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烈海の艨艟  作者: 鳴木疎水
烈海の波濤
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南溟の戦雲

南溟の戦雲


 太平洋での戦争が始まって早々に日本軍の奇襲攻撃によりハワイの太平洋艦隊主力戦艦が壊滅、更にパナマ運河が破壊され北米東西間の交易コストが跳ね上がるという、軍事経済両面での大打撃がアメリカ合衆国を襲った。

 さらに日本軍は二つの奇襲攻撃の間に通り魔の如く2隻のアメリカ軍空母を撃沈し、太平洋艦隊が日本軍空母部隊に対抗するための貴重な手駒まで奪っていた。

 この時点でアジア艦隊に所属する2隻の戦艦を呼び戻すことは、連合国間の信頼関係を崩しかねないの叶わなかった。

 アジア方面に残置された戦艦2隻も、蘭印防衛戦の最終局面で起こったバリ島沖海戦で失われてしまう。

 大西洋艦隊からの増援が運河不通の為早急には望めない現状、太平洋艦隊が自由に動かせる艦艇は2隻のレキシントン級空母と巡洋艦数隻、あとは駆逐艦や潜水艦といった小型艦艇しかなかった。


 更迭された前任者に代わり新たに太平洋艦隊の司令官となったニミッツ大将がまず手掛けたのは、潜水艦戦力のアジアからの撤収だった。

 アジア艦隊に所属していた多数の潜水艦は、日本軍がマニラの魚雷貯蔵庫を爆破したため遊兵となり、アジア方面の戦局に影響を与えることは無かった。

 ハワイで再編された潜水艦戦力は、日本艦隊の監視の為太平洋各所の哨戒任務につく。


 日本艦隊の動静を探ったうえで太平洋艦隊が取った次の一手は、高速艦艇で編成された空母機動部隊による限定攻勢だった。

 ウェーク島やギルバート諸島といった孤立した島嶼部の日本軍に対して空母航空兵力をもって一撃離脱戦を仕掛け、日本軍をその対応で振りまわし疲弊させることを目的としていた。

 それと同時この作戦によって戦果を挙げることで、負け戦続きで下がっていた太平洋艦隊の士気を高めることも狙っていた。


 アメリカ軍の思惑など何も関係ないかのごとく、日本軍の攻勢は留まる処を知らなかった。

 マレー半島、シンガポール、フィリピンと破竹の勢いで占領を続ける日本軍は、蘭印の戦いでABDA艦隊を撃滅、驚くべき速さで東南アジア資源地帯のほとんどを手中に収めていた。

 アメリカは日本軍の矛先が東太平洋に向かい、ハワイや米本土が標的とされることを恐れ太平洋の防備を固めたが、その予測は外れ日本の空母機動部隊はインド洋を席捲し、要衝セイロン島が日本軍の手に落ちた。

 インド洋の制海権を失い海上交通が寸断され悲鳴を上げるイギリスに追い打ちをかけるように、日本軍が4月に入って新たな攻勢の準備に入ったことを連合軍の情報機関は察知した。

 マダガスカル島、この島に日本軍が進出するとインド洋の海上交通は完全に遮断されることになり、イギリスの戦争経済は早期に破綻してしまうことが予測された。


 日本軍のマダガスカル進出を阻止するため、連合軍が先制して同島を占領することが図られた。

 しかし日本軍が総力を挙げてマダガスカル奪還に動いた場合、太平洋大西洋の英米主力艦艇を結集しない限りその阻止は難しいとされ、連合軍によるマダガスカル島攻略は見送られる。

 連合軍にとって憂慮すべき問題は、インド洋の日本海軍だけではなかった。

 日本軍への対応で各戦域の連合軍海上戦力をインド洋に集中した場合、未だ有力な艦隊を持つ独伊海軍はフリーハンドを手にする。

 大西洋航路、援ソ船団、マルタ島、どれ一つとっても手を抜けない戦場から、多くの戦力を引き抜くことは到底不可能だった。

 それどころか連合軍戦力がマダガスカルに囚われている間に日本軍がその強大な戦力を東太平洋に向けた場合、戦争の行く末さえ左右する事態になる恐れさえある。

 日本軍がマダガスカルに来る前にその戦力の矛先を変え別の戦場に誘引すること、それが目前に迫っている危機的状況を回避する可能性がある唯一の選択であることは明らかだった。


 昭和17年4月18日、第18任務部隊と第16任務部隊の3隻のアメリカ軍空母は2隻の戦艦と6隻の巡洋艦、15隻の駆逐艦とともに、ビスマーク諸島ニューブリテン島南東350キロのソロモン海に進出、南太平洋の日本軍拠点ラバウルに向け2波210機を超える攻撃部隊を出撃させた。


 


 

 

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