表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Spirit  作者: まもる
1/36

命の恩人

青海原高校に通う高校生ー波河光なみかわこうはそれなりに普通の高校生活を送っていた。唯一普通じゃないことは、『ある特別な力』を持っていること。ある日、光は学校から帰る途中意識を失ってしまう。そして目覚めると、信じられないことが起き始めていた。

 ダッダッダッ——。

 辺りはもう暗い。

 狭い路地を月明かりを頼りに進んでいく。

 だが、それが面倒になったのか、適当な壁にトンっトンっと軽く足で踏む。すぐに屋根に登ると、再び走りに切り替える。

 もう何十分経っただろう。誰かは、知らない。だが只者ではない誰かがこの体を追ってくる。

 ——いい加減に鬱陶しい——。

 そして、次の屋根に飛び移ろうと足を踏ん張った瞬間——。

 ザッ。

 その道を塞ぐかのように、目の前に人影が現れる。それを見ると。

「チッ」

 途端に口からそれを鳴らした。それを合図にその人影口を開く。

「あんま、手間かけさせんな。どうしたってお前は捕まる」

 声からして男の声だろう。焦茶色のような髪が月の光に照らされてキラキラと輝く。黒いパーカーが、すらっとした足を強調する。見た目は、とても若そうに見える。その余裕そうな口ぶりにイラッと来たのか無意識に口を開いた。

「ほんと、しつけーな!暇なのか?そんなに追っかけっこがしてーなら他当たれよ」

 そう発すると、こちらも若い男の声だと知る。フードで顔がよく見えないが、そう歳はとっていない。二十、いや下手したらもっと若いかもしれない。少々苛立ちを含ませたように言うと、それに答えるため相手も再び喋り始める。

「俺もそろそろ面倒なんだよ?でも連れてかなきゃこっちとしても困る。今ならなんもしねーから、大人しくついて来い」

「その命令口調うぜーな、自分が一番偉いとでも思ってるのか?だとしたら——」

 そう言ってる途中で聞き飽きたかのように相手は言葉を遮った。

「あーはいはい、わかったわかった。とりあえずお喋りが好きなのね、後でいくらでも聞いてやるから早く——」

 言い終わらないうちに拳を相手に突きつけた。だが軽々と避けられてしまう。

「舐めた口聞きやがって、話してるだけ無駄だわ、さっさと失せろ!」

 再び拳を突きつける。だが、なかなか相手に突き刺さらない。ヤケクソに拳を振り続けると、パシッと拳が鳴る。だがそれは、当てたのではなく、受け止めた音だった。それを打ち破ろうと力一杯拳に力を入れるが、ブルブルと揺れるだけでなかなか前に進まない。

「やっぱりこうなるか、痛いのあんまし好きじゃないんだけど……な!」

 そう言うと、受け止めた拳をぐいっと引っ張ってこちらに寄せると、もう片方の腕で、腹に拳を叩き込む。

「ぐっ……!」

 想像以上の威力。思わず腹を押さえると、追い討ちをかけるように、もう一発が降ってくる。が、当たる寸前で掴まれた拳に力を集中させ、振り解くと間一髪でそれを避ける。

 だがそれでは終わらないすぐさま次がやってくる。相手は、足で軽く地面を蹴ると、横にぐるんと回りながら足を突き出してくる。それが彼の顔面を捉えた瞬間——。

「っ!」

 突然自分の見ている世界が止まったかのようにゆっくりとなる。それと同時に視界が青みがかった色に変色し始める。速度がだんだん元に戻ってくると、そこには、相手の蹴りが自分の顔に炸裂する瞬間が映し出された。

 すると、それを見たと思えば視界の色が元の色に戻っていた。

 目の前には、もう避けられないであろう、足がすぐそこにあった。当たるまいとすぐさま避ける。空振った足がシュッと風を切った。その風に煽られ、フードで隠れていた顔があらわになる。それを見ると、

「っ、お前……」

それを合図にフードの男は、屋根に飛び移り、また闇夜を駆けた。すぐさま追おうと屋根を蹴ったが、フードの男が乗り移った、店の大きな看板を落とす。かなりの高さがあり、下には少ないが人の姿がある。まずいっ!っとパーカーの男は看板に手をかざすと、片手で、上に持ち上げるような動作をする。

 すると、そこに強い風が巻き起こり、少しずつ看板が持ち上がる。そして人のいないと思われる場所にガシャンッ!とそれは大きな音を立て、地に落ちた。するとすぐさま、悲鳴が聞こえる。いきなりの大きな音で驚いたのだろう。怪我人が居ないかサッと確認すると、すぐに辺りを見渡したが、追っていた人物の姿は当然なかった。

「チッ」

 軽く舌打ちを鳴らすと、耳につけていたイヤホンのようなものについている、ボタンをピピッと二回押すと。

「すいません、逃しました。少し建物に被害があったので、そっちお願いできますか?……はい……はい……わかりましたすぐ戻ります」

 今度は一回ピッとボタンを押すと、誰かとの通信を切った。

 パーカーの男は、冬の冷たい風に揺られながら落ちた看板を眺めた。



  ピピピピ、ピピピピ——。

 突然そんな音が耳元で鳴り響いた。布団がモゾっと動き、隙間から黒い髪の頭がひょっこり出る。

 「うう……」

 そんな弱々しい声を出すと、重い頭ゆっくり起こす。

 ピピピピ、ピピピピ——。

 まだ寝ぼけた状態で少しぼやけた視界を動かすと、その音の正体が、自分のスマホのアラームだと知る。とんっとスマホに指を乗せると、しつこいほどになっていた音がピタリと止まり、静寂に包まれる。

 その静かな状態は、今の自分の身体には、とても悪い。目覚めかけていた意識が少しずつ眠りの世界へと呼び戻そうとしている。

 だが、それは叶わなかった。

 なぜなら、外からの鳥の声が静寂を打ち破ったからだ。一度二度ならまだしも、眠ろうとするたび鳴いてもらっては、起きろと言っているようにしか聞こえない。

 仕方なく無理矢理に身体を動かすと、布団から出て、すぐそこにある洗面台から蛇口を捻ると、透明で綺麗な水が、サァーと落ちてくる。手を小さな器を作るようにして水に触れると、溜まった水をそのまま顔に、ぱしゃっとかけた。それを何度か繰り返し、ついでにそこから水を一口飲むと、蛇口をキュッと閉める。近くにあったタオルで顔を軽く拭く。残った水滴で、顔がスースーする。

 そして、隣の小さな冷蔵庫に向かうと、屈んで開ける。顔に冷気を浴びながら、あらかじめ用意しておいたおかずを適当に取り、テーブルに並べる。茶碗にご飯を盛って箸を取るとテーブルの前に座り、食事を始める。近くのリモコンを手にとって、ピッと電源を押すと、音と共に映像が流れる。その時は、秋のグルメ特集というものかやっていて、ちょうど食事を摂っていた自分にとっては、見ているだけでお腹いっぱいになりそうだった。

 朝食を食べ終えると、手早く片付けを済ませ、歯磨きなど諸々も済ませる。カーテンに掛けてあるハンガーを手に取り、そこから慣れた手つきで服を着こなす。

 そう、学校の制服である。カチャカチャとベルトを締めていると、ふとテレビの音が耳に入ってくる。

『——周辺で、自殺者が多発しているとのことで——』

 ベルトを締め終わると、一通りスクールバックの中を確認し、青い薄手の上着を羽織った。リモコンの電源をピッと押すと、テレビを消した。少しばかり重いバックを持ち上げると。

「自殺……か。俺にはそんな勇気ないな……」

 サラッとした黒髪に、黒い目を持ち合わせた男——波河光なみかわこうは、何も映っていない真っ黒なテレビに向かって、そう口にした。そして彼は、学校へ向かうべく、外へと繋がる扉を開けた。

 

 青海原あおみはら高校。ここがこうの通う学校である。ここは、有名な学校だとかそういうものじゃなく、ごく普通の高校だ。

 本当は、もっと上の学校に行きたかったが、残念ながら落ちてしまったので、保険としてかけていたこの高校に入学したのである。

 教室の扉を開けると、賑やかな光景と共に、楽しそうな声が飛び交っていた。

 光は、窓ぎわにある端っこの席にバックを置くと、必要なノートや教科書類を机に並べた。自分の席の椅子に腰掛けると、「ふぅー」と力を抜いた。

 家から学校まで、微妙に距離があるため、自転車で来ているが、何度も続けているとやはり疲れる。

 すると、慌ただしい声と共に一人の男子生徒が、教室に入って早々こちらに向かってくる。話してた生徒たちも、あまりの勢いに扉に目を向ける。

「こぉぉうぅぅぅ!」

 俺の名を呼んだと思うと、俺の前に立ち、両手をパンッと合わせながら申し訳なさそうに続けた。

「すまん!朝から悪いんだが、ノート写させてくれ!」

 そんな声が教室に響くと、また周りからは、話し声が飛び交った。そんなことを気にも止めずに頼み込む。

「今日の国語、ノート提出あるだろ?俺、最後の方写せてないんだ。頼む!すぐ終わらせるから!」

 今、目の前で必死に語るこの男は、クラスメイトの坂本さかもとハジメである。いかにも明るい黄色の髪色に、どちらかというと可愛らしい顔立ちが特徴だが、その見た目と裏腹に、運動は基本なんでも出来て、スポーツでは、輝きを見せているハジメだが、勉強は、平均よりやや低めな男である。そんなハジメに、呆れ気味に言葉を発した。

「またか……。これで何度目だ?」

 すると、指で数えるような仕草をしながら答える。

「えーと……。少なくとも、十回は言ってる気がする!」

「はぁー」

 なぜか自信満々に答える姿に、額を押さえながらため息を吐いた。すると、ハジメは、ハッとしたように話を戻す。

「じゃなくて!お願い!あの先生なぜか俺にだけちょー怖いし、出せないなんてなったらどんな目に遭うか……想像がつかねぇ……」

 肩をぶるると震わせながら言った。

「それは、毎度居眠りして怒られてるからだろ……まったく」

 そう言いながら、机の中からノートを取り出すとハジメに差し出す。

「もうこれで最後だからな、次はないぞ」

 ハジメは、ノートを見ては、顔をパァーと希望に満ち溢れた表情をさせた。

「ありがとー光!マジ神!今度ちゃんとしたお礼すっからな!」

 そう言って自分の席に着くと、そそくさと自分のノートにペンを走らせた。

 その姿を眺めながら、頬杖をつき、ふぅーと息を吐くと。

「相変わらず大変だな、光は」

 そう言葉を発してきたのは、同じくクラスメイトの花咲和也はなさきかずやである。おとなしい見た目の綺麗な顔立ちを持つこの男は、さっきのハジメと違い、成績は常に上位をキープし、運動もできる、本物の優等生である。

「別にいつものことだから、なんとも思わなくなったよ」

 必死に書き写すハジメの後ろ姿を眺めながら、そう言った。

「光はハジメを甘やかしすぎじゃないか?だから何度も押しかけてくる」

「自分でも分かってはいるんだけど、なんか本人目の前にすると、断りづらくてね。なんだか、途方に暮れた子犬みたいに見えてきてさ」

 冗談っぽくそう口にする。

「まぁ、気持ちはわからなくもないよ。最初の方は、僕のとこ何度か来て写させてあげてたけど、さすがにくる頻度多くて、自分でやれ!って追い返した」

 それを聞いた光が、少し驚いた声で言う。

「え……和也のとこにも行ってたの?そう考えると、かなりの回数になるんじゃ……」

 和也は、そんな光を見て、いたずらっぽく言う。

「ね?一回許すと、結局はまた同じことの繰り返し。ハジメ自身も、気をつけてはいると思うけど、部活遅くまでやってるから、その眠気には逆らえないんだろうね」

「でも、こう何回も来られるのもなぁ……。俺は万能なわけじゃないし、もし俺が休んでたりしたらどうするんだか」

「僕のとこに来るか、いろんな人に声をかけまくって頼むかの二択だね」

 和也は、どこか楽しそうに言うと、光は、その言葉に補足を入れた。

「いや、タイムリミットで先生に怒られるかの三択」

「確かに」

 そう言って、ハジメの後ろ姿を静かに眺めると、チャイムの音が鳴り響いた。

 

 授業をすべてやり終え、ホームルームが終了すると、一気にざわざわし始める。さっさと帰る者、友達と話す者、部活動へ向かう者など様々だ。光は、机の横に掛けてあったバックを取り、机の上に置くと、その中に筆箱やら宿題やらを詰める。終わるとバックを持って、教室の出口に向かいながら、ハジメや和也にまた明日とあいさつを交わす。

 大勢の人たちを避けながら、下駄箱まで足を進める。

 すると突然、視界が一瞬ぼやけた。そしてそれと同時に、目に映る光景がすべて、青みがかった色に変化する。すると、ぼやけた視界が少しずつはっきりしてくると、さっきと特に変わりない景色が映っている。それを数秒見ると、まるで現実に引き戻されるように、視界の色がいつもの色に戻っていった。

「なんだ……いまの……」

 妙な胸騒ぎがする胸を軽く押さえると再び歩みを進めた。

 するとなぜか視界がぼやけ、やがて真っ暗になっていく。一体何が起きているのか自分にも分からずにどんどん意識が遠のいていく、まるで、深い深い穴に落ちていくような感覚が光を襲った。それを最後に完全に意識が途切れた。

 

 誰かに追いかけられる夢を見た。なぜそうなっているのか自分にもよく分からなかったが、ただひたすら走っていたのだけは覚えている。追いかけられるということは、何か悪いことをしたのだろうか。まぁ、夢なので考えるだけ無駄なのだが。

 だがなぜかその感覚が妙にリアルなのである。地に足がつく感覚。風の当たる感覚。息が荒くなっていく感覚。走っているな。走っている。うん。今自分は、走っている。

 ん?走っている?あー走っているな。

(いやなんで?えっ、走ってるの?実際に?夢じゃなくて?てかここどこ⁈)

 視界に見える景色を見るといつもと見覚えのない景色が広がっている。止まろうと思っても体が自由を効かない。頭が混乱でいっぱいになっていると、ようやく足を止めた。

 それは、大きな廃墟のような建物。しばらくそれを眺めたかと思うと、また再び走り出した。その廃墟の中に勢いよく突っ込み、目の前にあった階段をありえないスピードで登っていく。カンカンカン。登る度、鉄製の階段が音を立てる。もう何階くらいまで来ただろうか。早すぎてわからない。

 そしてようやく終わりが見えてくる。屋上だろうか、そこにつながっているであろう扉が視界に入る。

 だがスピードを緩める気配がない。このままでは、扉に突っ込んでいくことになる。

 まずいと思いながらも、体はやっぱり言うことを聞かない。そして、恐れていた事態がやってくる。

 ドシッ!

 顔を腕で覆う形で扉に突っ込んだ。めちゃくちゃ痛い。そして暗い場所から明るい空の色がいっぱいに広がっている。

 だが空の景色を堪能してる場合じゃない。ぶつかった衝撃で一瞬スピードが緩まったが、やはり止まらない。残念ながらここには柵がない。このままでは、この高い屋上から真っ逆さま確定だ。

 そしてここで視界が青くなった。時間の流れが一瞬だけゆっくりになったと思うとすぐ元のスピードに戻る。そして光は、見た。これから起こる自分の姿を。この身に起きる最悪の景色を。

 視界が元に戻ると。一直線に走り抜ける。屋上の縁に足を掛ける。

(おいおいおい!待て待て止まれーーー!)

 それを無下にするかのように光の体に、宙に浮いた感覚が襲う。いや、実際に浮いているのだが、そこに止まるわけではなく、ゆっくりと加速をつけて落ち始めていった。

「ひゃっほーーー」

 今まで出したことのない自分の声が静かに空に消えていく。この高さから落ちたら骨折だけではすまないだろう。絶対に死ぬ。

 そして何かがスッと抜けていく感覚を最後に、光の体は、やっと自由を効くようになったが、もう遅い。

「ちょっと待てってーーーーーー!」

 そんな言葉を発しながら手足をバタバタさせて、一直線に地面に向かって落ちていった。

 

 だんだん地面が近くなっていく恐怖に、目をぎゅっと瞑り、とんでもない衝撃を覚悟する。そろそろ、という瞬間——。

 ドシャッ!という感覚はなく代わりにふわふわとした感覚が襲う。それを認知したかと思えばすごい風が巻き起こり、思いっきり上へ飛ばされた。建物のてっぺん、つまり屋上に到達すると、今度は前からの強い風が襲い、後ろへ飛ばされた。

 とんっ。背中に何やら当たった。するとすぐに受け止められたのだと察する。思わず上を向くと、優しそうな笑みを浮かべた少年がこちらを向いていた。

「大丈夫?」

 ただその一言を発した。だがその一言が俺を安心させるのに十分なものだった。

「あ……えと……大丈夫そうです?」

 なぜか疑問形になったが気にせず言葉をかけた。

「そっか、ならよかった。離しても大丈夫そうかな?」

 そう言われ、いまだにその少年の手が光の背中を受け止めていることに気づく。ハッとするとすぐに身を離した。

「だ、大丈夫です、すいません」

 そう言うと、相変わらず優しい笑みを浮かべ。

「申し訳ないけど、ちょっとそこで待っててくれるかな?」

 そう言われ、反射的に「はい!」と口にしてしまった。だが、今はそう言う少年に従うしかないだろう。

 そしてふと気づくと少年のもう片方の手には何かが掴まれていた。薄く見えるがよく見ると人間らしかった。

(俺以外に人なんかいたっけ?)

 そう疑問を持ちながらもいまだに、バクバクなり続ける心臓をゆっくり整える。

 少年はその手に持った人間?を引きずりながら、コンクリートの壁にバンっ!と叩きつけると方足をその人の顔スレスレに勢いよく壁に叩きつけた。あの優しそうな姿からは想像できないような光景だが、人は見た目によらないのだと思った。

 何やら話しているようだが、離れているので何を話しているのかはわからなかった。があの少年が少々怒っているのと、その人がガタガタと震えているように見えた。

 やがて話が終わると、少年は、ズボンに付いた、小さなバッグから小さな瓶のような物を取り出した。

 すると、なんとも信じ難い光景が光の視界がとらえた。なんと人間だと思われた人が小さな塊、まるで人魂のように変化し、その瓶にみるみる入っていくではないか。全て入るとその瓶の中身がオレンジ色に光ったの確認したのち、再びバッグに戻した。

 こちらの視線に気づいたのか、どんどん近寄ってくると。

「ごめんね待たせて、行こうか」

 何事もなかったかのようにそう告げた。

「行くって……」

「ついてきて」

 そう告げて光の前を進んでいった。正直あの光景を見てついていくのが危ういと感じたが、大人しくついていくことにした。

 階段を全部降りて、やっと道に出る。さっきまでこの道に落ちそうになったのを思い出すとゾッとする。

 沈黙が続く中ひたすら歩く。話しかけていいのか、よくないのか、よくわからなかったが、居心地が悪いので、とりあえず話しかけてみる。

「えっと……どこに向かってるんですか?」

「んーちょっとそこまで」

 そう答えられた。とても曖昧な答えで、答えと言えないのだが深く聞かないようにした。

「あの、さっきはありがとうございました」

「いえいえ」

「…………」

「今日はいい天気ですね」

「そうだねー」

「…………」

「…………」

(か、会話か続かねー)

 そんなに無理して話す必要はないのだが、とても気まずい。あと普通にどこにいくのかわからないのが怖い。どうしたものかと考えていると、ふとあることを思い出した。

「あの……ちょっと気になったことがあるんですけど……」

「んーなにー?」

 前を向いたままそう発する。

「さっきの人?かなんかは、なんだったんですか?」

 タンッ。

 すると少年は、足を急に止めた。思わずぶつかりそうになる。前を向いたまま。

「さっきの人って……なに……?」

 心なしか声が少し低くなっている気がする。聞いちゃまずかったことなのだと思い、すぐに訂正した。

「あ、えっと……いや気になって、大したことじゃないんで、気にしないでもらえると……」

 だがもう遅い。その一言は、少年に興味を向けさせるのに十分であった。

「いいから、言ってごらん?気になるなら、答えるよ」

 やっとこっちを向いたかと思えば、相変わらずの笑みだが、さっきと違い、すごく怖く見える。これは大人しく従った方がいいのか?でも聞いたらまずそうな雰囲気が出ていたし、これは聞かない方が?といろいろ考えていたが、目の前の悪魔のような笑みに押され、大人しく従うことにした。

(もう、どうにでもなれ!)

 意を決して聞いてみる。

「その!あの、見ちゃいけなかったものかもしれないですけど、なんか人が人魂みたいになって、あなたが持ってる瓶の中に入っていったのが見えて。その、なんていうか、人じゃないのは、わかるんですけど、なんか気になっちゃって……。あれ人じゃないならなんなんですか?」

 うんうんと頷きながら聞いてくれる少年に恐る恐る全てを聞いた。もしかしたら全てが幻覚だった可能性もあったけれど。

「あれが何か……ね?」

 少年は不敵な笑みを浮かべながらそう言った。やはり聞いてはまずかったと後悔した。

「なるほど……君は、見えてるんだね?」

「え」

「ふむ」

 顎に手を当てながら少し考えると、ズボンに付いてる小さなバッグから例の瓶を取り出して、それを見せてきた。

「君、これはなんだい?」

「……瓶です」

「じゃあこの中に入ってるもの、今どうなってる?」

 正直何をされているのか検討がつかないが正直に答えてみる。

「オレンジっぽく光ってます……」

 当然のように答えると、

「なるほど、わかった」

 そう言うと瓶をしまい、反対方向に歩みを進めた。

「え、なんですか?ていうか、こっちに向かってたんじゃ……」

「行き先を変える」

 それだけ言って、また長い道を引き返していった。

 

 もうどれくらい歩いただろう、かれこれ三十分近くは、歩いてる気がする。引き返したのだから、長くなるのは当たり前なのだが、さすがに疲れてくると言うものだ。

 そしてやっと足を止めたと思うと、何やら建物の中に入っていった。見たところカフェのようだ。こんなところになんのようだと思いながらも店内に入る。

 店内に入るとふわりと紅茶のいい香りが漂う。それに何やら甘い匂いもする。店内は、落ち着いた雰囲気の内装で、レトロな感じがこれまた良い。店内を見渡しながら進んでいくと、少年が席についたので、続いてその向かいの席に腰掛けた。

「何か好きなもの頼んでいいよ、疲れたでしょ」

 そう言いながらメニューを開いて見せてきた。お茶類は難しい名前で書かれていたが、食べ物系は、光でもわかる名前だ。

 ある程度メニューに目を通して、決まったことを察したのか、横の呼び出しベルをチリンッと鳴らして店員を呼ぶ。注文を終えるとそそくさとその場を去る。そして少年も、注文を終えるとすぐに席を立った。トイレだろうと特に気にしなかったが。すると、三分ほどで注文したものが届く。

 光が頼んだのは、今日のおすすめと書いてあった紅茶とサンドイッチだった。ただ置いてあるだけなのに、とても絵になる光景だった。紅茶はとても香りがよく、飲めば鼻にすーっと抜けていく感覚がとても心地よかった。サンドイッチは、レタスがシャキッとしてそこに塗られたマスタードとツナマヨの相性が抜群でとても美味しかった。

 今更だがこんなに堪能しているが、命の恩人とはいえ、知らない人に食べさせてもらうのはどうかと思った。もしかしたら、やっぱり払えって言われたり、などと考えていると、あっという間に食べ終わってしまった。考えてもしょうがない。もうお腹の中に入ってしまったのだからもうどうしようもない。と自分で結論づけた。

 すると突然店員が来たかと思うと、ガラスの器にイチゴが四粒ほど乗せられたものが置かれた。

「あ、頼んでないです」

 間違えて置いたのかと思い、そう言ったが、「サービスです」と言ってその場を去った。

(すごいイケメンなおじいさんだな……)

 そう思っていると、ずっと戻ってこなかった、少年が姿を現した。そして来て早々。

「ちょっと来い」

 そう言ったので、イチゴは少しお預けで、ついて行くとスタッフルームに案内された。

(俺が入っていいのかな……)

 するとスタッフルームのその奥にある部屋に案内され、椅子に座るよう言われる。そこには、長方形な机とその上にパソコンが一台置かれていた。少年もその隣に座ると、こう言った。

「これから君に見せたいものがある。信じられないかもしれないけど、とりあえず見てほしい。それと同時に大事な話がある、それも聞いてもらいたい」

「見せたいもの……」

 そして、これから見せてもらえるのかと思いきや続けた。

「その前に、君に一つ確認したいことがあるんだ」

 その真剣な眼差しに、緊張が走る。

「確認……ですか?」

「ああ」

 ゴクリ。思わず息を呑む。

「君は……」

 ドクッドクッ、心臓の鼓動が早くなっていくのを感じる。

「何か……特別な力を持っていたりしないかい?」

 ドクッ!体が硬直した。時間の流れが遅く感じる。いつもの『アレ』なわけではないのに。

 どうする、どうする?バレた?いつ?あの人の前でこの『力』は使ってないのに。

 真剣な眼差しでこちらを見つめる。ここで初めて、彼の瞳が、明るい茶色を帯びているんだと知る。振り絞ってなんとか声を出してみる。

「特別な力……とは?」

 そう問うと、少し考えたのちこう発した。

「んー、例えば……未来が見える……とか?」

「っ!」

 横目で図星だろうと訴えてくる。

 これは、多分バレている。

 俺が——。

 『未来が見える』ことが。

 

「spirit」いかがだったでしょうか?

今回初めての小説なのでどこかしら至らない点があると思いますが、見守ってくださると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ