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烈海の艨艟  作者: 鳴木疎水
動乱の兆星
30/99

航空主兵

航空主兵


 上海の空が日本の空母航空隊に蹂躙される前日、上海上空に機体を黒塗りにした国籍表示のない航空機が飛来し、上空を警戒していた中国軍戦闘機が迎撃に向かったことが何度かあった。

 飛来した機体は高速を発揮し、追跡を試みた戦闘機はことごとく振り切られ逃走を許してしまった。

 この航空機は当時日本海軍が開発中で翌年に零式艦上偵察機として正式採用された12試艦上偵察機の増加試作機で、実用試験のため軽空母瑞穂に搭載されていた機体だった。


 昭和12年9月、第2次上海事変で試用された中島製九七式艦偵は良好な結果を残したが、戦闘機の高速化が進む中最大速度380キロでは敵戦闘機に捕捉される可能性が高いとされ、偵察完遂と搭乗員の生存確保のため同機の速力増大が図られる。 

 しかし九七式艦攻よりも小型な九七式艦偵ではより強力な発動機への換装は難しく、更に固定脚であるため馬力増大ができても空気抵抗のため大幅な速度増加は望めないとして、翌13年に三菱と中島に対して新たな艦上偵察機の試作が内示された。 

 中島の設計陣は97式艦攻の生産と改良の為新機体開発まで手が回らずこれを辞退したため、三菱一社がこの試作を受注した。 

 三菱はこの試作機を開発するにあたり、当時同社で少数生産されていた固定脚の九七式2号艦上攻撃機をベースに大幅に改良を加え設計した。 

 機体の軽量化を計るとともに主翼を再設計し固定脚を引き込み脚に変更、風洞実験を繰り返し空力的に洗練された機体は、改良された1,100馬力の金星発動機を積み最高速度は最新戦闘機並みの510キロを発揮した。

 インテグラルタンクを採用し燃料容積を増加させ巡航速度330キロで航続距離は2,800キロに達している。


 海軍は将来的に戦艦や巡洋艦といった戦闘艦から航空機運用の廃止を既定方針としたため、航空母艦で運用する艦上偵察機に注力し開発を続けた。

 この方針を定めた理由の一つは航空機の効率的な運用と可燃性の高い航空機とその燃料を無くすことで被弾時の火災被害を局限するためだったが、それ以外にもう一つ重要な視点があった。

 昭和10年代前半においては各国の洋上での艦艇による航空偵察に主に艦載水上偵察機が使用されており、日本海軍も各種水偵を開発し運用していた。

 航空母艦を運用する日米英では艦上爆撃機や雷撃機を偵察に充てることもあり、特に米海軍は艦上爆撃機を偵察に使用することに積極的だった。

 日本海軍は航空母艦の本格的な戦力化が進んでいく中で、水上偵察機の巡航速度の低さを問題視する。

 昭和10年代前半に日本海軍が主力として使用していた九五式水偵の巡航速度は約198キロで航続距離は898キロ、航続距離ぎりぎりまで飛行しても往復4時間で片道400キロの範囲内を偵察するのが精一杯だった。

 これに対し最新型ではあるが零式艦偵は、同じ4時間で660キロ先まで進出して偵察できる。

 同機の航続距離は2800キロあり、進出先での捜索時間を1時間と見込んでも最大1000キロ先の敵まで捜索が可能になる。

 仮に敵対する二つの艦隊間の距離が400キロとして、片方が95式水偵もう一方が零式艦偵を偵察に使用した場合、双方同時に偵察機を発進させると、前者は敵発見までに最短でも2時間かかるが後者の場合は最短1時間と十数分で敵を発見できる。

 結果として後者は前者に対して40分以上の時間的優位を保てることになる。

 実際には双方の航続距離に大きな差があるため、後者は前者の索敵可能距離をアウトレンジして一方的な攻撃も可能になる。 

 

 もはや日本海軍では、水上偵察機の時代は終わりを迎えていた。

 日本海軍は昭和14年の時点で、高速大航続距離の専用艦上偵察機を持つことで敵艦隊に対して圧倒的な優位性を持てることを認識していた。

 すでに地上航空基地に対する空母航空隊の優位性は証明されている。

 日本海軍はその次の段階へとさらに歩を進める。

 航空主兵、日本海軍は来るべき日米の艦隊決戦を、空母機動部隊を主力に戦うことを決断する。







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