん?」

 とある調査帰りに突然光は力声の名を呼んだ。

「俺が初めて霊を捕まえた時って……」

「どっち?」

 話し始めると、突然そう聞いてくる。もちろん意味が理解できないため聞き返す。

「どっちって?」

「入隊する前か後」

 なるほど、そういうことか。入隊する前に一度、力声に無理矢理付き合わされた、そして入隊を決めたきっかけともなった本当に初めての時のことだろう。

「後」

「そう、続けて」

「んで、巻き込まれた子がいた時あったじゃん?危ないから人通りがあるとこまで送るって」

「うん」

「確かもう一体がいて、そいつを追ってたんだよな」

「うん」

「その時って、俺ら追ってたのって霊だよな?」

 一通り聞き終えた力声は、光が想像していた通りの反応をする。

「はあ?何当たり前なこと言ってんだ。じゃあ逆に聞くが、光は何を追ってたんだよ?」

「人間」

「間違ってはない!けど、もとだから」

「だよなー」

 光は腕を頭の後ろに回しながら、当然の答えだと分かりきったように返す。

「どうしたんだよ、急に」

 力声も突然のことに首を傾げる。

「いや別にー」

「なんだよ聞いといてーそれが一番気になるじゃん」

 ぽこぽこと肩を叩いてくる力声を気にせず、軽く流す。

「やーまだよくわかんないから、いいや」

「えー」

 そう言ってスタスタ歩いて行く光を追って力声もまた遅れて歩き出した。

どうも、なんかやっと進んだ感が出てきたように感じます、まもるです。

読んでいる方はなんとなく予想がついていたかと思います。すいません、予想通りで……。

これからも頑張って進めていくので、優しく見守ってくださると嬉しいです!

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