【05 ホンオ・フェ】
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・【05 ホンオ・フェ】
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韓国の激クサ料理で、直訳するとエイの刺身。
大きなエイを一匹まるごと厚手の紙で包んで、甕の中に何匹も詰め、重石をして空気を抜き、蓋をして10日ほどで完成。コチュジャンを付けて食べるらしい。
で、もう、クサい。
ザキミヤがややテンション高めに、
「このホンオ・フェは普通現地でしか手に入んないんだぞ。こうやって学校で食べられるのは全て私のおかげなんだ」
ザキミヤが鼻高々に喋るが、その鼻は腐っているに違いない。
これはいつもの魚醤のクサさとはまた違う。これは言うなれば・・・
「コウくん、何だかオシッコみたいだね……ぅぅっ……んっ……」
ユッキーよ、オシッコってハッキリ言うな、でもまあ間違いなくそうだ、間違いなくオシッコだ、これ。
桜さんもテンションが上がっているようで、たまらず喋り出した。
「ホンオ・フェはぁ、サメと一緒でアンモニアが強くてぇ、熟成発酵することによりぃ、強烈なアンモニア臭を発するのねぇ」
「オシッコを喰らう高校生……なかなか見物だな」
あくまでホンオ・フェだろ、何て言い方するんだ、この教師。
「でもザキミヤ先生ぇ、アンモニアが強い食品ってぇ、日本ではダメなんじゃなかったんですかぁん」
「さすが桜、分かってるな。確かにアンモニアが強く含まれる食品は、日本じゃ発売停止処分となる。しかし私は独自ルートがあるからな、安心しろ、大丈夫だ」
「じゃあ安心ねぇん」
とザキミヤと桜さんの会話。
いや!
「全然安心しねぇわ! 不安が増すだけの台詞だわっ!」
「でも宮崎先生のおかげで味わえるなんて、私、嬉しいですっ」
優しく微笑むユッキーは今日も可愛いな。でも普通の世界で出会いたかったな、この笑顔には。
このアンモニア臭の世界では出会いたくなかったな。
と思っていると、ザキミヤが不意に、
「というわけでコウ、アンモニア臭に触発されてパンツ脱いでオシッコ出すなよ」
「パンツ脱がねぇよ! 脱いだことねぇだろ! 俺!」
そこに桜さんもワルノリする。
「でもぉ、コウのオシッコでホンオ・フェを流し込むのもオツかもぉん」
「どんな冗談ですか! 桜さん! もうそれは勘弁してほしいレベルの冗談ですよ!」
「フフフぅーッ」
と怪しく笑いながら、俺の耳に息を吹きかけてきた桜さん、いやいや何なんだよ、もう!
そんな俺をじっと見ているユッキー、いやいや、全然反応していないから、全然耳に息を吹きかけられても反応していないんだから、そんなに見るな、ユッキー。
ユッキーは何故かちょっと不満そうな顔をし、口をへの字に曲げ、
「じゃあ私が最初にいただきます!」
とちょっと怒った口調で、ホンオ・フェが入った瓶に手を掛けた。
そして開けた瞬間、一気にアンモニア臭が教室中に広まった。
「んんんんんっ、ぁぁあああああっ」
アンモニア臭特有の、鼻への激痛にユッキーが襲われたようで、いつものクサがる声とはまた別の声をあげた。
その反応を見て、ザキミヤが身を乗り出し、大興奮し始めた。
桜さんは仰け反ったユッキーに反するように、ホンオ・フェが入った瓶に近付き、さっきのユッキーと同じような声をあげて、仰け反った。
「コウくん……これ……すごい……コウくん……」
いちいち名前を呼ぶな! すごいって、何か俺がすごいみたいに言うな! 変な気分になるだろ!
先に慣れたのは、やはり先に激痛を浴びたユッキーのほうで、割り箸でホンオ・フェを持ち上げ、少しコチュジャンに付けてから、口の中に入れた。
「んっ、んっ、んっ、ぁぁああっ……」
ユッキーのこの変な声にはいつも慣れない、というかいいのか、これ。
「ぁ、ぁっ、熱い……」
……熱い?
「口の中が……熱い……」
「コチュジャンを付けすぎたのか?」
と一応聞いたが、俺が見たうちではコチュジャンを付けすぎているようには一切見えなかった。
むしろ付けなさすぎだろと思ったから。
「熱いの……コウくんの……熱い……」
いや俺のではないだろ、”の”を言うタイミング間違ってるだろ。
というかこっちを見ながら言うな、こっちを見ながら俺のが熱いって言うな。
「熱い……」
「いや大丈夫か、ユッキー、どうしたんだ? というかザキミヤ、これどういう状況なの?」
とザキミヤに振ると、また鼻高々にして喋り出した。
「科学だよ、科学!」
「科学?」
「ホンオ・フェはアンモニアが強いだろ。アンモニアが唾液の水分に溶け、水酸化アンモニウムに変化し、溶解熱が出てるんだよ」
「溶解熱ぅ!」
そう桜さんが叫ぶと、急いでホンオ・フェを口の中に放り込み、その匂いと熱さを楽しんだ。
「いやいや溶解熱って、大丈夫なのか、それ……?」
俺はおそるおそるザキミヤに聞くと、
「まあ韓国ではきちんと売られている食品だし、ギリギリ大丈夫だろ」
「ギリギリ……」
そう会話している間にも、どんどん顔が赤くなっていくユッキーと桜さん。
その顔が妙に艶っぽく、俺も顔が熱くなってしまった。