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烈海の艨艟  作者: 鳴木疎水
星墜の凱歌
93/99

V-1 typeⅢ

 昭和19年4月8日、枢軸国と全ての英連邦諸国及び英国植民地との間で停戦協定を締結、同日より正式に戦闘が停止する。

 この時点で英国及び英連邦諸国は米国との間で結ばれていた大西洋憲章を破棄するとともに、対枢軸戦争遂行のために締結されていたすべての協約は無効化された。

 同月18日よりスイス連邦ベルンで、両陣営交渉団による講和条約締結のための交渉が始まった。

 英国王室の確保を巡ってカナダと米国の間に起こった軍事衝突は、英王室のバンクーバーへの脱出が明らかになったのち米軍が戦闘部隊をカナダから引き上げたことによって沈静化する。

 しかし米加両軍は五大湖水路からセント・ローレンス水路にかけての米加国境地帯で対峙、一触即発の緊張状態を続ける。


 シカゴが日本軍の爆撃部隊による空襲を受けた2日後、枢軸国と英連邦間の講和交渉が成立、講和条約が発効する。

 英連邦は正式に枢軸同盟に降伏し、英連邦軍は枢軸国占領部隊の進駐を待って武装解除、英国王室と英連邦各国政府の統治体制は存続が認められる。

 英国植民地は全て英国の統治から離れ枢軸各国に分割移譲されることになったが、当面は現在の英国植民地政府による統治を継続する。

 戦時賠償については交渉を継続、戦争責任の追及と戦争犯罪は枢軸国によって司法の場において裁かれることとなったが、対米戦争が継続しているため戦争終結の後開廷するよう定められた。

 

 5月14日の枢軸英連邦講和条約締結により枢軸軍はカナダ領内での軍部隊の移動が可能となった。

 カナダが枢軸同盟に降伏したことにより五大湖から米国東海岸へ向かう水路が遮断されたため、五大湖一帯の工業製品や一次産品の輸送が麻痺状態に陥り、米国の生産力は急速に悪化し総力戦体制は崩壊へと向かう。

 この状況において米国内の講和推進派は勢いを増し、米議会は抗戦を主導する大統領の弾劾へと動き出す。

 米国大統領は両院の大統領弾劾を主導する主要な議員に対し国家反逆罪を適用し逮捕拘束、更に要職にある講和派の軍将官達を罷免する。

 米加国境でカナダ軍と対峙していた陸軍部隊はカナダ領への侵攻を開始し、五大湖水路とセント・ローレンス水路の確保、五大湖周辺のトロント、オタワ、モントリオール、ケベックの制圧によるカナダ政府機能の停止を図った。

 五大湖方面の米加国境地帯での都市と水路を巡る戦闘は、当初兵力と装備で優る米軍の優勢で始まった。

 カナダ軍は講和条約が締結されたことにより、西部域で日本軍と対峙していた戦力を五大湖方面への増援として送り込む。

 短期戦でカナダの中枢部を一気に攻め落とそうとしていた米軍は、この増援によりカナダ軍を攻めきれないまま戦力を消耗し戦線は膠着状態に陥った。

 

 米国中西部に向け侵攻を続ける日本軍はノースダコタ、サウスダコタに本格侵攻を開始、同時にファーゴやミネアポリスなど中西部の主要都市への戦略爆撃を始める。

 ルイジアナ州で米軍と対峙していた枢軸同盟軍は、ニューオーリンズを占領しミシシッピ河口部を確保すると、舟艇機動戦によりミシシッピ両岸の要地を次々と攻略、レッド川に沿って築かれた米軍の防衛線を迂回し防衛線の後方に戦力を展開した。

 この枢軸軍の戦術機動の結果、後背からの攻撃を恐れた米軍はレッド川の防衛線を捨てメンフィス方面に退却する。

 

 米軍は各方面の戦線に戦力を分断され追い詰められていた。

 東海岸の長大な海岸線の各所は、正規軍の不足によりその防衛の大半は州兵により担われていた。

 陸軍部隊は沿岸部での消耗を恐れ内陸部に配備され、枢軸軍の上陸に備えていた。

 米軍の航空戦力は正面からの枢軸侵攻艦隊と戦闘によって回復不能の損害を受けることを恐れ、主要な部隊の殆んどを海岸線から100キロ以上内陸の航空基地に配置し、沿岸部での枢軸航空戦力の迎撃と上陸部隊への攻撃を行う水際撃滅戦術を採用する。


 昭和19年6月5日現地時間午前5時、ニューヨーク沖350キロには、600隻近い枢軸同盟艦隊の艨艟が集結していた。

 各国の航空母艦が搭載する艦載機の総数は3000機を超え、史上最大の洋上航空戦力は解き放たれるその時を満を持して待っていた。


 各国艦隊の空母が舳先を並べるその後方に、甲板に30メートルほどの鉄骨トラス構造のカタパルトを2列8基、カタパルト1基ごとにデリックを備えた一見水上機母艦に見える40隻近い艦船が、3群に分かれ護衛の艦艇と編隊を組んで航行していた。

 カタパルトに乗せられていたのは、英本土上陸作戦の際に使用されたV1号(Fi 103)を大型化し航続距離を延伸し艦船搭載型飛行爆弾に改良したV1号Ⅲ型(Fi105) で、弾頭重量1トン、最大速度640キロ、飛行距離はⅠ型の約1.7倍の420キロに及んでいた。

 回天型航空母艦を母体としてドイツ海軍により建造されたこの洋上V1号発射艦の艦種は飛行爆弾母艦とされ、発射重量約3トンのV1号Ⅲ型を64基搭載、1基当たりの射出所要時間は最速20分で、全弾発射に最短2時間40分を必要としている。

 日本海軍も同種の墳進弾母艦を建造中の安土型空母を改造して12隻を完成させ、ドイツから完成品のV1号Ⅲ型の移譲を受けて搭載し米東海岸強襲艦隊に加えている。

 

 時計の針が5時を回ったところで、空母機動部隊から次々と攻撃部隊が発艦を始めニューヨークに向けて編隊を組む。

 その30分後、母艦からV1号Ⅲ型の射出が始まる。

 発射が終わったカタパルトは直ちに点検整備され、異常が無ければ圧搾空気が再充填され、その作業の間に台車に乗せてエレベーターによって運び上げられた機体に燃料が充填される。

 発射からデリックで台車から吊り上げられた次弾がカタパルトに装着され射出準備が完了するまで、熟練技術兵を以てしても20分を必要とする工程は、母艦が全弾を打ち尽くすまで延々と続けられていく。


 ジャイロスコープによってニューヨーク市に進路を定められたV1号Ⅲ型の最初の1基が、エンジンを停止させ市街に急降下を始めた午前7時10分、ニューヨークの東の空は1000機を超える枢軸軍艦載機によって埋め尽くされていた。

お待たせしました。

この回、書くの大変だろうなって、なかなか進まなくって、何とか書き終わったけど本当に大変でした。

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