第二十話
「さて,こいつらの死体どう処理する?スペクタ。」
マルとバツの死体の間で,ケルンはスペクタに尋ねた。
スペクタは,足元のマルの亡骸を見つめる。
「・・・埋めてやろう。麓の森にでも。」
「麓の森に埋める,かぁー。それもいいけどよぉ,めんどくさくねぇか?ただでさえ業務時間外なのに。」
バツの亡骸に歩み寄っていくケルン。
「じゃあケルンはどうしたいんだよ。」
「俺は食いたい。」
ケルンは,バツの亡骸の側でしゃがみ,言い放った。
「食う?サイコパスかよお前。」
「いや,どちらかというとソシオパスじゃね?・・・まぁでもマジな話さ,食って身体の一部にするのが,こいつらにとっての一番の供養になるんじゃねぇか?森に埋めたとしても,他の生き物に食い荒らされるのがオチだしさぁ。」
「・・・まぁ,分からなくもないが。」
「そうだろう?流石はスペクタだ。そんじゃ,俺は食うぜ。まずバツから食う。結構気に入ってたからな,こいつのこと。」
(気に入ってた奴から食うのかよ。)
スペクタは,ケルンの言動に若干引く。
「ここで食うのか?」
「たりめぇよ。やっぱ新鮮なうちに喰った方が上手いだろうしな。スペクタって火の魔法使えたっけ?」
「いや,土の魔法だけだ。」
「えっ,まじ?珍しいな。」
「まぁな。幼少期はよくいじめられたよ。」
「・・・そうか。そんじゃ仕方ねぇ,お前の分まで俺が焼いてやるよ。・・・とりあえず,服をはがして,この服を火種にするかな。おっ,そばにイイ感じの石発見。この石の上に肉を乗っけて焼くか。いやぁー楽しみだなぁー,どんな味するんだろう。」
「・・・。」
はしゃぐケルンの背中を見て,スペクタは小さくため息をする。
(バツ,マル,今までありがとな・・・。)
おもむろにマルが立ち上がった。
「・・・。」
スペクタは,マルを凝視する。驚きすぎて反応ができない。
(・・・本当に治ってる。ってやべっ!?今はッ─)
マルは,無意識に立ち上がり,自身の顔が無事なことを右手で触って確かめた後,ふいに周りに敵がいる状況であることを思い出し,声のする方を振り向く。
「あいつ,何やって・・・」
振り向いた瞬間目に映ったのは,バツの亡骸から服を乱暴に引きはがそうとしているケルンだった。
さきほどまで焦りに覆われていたマルの心は,一瞬にして怒りと憎悪に包まれる。
─マル,剣化と唱えろ。
アルフレートの声が,脳内に直接響いた。それは初めての出来事であり,普段なら驚いてすぐに対応することなどできなかっただろう。しかし,マルはそのことに驚かない。ケルンへの怒りでそれどころではない。
「剣化。」
その瞬間,マルの両腕が黒く固くなり,ロングソードのような形状になる。
─いけ。
ドッ
アルフレートの一言が聞こえるやいなや,マルは強く地面を蹴り,ケルンに向かって一直線に距離を詰める。突風のようなその速さは,とても人間の子どもが出せる速度ではない。
ここにきてようやく,スペクタは我に返り,ケルンの危険を察知する。
「ケルンッ!!避け─
「えっ?」
スパンッ
ケルンが振り向いた瞬間,ケルンの頭が吹っ飛んだ。
ブシューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
月明かりのもと,赤い噴水がケルンの首の付け根から湧き上がる。
スペクタはその様子を,信じられない物をみるような顔で見ていた。
ぽたっ,ぽたっ・・・
赤い水滴が,マルの右手をつたって地面に落ちている。
「・・・これが,殺すってことなんだな。」
マルは,剣化した右手ごしに味わった肉を裂く感触の余韻に浸りながら,スペクタの方をゆっくりと振り返った。
「お前は,何者だ。」
「俺はマルだよ。スペクタさん。」
マルは,スペクタにも構える。
「・・・そうか。」
(─土の鎧)
スペクタの足元から岩の地表が剥がれていき,スペクタの全身に纏わりついていく。
スペクタは,今何が起こっているのか理解できていない。だが,こちらに敵意を向けている人物が,さきほど殺したはずのマル本人であることだけは,魂で理解している。
「こい。」
スペクタは,覚悟を決めた目つきでマルを見る。
─行け。
ドッ
マルはアルフレートの声を聞き,強く地面を蹴った。
夜風よりもさらに速い速度で向かってくるマル。
一瞬でスペクタとの距離が縮んでいく。
(─土の剣ッ!!)
突如,マルの目の前の地面が盛り上がり,白い岩の地表でできた先のとがったするどい槍が,マルを襲う。
驚くマル。
─突っ込め
アルフレートの声に,マルは瞬時に覚悟を決め,迷わず踏み込み加速。
右腕で伸びてきた土の剣を薙ぎ払って粉砕し,左腕でスペクタの身体を土の鎧ごと貫いた。
「・・・ぐふッ」
ブシューーーーーーーーーーー・・・・
スペクタは血を吐き,裂けたわき腹から血を撒き散らしながら,膝からその場に崩れ落ちる。
土の鎧が,スペクタの身体から剥がれ落ちていく。
─解除と唱えろ
「解除・・・。」
その瞬間,マルの両腕はやわらかく変化していき,もとの形へと戻った。
マルは,左手を胸の位置まで挙げる。
スペクタの脇腹を裂いた時に感じた肉の感触の余韻が,まだ残っている。
「・・・いやだな,この感触。」
─どうした。後悔してるのか?
「いや,後悔はしてねぇよ。ただ・・・」
マルは振り返り,倒れたスペクタを見つめる。
今でもわき腹から血を地面に垂れ流し続けているスペクタは,薄っすら笑みを浮かべて,目を閉じていた。
「・・・。」
心は軽くなってる。でも,黒いしこりが残り続けてる。取り返しのつかないことを俺はしたんだっていう感覚がある。
「ただ・・・もう二度と,こんな目には会いたくねぇな。」




