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烈海の艨艟  作者: 鳴木疎水
動乱の兆星
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第一航空艦隊1

第一航空艦隊


 昭和14年8月、日本海軍は上海方面の中国軍に対し連合艦隊に所属する3個航空戦隊の集中運用による大規模航空作戦を行った。

 その結果、数箇所の航空基地への分散配備されていたものの数的に優勢だった中国軍航空隊に一撃で大打撃を与え、日本軍は上海方面での制空権の確保に成功する。

 この作戦に参加した空母は5隻、母艦航空隊の総機数は240を数えた。

 5隻の空母の飛行部隊を擁し特設航空艦隊と名付けられた艦隊の統一指揮は、前年に大改装を終え艦容を一変した大型空母赤城に座乗する第一航空戦隊司令部が兼任した。


 上海での母艦航空隊の集中運用は、上海方面の中国軍航空部隊に壊滅的損害を与える戦果を挙げた。

 作戦中に艦隊から飛び立った延べ900機の艦載機は、上海居留民退避作戦の期間中上海周辺の6箇所の航空基地に展開する中国軍航空戦力をほぼ無力化し、300機近い中国軍機を撃墜もしくは地上で破壊している。

 母艦飛行隊は中国軍地上部隊に対しても銃爆撃を繰り返し、中国軍の日本租界への侵攻を遅らせ避難のための時間を稼ぎ出した。

 特設航空艦隊は上海一帯の制空権を確保し続け、退避作戦への参加艦船が一隻も欠けることなく避難民を日本と台湾に送り届ける任務を果たすことを可能とした。


 上海退却戦で母艦航空隊が挙げた赫々たる成果は、海軍内における航空主兵派の主導権獲得への大きな推進力になった。

 漸減作戦に代わり海軍の主戦術として新たに採用されていた超重雷邀撃戦術を、航空母艦航空隊を主戦力とする航空戦による艦隊決戦へと変革すべく、航空主兵派が邁進する。

 彼らの主張は『大量の空母を中心とした艦隊による圧倒的航空優勢の下、航空攻撃によって米国艦隊との艦隊決戦に勝利する』。

 決戦打撃戦力を艦載機とし、航空母艦の周囲を強力な対空砲火を持つ戦艦や巡洋艦と駆逐艦で守る新しい形の艦隊が生まれようとしていた。


 上海上空での戦いを勝利に導いた空母部隊だったが、その一方でいくつかの問題点も浮かび上がっていた。

 第一に、艦隊の指揮系統に問題があった。

 上海退避作戦の支援で出撃した特設航空艦隊は、各艦隊から抽出された3個航空戦隊の空母と各航空戦隊に随伴するそれぞれ2~3隻の駆逐艦で編成されていた。

 それに加えて第二艦隊から護衛部隊として、巡洋艦戦隊である第四戦隊と第二水雷戦隊が臨時に編入されていた。

 3個航空戦隊は一航戦に置かれた特設航空艦隊司令部によって統一指揮されていたが、四戦隊と二水戦は第二艦隊で上席になる四戦隊司令部の指揮下にあった。

 空母部隊と第二艦隊に所属する四戦隊、二水戦はそれぞれ司令部が別で、統一した指揮ができない状況だった。

 艦隊行動については司令部同士でのすり合わせができてはいたが、咄嗟に敵艦隊と砲撃戦距離で遭遇した場合、それぞれが連携を欠いた独自行動をとる可能性があった。


 第2に、航空機の損耗が予想されていたよりも甚大だったことが問題視された。

 約1週間に亘って続けられた作戦において、事故や機体の故障による損耗が戦闘による損害をはるかに上回り、艦隊所属機の稼働数が大きく落ち込んでしまった。

 作戦終了時の稼働機は、ほとんどの予備機を投入してなお90機ほどしか残っていなかった。 

 加えて搭乗員の死傷者も、戦闘に起因するものより事故や故障に起因する方が上回っていた。

 海軍が事変後に特設航空艦隊の一連の戦闘を分析した研究から、長期にわたって連続した戦闘による搭乗員や整備員の疲労が搭乗員の消耗の一因とされている。


 また参加航空機の損失要因として、燃料漕の被弾損傷による火災発生と被弾箇所からの燃料漏れによる燃料切れでの墜落や不時着が数多く見られた。

 それに加えて空中戦、地上攻撃を問わず、戦闘中に搭乗員が被弾により多くの死傷を出したことも問題視された。

 これらの損害は艦載機の採用年度に関わらず発生しており、現状運用されている艦載機共通の問題と看做された。

 海軍航空隊は上海航空戦で得た戦訓を元に、海軍機の防御について大幅な見直しを行い、開発中の航空機はもとより現用中の機種についても防御力の改良を行った。

 その最大の改良点は操縦席の防弾化で、操縦席周囲に防弾装甲を施すとともに、風防に防弾ガラスを採用した。

 燃料漕についても一部に防弾装甲を施したほか、防弾ゴムを燃料漕の内側に張り燃料漏れを防止することとした。

 そのほか九六式艦爆の爆弾搭載量不足と、九七式艦攻に較べ短い航続距離のため遠距離攻撃での連携が取り辛いことが問題視される。

 この問題は当時開発がほぼ終わっていた九九式艦爆でも改善されていないため、九九式艦爆は正式採用後に大幅な設計変更による改良を受けることになった。

 当時の海軍機の主力兵装であった7,7ミリ機銃の威力不足についても、改善の声が多く上がった。

 艦上戦闘機においては一二試艦戦で主兵装に20ミリ機銃の採用が決まっていたため問題は無かったが、副兵装の13ミリ機銃への変更、さらに艦爆や艦攻、陸攻の機銃の13ミリ機銃への換装が図られた。


 上海航空戦では艦載機以外にも陸上機の九六式陸攻が、台湾や九州から長駆上海を始めとした中国沿岸部への攻撃を行っている。

 その当時陸攻による長距離攻撃に護衛として随伴できる戦闘機が日本海軍には存在しなかったため、母艦機の援護があった場合を除いて中国軍戦闘機の迎撃で多数の損害を出している。

 これについては次期主力艦戦の航続距離が長大なことから陸攻の直掩に対応できるとされたが、将来的な多発爆撃機の航続距離の一層の延伸が見込まれることから、空中給油等の抜本的な対策による戦闘機の長距離戦闘への対応が進められていくことになる。


 


 

 


 


 

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