探す者
無事進級し、二年生として始業式を迎えることができた光。Spiritの仕事にも体が慣れてきた光は、察しの良い友達にいろいろ追求されながらも、一日、一日を送る。
そんな光にまた不穏な気配が近づく予感が——。
——ねぇ……あなたは今……どこにいるの……?——
置いて行かないで……ずっとそばに居るって、言ったじゃない……
わたしから離れないで……もうずっと……あなたの、顔を見てないわ……
絶対に……見つけるからね……?
——わたしの愛しい人——
「んーーはあ」
そう声を出しながら、いつもの上着を脱ぎ、きっちり制服を着こなした光は腕を上げ、大きく伸びをした。
「お疲れだね」
脱力した光の隣を歩いていた、花咲和也はそんな光を見てそう口にする。
「校長の話長い……」
「まぁ確かに。途中で話脱線するもんね」
簡潔な説明で納得する。
「なんだか最近光、本当に疲れオーラ全開だよね?何かあった?」
和也は光の様子を見て尋ねた。
確かに光自身もそんな自覚はあったし、特に気にしていないが、やはり以前と比べて和也は和也で思うことがあったのだろう。
「いや、特に何も……」
さすがにspiritのことは言えないので、当然そう言うしかない。が、和也はそうはいかなかった。
「うそ、明らかに何かあった反応でしょ。この前だって濁してたし、僕はハジメと違って騙されないよ」
歩く足を止め、ビシッと問いただすように人差し指を光の鼻先に向けた。もし光の立ち位置に女子がいたなら、誰もが目をハートにするだろう。
「…………」
なんとも気まずそうに目を逸らす。
だが、それで和也は引かない。これはもう逃れられないか……そう思った光は降参したと表明するように両腕を上げた。
「……わかった、降参。確かに何もないわけじゃない……」
「やっぱり」
「なんていうか、バイト……的なのを始めたのですよ……」
最後の方の謎の喋り方を気にすることなく首を傾げる。
「バイト?」
「ん」
そう言うと、あまり納得がいかなそうに見えたが、和也は声を上げる。
「なーんだ、そっか。どうりで最近眠そうなわけだ」
光に向けていた視線を前に移し、止めていた足を再び動かす。
光もそれに続いて慌てて足を動かした。
「悪い、言ってなくて」
「別にいいよー実際には言う必要ないもんね」
やはり和也は優しい。優しいのもあるが、心配性だとも言える。
「しつこくて申し訳ないけど、本当に無理しないでね……」
顔はこちらに向けていなかった。
どんな表情をしていたのか、光は想像できなかった。
「ほら!光って、肝心な時ほど無理するし、それを悟らせないように隠すでしょ?だからたまにでいいから頼ってよって話」
いつものように優しい笑顔でこちらに向き直り言った。
「ん、ありがとう」
もう前を向いてしまった和也に、光はほんのり笑みを送った。
私はどちらかと言えば前者だった。
だが、最近では後者になりかけている。
そんな私に、王子様が現れたのだ。
月の光に照らされ、一瞬だけ合った瞳は、それはもう美しかった。
——これが、明智咲桜の新たな恋の始まりだった——
「こぉぉぉぉぉう!」
そんな声を上げ、泣きながら光に思いっきり抱きついてきたのは、光の元クラスメイトの坂本ハジメである。
「もと!って言わないでくんない⁉︎」
「おいそこに反応すんな」
「誰も口に出してないのにこわーい」
などと光の他に和也も交えて、いつもの三人組が揃った。
「っていうか毎回言うけど休み時間のたび来られるのも困るんだけど」
「そんな冷たいこと言うなよーー」
ハジメのガッチリ固められた腕を解くのを諦め。うんざりしたように光は言う。
なぜこのような状況なのかと言うと、理由は簡単。
クラス替えである。
新学期。無事進級を迎えることができた光は、もちろんクラス替えがある。
この学校は学年が上がるたびクラス替えがある。つまり三年間——三回クラスが変わるのだ。
そして二年に上がった光は、見事にハジメと別れたわけだ。ちなみに和也とは同じクラスである。
「ハジメだったら、友達いくらでもいるだろ。いなくても、その無敵のコミュ力で人が寄ってくるのは目に見えるけど?」
「それでもお前らとも一緒がよかったの!」
わぁーーんと毎度のたび泣き喚かれる。
見てわかるがかなりのショックだったようだ。
「ほら、授業開始まで一分切ったよ?」
時計を見ていた和也がハジメにそう声かける。
「早いよぉー!」
そう言いながらも、チラチラとこちらを見ながら帰っていった。
「いない……」
少々薄暗くなってきて、春になり暖かくなってきたとはいえ、午後は冷える。
昨日がかなり寒かったからか、今日は断然暖かく感じたが、薄着できたのは失敗だったか。
ハァーと薄く立つ、自分の白い息で冷たい手を少しでも温めようとする。
(ここに来れば、一回くらいは……って思ったけど、あの時はたまたまここにいただけだったのかな……)
こう思いながらも、あれから何回か見に来てはいるが、いる気配など感じられない。
あまり奥へ行き過ぎるのも危ないので、なるべく深入りし過ぎないようにはしているが、前とは少し違う場所だからなのか見つからない。
(お礼……言えてないのに……)
今日も収穫がなかったことに心の中で、はぁと息を吐きながら、戻るように足を進めた。
背中からでも伝わる、しょぼーんとしたオーラが目に見える。
とぼとぼとした足取りで着実と前に進んでいると。
——に……会いたいの……?——
思わずキュッと足を止める。
「…………」
数秒、今のは幻聴だったのではないかと確かめるように耳を澄ますが、何も聞こえなかった。
ホッと胸を撫で下ろし、再び歩みを進めると。
——その人に……会いたいの……?——
「⁉︎」
ビクッと肩を上げ、後ろを振り向く。だが、誰もいない。
今、確かに聞こえた。会いたいのか?と。辺りが暗くなってきてる分、不気味さは増していくばかり。
——会えないって……辛いわよね……探してもらえないって……辛いわよね——
口調や声からして女性の声。
ずっと聴いていたくなるような美しい声だが、今はただそれが不気味で仕方なかった。
「あ……」
全身は震え、それに連動するように声もうまく出せない。
——私は、あなたの味方よ……その辛さは、誰よりもわかるわ——
「ハァハァハァハァ……」
あまりの恐怖についには呼吸するのも苦しい。胸を押さえるように服をギュッと握りしめて、呼吸を整えようとする。
動かなきゃ……早く、ここから……
動かすのもままならない足に力を込め、一歩、二歩と少しずつ動かし、だんだんと速めていく。
だが、それでもあの声は止まらない。
——あなたの望む相手、私なら見つけられるわ——
なんだか勝手に話を進められているが、そんなの頼んだ覚えもないし、話をしてすらいないだろうに。
それにだんだんと声が近くなっているような気もする。
必死離しているはずなのに、遠のくどころか距離を詰められているような気さえする。
——私が、見つけてあげる——
「っ……⁉︎」
さっき美しい声はどこへ行ったのかというような恐ろしい声を最後に、明智咲桜は地面の冷たく硬い感触と共に、意識は途切れた。
毎度見てくれている方、本当にありがとうございます!
今回はまだ匂わせって感じでしたね。
ですが、これから!という感じでもあるので、最後までお付き合いいただきたいです。
なんだこれ…ポイっ!てしないでくださいね(泣)
では、また次に!良いと思ってくれた話などありましたら、評価等お願いいたします。