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烈海の艨艟  作者: 鳴木疎水
覇者の曙光
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烈海の航跡2

烈海の航跡2 


 第一次世界大戦の勃発にともない日本は日英同盟の盟約に従いドイツに宣戦布告、世界史上未曾有の大戦争に参戦した。

 日本海軍は青島攻略戦、ドイツ東洋艦隊追撃戦、軽巡洋艦エムデン追跡等に参加したが、エムデンの捕捉撃沈とドイツ東洋艦隊の太平洋脱出後はアジア太平洋での行動は仮装巡洋艦の捜索ぐらいしか残っていなかった。

 その一方大西洋では英独艦隊の対峙が続くと共に、ドイツの潜水艦による通商破壊戦が猛威を振るい始めていた。


 海軍の一部には大西洋に艦艇を派遣し運用することにより実戦で経験を積み、弩級艦を主力とする新世代の海戦への対応を研究しようとする動きがあった。

 その中心にいたのは日露戦争終了後いち早く整備が続けられていた駆逐艦を主力とする水雷打撃戦力を持って艦隊戦における主力艦の劣勢を補う戦術構想の支持者達だった。

 新たな戦力区分として誕生したばかりの水雷戦隊の実力は未知数であり、主力艦たる弩級艦の隻数において米国に大きく遅れを取っていた日本海軍は、小よく大を屠る水雷戦力の真価を実戦で見極めたいと望んでいた。


 海軍官衙において水面下で進んでいたこの動きは実現に向け急速に支持を拡大し、シュペー提督麾下の東洋艦隊が英国巡戦隊によりフォークランド沖で壊滅した1914年末には早くも日本政府から英国に対して艦艇の派遣について内々の打診がなされている。

 元来英国政府は日本艦隊の大西洋派遣を望んでいたこともあって艦隊の派遣は迅速に進められ、諸々の手続きと長期の航海を経て日本艦隊がスカパフローに碇を下ろしたのは1915年も中盤をすぎた8月だった。


 欧州に派遣された艦艇群は遣欧艦隊と呼ばれることになる。艦艇の内訳は、第一戦隊から分遣された準弩級戦艦摂津・河内、最新型の軽巡洋艦として筑摩型についで建造された綾瀬を旗艦とし各型あわせて12隻の一等駆逐艦で構成された第一水雷戦隊、補給艦3隻の18隻で、第一遣欧艦隊と呼称され艦隊司令部は摂津に置かれた。

 英国海軍はこの派遣艦隊の編成に当時最新鋭だった巡洋戦艦金剛型が含まれていないことを知り、大きく失望したといわれている。

 第一遣欧艦隊に続いてUボートが猛威を振るう地中海にも対潜部隊が派遣され、こちらは第二遣欧艦隊とされた。

 第一遣欧艦隊はスカパフローを根拠地として英国連合艦隊と行動を共にしたが、ドッガーバンク海戦後バルト海に引きこもったドイツ海軍主力と干戈を交えることなく翌年の5月を迎える。


 ユトランド沖で独英海軍の主力艦隊が激突したとき、遣欧艦隊はジェリコー提督の旗下英国戦艦戦隊の一翼を担いこの戦いに参加した。

 ビーティー提督の巡洋戦艦戦隊がヒッパ-提督率いるドイツ巡戦隊の痛撃を浴びているさなか、遣欧艦隊は信号を誤読したものかあたかも戦場で迷子となったかの如く砲火を交える両艦隊の間に割って入り戦闘に参入してしまう。

 ドイツ艦隊の砲火が一時的に摂津と河内に向かったため窮地に陥っていた英国巡戦隊は態勢を立て直し壊滅を逃れたが、その代償として集中砲火を浴びた河内は爆沈する。

 僚艦の摂津もドイツ巡戦隊の猛砲撃により大破したが、水雷戦隊の必死の肉薄雷撃とビーティー巡戦隊の反撃によりドイツ巡戦隊が大きく隊列を乱したためかろうじて戦場を離脱することができた。

 ドイツ艦隊を雷撃すべくドイツ艦隊の猛烈な近接砲火の直中に入り込んだ水雷戦隊の損害も大きく、旗艦綾瀬は突撃をはじめて間もなく多数の中小口径弾を受けて大破、指揮系統を失いよろめくように戦場を離脱した。

 戦闘開始早々旗艦を無力化され統制を失った4個の駆逐隊はそれぞれが単独での襲撃となり、こちらもまた猛烈な防御砲火の中に各艦は次々と無力化されていった。


 この大海戦において日本海軍が上げた戦果は、巡洋戦艦1隻を英国海軍と共同で撃沈と同1隻の大破、駆逐艦2隻の中破だった。

 損害は戦闘中に戦艦河内と駆逐艦3隻を撃沈され喪失、駆逐艦2隻が戦闘後回航不能とされ自沈、戦艦摂津と軽巡綾瀬大破、駆逐艦5隻が大中破という文字通り壊滅的な損害を受けている。

 日本海軍はユトランド沖海戦後に汚名返上とばかり金剛型巡洋戦艦4隻を大西洋に派遣するが、もはや大艦隊が砲火を交える機会は残されていなかった。


 欧州での日本海軍の活動は大きな悔恨と貴重な戦訓を残し、以降の日本海軍の戦略戦術と艦艇設計思想に大きな影響を与えることになった。

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