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烈海の艨艟  作者: 鳴木疎水
星墜の凱歌
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ロスアラモス強襲

 昭和19年3月に連合国に反旗を翻したメキシコ合衆国は、国内の米軍基地を制圧した後枢軸同盟軍が侵攻したテキサス州の一部を除くカリフォルニア州など合衆国領土と国境を接する一帯に軍を配備し米軍の侵攻に備えた。

 その後枢軸軍の戦力増強により米墨国境地帯への枢軸部隊の配備も行われたが、枢軸米国双方がそれぞれの事情で国境地帯での戦闘を回避したため、国境一帯は小規模な戦闘こそ頻発するものの4ヶ月近く双方の軍がにらみ合ったままの状態が続いていた。

 メキシコ軍は枢軸軍のテキサス侵攻に際し、戦後を見据えて占領地の治安維持のための部隊を派遣し影響力の拡大を図っている。

 6月の枢軸海空部隊による北米東海岸強襲作戦の成功により今次大戦の趨勢は枢軸側の勝利で揺るぎないものとなると、メキシコ政府はかつて米国に奪われた領土の回復を図り、6月末リオグランデ川を渡りテキサス州への侵攻を開始した。


 7月20日にヒトラー総統が暗殺されクーデターによりナチス政権が打倒された影響は、北米での戦争にも及んでいた。

 武装親衛隊SS師団の大半が北米戦に投入されていたため、欧州におけるナチス党勢力の排除は多少の混乱こそあったものの順調に進んだ一方、北米の独軍は相互の不信感から米軍との戦闘そっちのけで国防軍麾下の師団とSS師団が睨み合う形となりその進撃は停止してしまった。

 対する米軍も多数の軍高官が合衆国政府により逮捕拘束されたことや、前線での補給物資の不足などにより軍全体の士気が低下しており、双方ともに戦意は低く各戦線での戦闘は散発的なものとなっていた。

 北米には日独軍の外、枢軸同盟各国の軍が派兵されていたが、いずれの軍も自国の利害が余り絡まない遠く離れた場所での戦争のため積極的に戦う姿勢が見られなかった。

 日本軍はそんな状況の中で、北米に満州国軍や朝鮮台湾の志願兵で編成された師団を多数送り込んで占領地の治安にあたらせ、前線に大兵力を張り付けて占領地の拡大を続けていた。

 

 7月20日カリフォルニア湾湾口で、大西洋からホーン岬を経由して太平洋に戻った20隻近い航空母艦を擁する第一航空艦隊とトラックで編成されマーシャル諸島メジュロ環礁を経由地に太平洋を横断した上陸船団が邂逅する。

 上陸船団は護衛艦艇と合わせて80隻余りの艦船で編成され、2個連合陸戦隊と1個陸軍機動師団等5万の兵に加え大量の戦闘車両や輸送車両、補給物資を積載していた。

 同月22日、カリフォルニア半島沿いに太平洋を北上した一航艦は、カリフォルニア州サンディエゴ一帯を攻撃し同方面の制空権を奪取、続いて上陸船団のカリフォルニア湾最奥部での上陸の援護に入った。

 上陸部隊はメキシコ軍と共にアメリカ領インペリアルバレー一帯を確保すると戦力を東方に向け、アリゾナ州ユマを制圧、さらに同州フェニックスへと侵攻を続けた。

 米軍はメキシコ西海岸での日本軍増派の兆候を掴んでおらず、突然の日本軍の攻勢に対応が遅れて殆んど反撃できないままその侵攻を許してしまう。

 西海岸の米軍は急遽カリフォルニア州南部の戦力を糾合してインペリアルバレーに向かわせるとともに、アリゾナ州とニューメキシコ州に配備されていた部隊をフェニックス防衛のため移動させた。


 7月25日、テキサス州エル・パソでリオグランデ川をはさんでメキシコ軍部隊と対峙していた師団規模の米軍守備隊は、突如早朝から開始された激しい砲爆撃により指揮系統が壊乱する。

 その混乱の中、米軍は戦車部隊を先頭にした日本軍による渡河攻撃を受ける。

 突然現れた日本軍の大部隊は米軍守備隊を圧倒、米軍が河岸沿いに構築していた防御陣地は次々と突破され防衛線は各所で寸断、米軍守備隊は総崩れとなり同日中にエル・パソ市街から退却敗走した。


            


 昭和19年5月に米国で起こった講和派の政治家や軍将官に対する弾圧の際に、難を逃れカナダに亡命した政府高官のうちの一人が、政府間交渉のためマニトバ州ウィニペグに滞在していた日本の外交官との接触を求めた。

 その政府高官と面談した外交官はもたらされた情報の重大性を認識し、米政府高官の身柄をシアトルの北米総軍司令部で保護するとともに、軍諜報関係者と物理学者のカナダへの派遣を要請する。

 6月初め、北米に配備された最新型の高高度偵察機による北米南西部方面への飛行が頻繁に繰り返された。

 同月中、中島飛行機小泉製作所に対し、三式大攻連山の製造ラインの改修が海軍航空本部の指示により急遽実施される。

 この改修によって40機余りの連山が爆撃機から輸送機に改造され、そのすべてが7月中に北米に送られた。


 ルーズベルトに代わって大統領に就任したウォレス率いるアメリカ合衆国が枢軸同盟に対し無条件降伏を受諾した8月6日、日本軍によって占領されていたエル・パソ米陸軍飛行場には、太平洋から飛来してきた300機を超える一航艦の飛行隊が列線を成し出撃の時を待っていた。

 ニューメキシコ州に侵攻していた日本軍部隊はリオグランデ川沿いに国道25号を北上し、この日までに同州最大の都市であるアルバカーキの南方60キロにまで迫っていた。

 ニューメキシコ州政府は合衆国の降伏に従わず、カリフォルニアの合衆国臨時政府への合流を発表し枢軸同盟と敵対する道を選んだ。

 8月8日に実施された一航艦所属機による攻撃でニューメキシコ州各所の米軍航空部隊は壊滅し、同州の制空権は日本軍の手に落ちる。


 昭和19年8月9日早朝、主力の重爆撃機隊がカナダに移動したため航空部隊の中継拠点となっていたモンタナ州ビリングスの海軍航空基地にかつての喧騒が戻っていた。

 80機の連山と40機の連山改造の輸送機及び二式陸攻鋭山に曳航された60機のグライダーがビリングスから出撃した1時間後、ワイオミング州のシェリダン基地からは震電複座型64機が出撃、両部隊はそれぞれニューメキシコ州都サンタフェに向かって飛行する。

 震電部隊とエル・パソから出撃した一航艦の航空隊がサンタフェ周辺の制空権を確保した後、鋭山から切り離されたグライダーがサンタフェの市営空港と陸軍飛行場とその周辺に強行着陸、搭乗していた800名を超える海軍陸戦隊空挺部隊によって二か所の飛行場は制圧された。

 ふたつの飛行場は迅速に復旧され、後続する陸海軍の輸送機部隊が増援の陸兵や補給物資を降ろしていった。


 サンタフェの飛行場が日本軍により制圧された同時刻、輸送型連山40機から空挺降下した陸軍降下兵1500名がサンタフェ近郊ロスアラモスにある国立研究所を襲撃、同研究所を守備する米陸軍部隊2個中隊との間で戦闘となった。

 研究所を守っていた米兵は練度の高い精兵だったが、戦力差は1対3と劣勢でしかも航空支援を受ける日本軍相手では如何ともし難く、守備隊は2時間余りの戦闘の後日本軍に降伏した。

 日本軍は研究所のほぼ全周を包囲していたため、脱出できた研究員や兵士は皆無で、生存者はすべて日本軍に拘束された。


 アルバカーキ市防衛に主力部隊の殆んどを投入していた米軍は、日本軍のサンタフェ、ロスアラモス強襲に対して打つ手がなかった。

 州都サンタフェが占領され腹背に日本軍を抱える形となったアルバカーキの米軍は、8月11日それ以上の抵抗を断念し日本軍に降伏した。

 ニューメキシコの米軍が日本軍に降伏したその日、州都サンタフェの北方を戦闘機6機を伴って西に向け飛行していた2機の大型爆撃機が日本軍機の迎撃を受け、3機の戦闘機を除く全機が撃墜された。


 

 


 

長くなったのに纏まらなかった。次回で本編終わります。

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